続続・師走の京都の風物詩!? スター選手が勢揃いの「アスリートワールド学童野球教室」
■第14回アスリートワールド学童野球教室
今年も“師走の京都の風物詩”となった「アスリートワールド学童野球教室」が、京都市のわかさスタジアム京都で開催された。2006年に始まった同教室は回を重ね、今年は14回目となった。
プロ野球12球団のOB、現役合わせて20名を超える選手たちが指導してくれるとあって、今では京都の野球少年少女にとって超人気のイベントで、今年は参加者が600名以上に増えた。
開催された12月1日は好天にも恵まれ、動くと汗ばむくらいの陽気だった。子どもたちは一日中、元気いっぱいに白球を追いかけ、笑顔を弾けさせた。
■ふたりの“ヒーロー”登場に興奮する子どもたち
「アスリートワールド学童野球教室」のスケジュールはこうだ。
まず外野で各チーム、ウォーミングアップを行ったあと、開会式に臨む。
開会式の前に参加アスリートがひとりずつ呼び出され整列するのだが、子どもたちからは大きな拍手で迎えられる。
中心メンバーである京都出身の桧山進次郎氏(スポーツコメンテーター=元阪神タイガース)や波留敏夫コーチ(中日ドラゴンズ)に続く球界レジェンドたちの登場には大きな拍手が送られるのだが、子どもたちも手が疲れてくるのか段々とその音が小さくなる。
ところが今年、万雷の拍手に迎えられた選手がいた。中日ドラゴンズの大野雄大投手だ。地元・京都出身で、昨年からの参加である。
昨年ももちろん子どもたちからの人気はすごかったのだが、今年は桁違いだった。
それもそのはずで、大野投手は今季、最優秀防御率に輝き、対タイガース戦ではノーヒットノーランも達成した。また、先のプレミア12では侍ジャパンの一員として世界一に貢献した。
同じく中日ドラゴンズの高橋周平選手も子どもたちを沸かせた。今季の高橋選手はベストナイン、ゴールデングラブ賞、そして5月度の月間MVPにも輝いている。
拍手、歓声、そしてふたりに向けられる瞳の輝き…。まさに「ヒーロー登場」といった感じであった。活躍した選手に向けられる子どもたちの反応は全然違う。
■アスリートそれぞれが丁寧な指導
開会式が終わると、いよいよ教室の本番だ。ランニングのあと、アスリートたちが見守る中でキャッチボールを行う。時折、アドバイスももらいながら、子どもたちは和気あいあいと楽しんでいた。
続いて投手、捕手、内野手、外野手のポジション別に分かれて、みっちりと教わる。4年生以下のジュニアは波留コーチ、的山哲也コーチ(福岡ソフトバンクホークス)、川村丈夫コーチ(横浜DeNAベイスターズ)、横山徹也氏(東北楽天ゴールデンイーグルス)が受け持った。
それぞれのポジション別でティー打撃と守備を教わるのだが、ポジジョン内でもグループ分けをし、アスリートがそれぞれ自身の担当する子どもたちと向き合う。
アスリートたちは実際に動いて見本を見せながら、ひとりずつに丁寧にアドバイスを送っていた。
ティー打撃でも注目を浴びたのは大野投手だった。子ども用のバットを手にすると、豪快なフルスイングで子どもたちを圧倒していたが、その顔は“野球小僧”そのものだった。
■デモンストレーションに感動
昼食休憩を挟み、このあとはプロのデモンストレーションを披露するコーナーである。まずは内野ノックだ。
内野の守備位置に就いたのは、セカンドに藤田一也選手(東北楽天ゴールデンイーグルス)、サードに白崎浩之選手(オリックス・バファローズ)、高橋周平選手(中日ドラゴンズ)、ショートに山足達也選手(オリックス・バファローズ)で、ノッカーは荒木雅博コーチ(中日ドラゴンズ)という豪華な布陣だ。
打球のさばきやゲッツーの速さに、子どもたちは目を丸くして歓声を上げていた。その声がさらに大きくなったのが、次のコーナーだ。
なんと大野雄大投手がマウンドに上がった。大きく息を吐いた大野投手は、「これがプロの球や」と言わんばかりの豪速球を投げ込み、子どもたちを仰天させた。
ストレートだけでなくツーシームやスライダーも披露し、拍手喝采を浴びていた。
■メインイベントはアスリートとの対決…と、じゃんけん大会
次は、いよいよ同教室のメインイベントだ。アスリートと子どもたちの対決である。
まずはアスリートがピッチャーで、子どもたちの代表が打者だ。阿波野コーチ、川村コーチ、岡島氏に対して意気込んで打席に入るが、プロの球はなかなかヒットにすることができない。
すると、ここでもまた大野投手が登板した。大野投手の辞書には「手加減」などという文字はない。本気のピッチングで打者を震え上がらせ、見ている子どもたちからは「大人げない〜」というブーイングが上がった。それでも大野投手は手を緩めることなく真剣勝負に徹した。
完全に抑え込まれた3人のちびっこバッターたちは悔しがりながらも、プロの球を間近で体験できたことで満足そうだった。そして何年か後にプロ野球選手となり、プロの世界で大野投手にリベンジすることを誓っていた。
続いては子どもたちの代表がマウンドに上がり、アスリートが打席に立った。軟球とあって、なかなか前に飛ばないし、スイングが鋭すぎてボールが潰れてしまうこともあった。
ピッチャーのレベルも高く、アスリートたちもなかなかヒットを記録することができない中、見せ場を作ったのが桧山氏だ。
おなじみのルーティンで左打席に入ると、相手が子どもでも容赦はしなかった。柔らかいスイングで振り抜くと、弧を描いた打球はそのまま外野フェンスの向こうに着弾した。
大きくガッツポーズを繰り出すと満面のドヤ顔で子どもたちを見渡し、飛び跳ねて喜びを表現した桧山氏。第1回の草津球場でホームランを放ち、わかさスタジアムに場所を移してからも一度、サク越えを見せた。この2本はいずれも現役当時で、引退後はじめてとなるこのアーチは、たまらなく嬉しかったようだ。
まるで漫画のような見事なクライマックスシーンに、打たれたちびっこ投手も思わず笑顔を見せ、スタジアムが一体となって沸いた。
このあと、さらに盛り上がるのが閉会式前のじゃんけん大会だ。
アスリートたちが提供してくれるグッズを手にするため、じゃんけんで勝ち抜かねばならないので、子どもたちは野球以上に必死になる。
勝って飛び上がって喜ぶ子、負けてその場に崩れ落ちる子など、その素直なリアクションにアスリートたちも大笑い。
最後は一緒に記念撮影を行い、すべてが終了した。
■アスリートたちの思い
この日、参加したアスリートたちに思いを聞いた。
《桧山進次郎(元阪神タイガース)》*京都出身
ホームランはめちゃくちゃ嬉しかった。本人もビックリでした(笑)。
それにしても、ありがたいね。自分も小さいころから野球をやってきて、今は教える身になった。こうして子どもたちと触れ合う立場になって、ありがたいなとつくづく感じる。
子どもたちが生き生きと目を輝かせてパワー全開といった感じなのを見ると、おもしろいし楽しい。
そして、それに対してアスリートたちも真剣に応える。誰ひとりとして抜いた姿勢では向き合ってなくて、「こうなってほしい」という思いを込めて、熱いものをぶつけているし、それは子どもたちにも伝わっていると思う。
子どもたちが「プロってすごいんだな、大きくなったらオレもなってやる」って思ってくれたらいい。
また、アスリート側も励みになる。子どもって正直だから、大野や高橋の人気がすごかった。活躍したらそうなるってこと。活躍して有名にならないと。
今日教わったことが、ちょっとでも自分のものになってくれたらいいと思うし、大人になる成長過程でいい思い出にしてほしい。
山本会長(アスリートワールド事務局代表)と波留のおかげで、こうして14回も続けてこれた。感謝してます。
《波留敏夫コーチ(中日ドラゴンズ)》*京都出身
14回目か…。今年は小さい子、とくに1、2年生が多かった。これは嬉しかったなぁ。
少子化になっているし、野球の競技人口が減ってきている中、少ない少ないと言いながら、これだけの子どもたちが来てくれた。
これもひとえに協力してくれているアスリートたち、協賛してくださっているスポンサー企業の方々、手伝ってくれているスタッフたちのおかげ。本当に頭が上がらない。
教えることってすごくむずかしい。現役選手もいつかは自分が上になったときに教えることもある。そのための勉強になるし、先輩が教えているのを横で聞くことで、自分の技術向上にもなる。
若い選手はとくにそういうこともあるし、またほかの球団の先輩たちと出会えて人脈を広げられる。こうして横の繋がりができるのはとてもいいことで、いろんな選手に出会って財産にしてほしい。
子どもたちの大野や高橋への反応を見ていると、「野球を見てくれてるんだな」と嬉しかった。プロは活躍してナンボ。現役はそうあってほしい。
「大野投手の球、速いな。振っても全然当たらんかった」とか、そういうすごいなというのを見せることで、子どもたちも喜んでくれる。
大野も「子どもには打たせへん!」と頑張ってくれた。あれだけの選手があそこまで一生懸命やってくれた。子どもたちにはすごい財産になるし、大野には感謝している。
《阿波野秀幸コーチ(中日ドラゴンズ)》*10回以上参加
野球をしている子どもたちにとって、プロ野球は憧れの世界。そのプロ野球選手たちが1チームだけじゃなくて、こうしていろんなチームから来てくれている。
こんなにいろんなユニフォームの選手が20人以上来てくれて、より興味を持ってもらえるんじゃないかと思う。
京都という土地柄だから、子どもたちもどうしてもタイガースファンが多いと思う。でも野球中継を見ると、タイガースが対戦する相手チームも見ることになる。その相手チームの選手とも触れ合うこともできるというのも、楽しいと思う。
大野なんて去年は散々なシーズンだったけど、今年は本当にいい年だった。子どもたちも、そういうのもちゃんと見ている。「失敗しても、また頑張ったらいい成績を上げられる」というのが伝わっていると思うし、勇気を与えられている。
メディアの力も大きいから、オールスターやNPBの表彰も子どもたちは興味を持って見ている。そこで12チームあることも、魅力的な選手がいることも知ってもらえている。そして、この野球教室で実際に会えるというのは、とても大きいことだと思う。
《倉義和コーチ(広島東洋カープ)》*京都出身
2年ぶり?3年ぶりかな?僕の原点だから、京都は。京都、大好きなんで(笑)。京都で野球教室ができるのは、本当に嬉しい。
野球をやる子が減っている中で、やはり僕も増やしていきたいという思いがある。
これだけのOBや現役選手に来てもらえる。こうして京都でやる意義は大きいし、とても嬉しいこと。
広島でも野球教室をやっているけど、やはり1チームの人数が減っている。チーム数はそれなりにあるんだけど、各チーム、なかなか集まらないというのを聞く。サッカーとかにいってるのかなぁ。
野球の競技人口を増やすためにも、子どもたちにとっての憧れられる存在でありたいし、こういう野球教室で触れ合うことがとても大事だと思うので、できることはどんどんやっていきたい。
子どもたちの反応もとてもよかったし、みんな挨拶もしっかりできる。野球をやることで礼儀も身につくし、人としてしっかり成長してほしい。
《岡島秀樹(元読売ジャイアンツ、ボストン・レッドソックスほか)》*京都出身
土日は仕事が忙しくて、あまり野球教室はできないんだけど、この野球教室だけは毎年必ず参加したいと思って来ている。
京都の子どもたちに恩返ししたいという気持ちが強いから、この日程だけは前もって入れるようにしている。来年もほかのスケジュールは入れないようにしているよ(笑)。
やはり京都で高校まで野球して甲子園に出させてもらった。そしてプロに入ってメジャーにも行けた。子どもたちに夢を与えたいと思っているし、こうして触れ合うことが、何かのきっかけになればと願っている。
野球の競技人口がどんどん少なくなっている。でも関東では大会も多いし、少年野球の解説の仕事もしている。関西ももっと多くなってほしいね。京都でももっともっと盛んになってほしい。
プロとの対決は楽しいと思うし、子どもたちにとっても貴重な体験になる。僕も去年は肩が痛かったけど、今年は対決で投げることができた。夢を与えられていたらいいなと思う。
《大野雄大投手(中日ドラゴンズ)》*京都出身
子どもたち、嬉しい反応だったなぁ。
野球選手って、あらためて結果がすべてやなと思った。子どもって、ハッキリしてるなと感じた。
京都でドラゴンズの試合ってなかなかやってないのに、それでもこれだけの子どもたちが「大野さん」「大野さん」と言ってくれる。これほど嬉しいことはない。
(対決で)「大野さん、すげえな」と子どもたちに思ってもらいたいと思って本気で投げた。「僕もいっぱい練習して、ああいう球が投げられるようになりたい」と、練習に取り組んでくれたらいいなと思う。
僕は野球教室でも高校のOB会でも、常に本気で投げますよ。それが大野雄大のいいとこやと思ってるし、投げられる限りは常に一生懸命投げたい。
来年もこの野球教室に参加したいし、もっともっと子どもたちに知ってもらうためにも、来シーズンも成績を残さないとって、励みになった。
―この日の経験によってまた子どもたちの野球熱が高まり、京都でますます野球が盛んになることを願ってやまない。
(表記のない写真の撮影は筆者)
【第14回 アスリートワールド学童野球教室 参加アスリート】
桧山進次郎
波留敏夫
阿波野秀幸
的山哲也
川村丈夫
小野晋吾
倉義和
岡島秀樹
荒木雅博
藤田一也
横山徹也
松井佑介
大野雄大
福山博之
岡島豪郎
白崎浩之
山足達也
高橋周平
坂倉将吾
石原彪
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