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2024年はタイパプロレス元年、SNS向けの3分1本勝負「WWE Speed」とは何か?

清野茂樹実況アナウンサー
3分間リングで躍動するSpeed初代王者のリコシェ(写真:REX/アフロ)

米国のプロレス団体WWEが、SNSに特化した新たなブランド「WWE Speed」を立ち上げた。試合時間は3分もしくは5分。新日本プロレスのNJPW WORLD TV王座、STARDOMのハイスピード王座の制限時間15分を大幅に縮めたことになる。若者を中心に人気のTikTokに代表されるタイパ(タイムパフォーマンス)の影響がプロレス界にも本格的に及んでいるのだろうか?プロレス界の新しいトレンドについて解説する。

Xとの契約で誕生

WWE Speedとは、WWEが今年2月にX(旧ツイッター)と配信契約を結んだことによって生まれたブランドである。Xにとっては、独占的な動画コンテンツでスポンサーやユーザーの関心を惹くことができ、WWEにとっては多くの人の目に触れる機会を増やせるというメリットがある。試合は週に一度、年間52回の新しいエピソードがXにて独占配信されることになっており、そして、驚くべきは試合は3分1本勝負(王座戦などは5分)で行われることだ。入場シーンはなく、試合はタイムライン上で完結する、SNSのために生まれた“タイパプロレス”の誕生である。

軽量級やハイフライヤー向き

Xとの契約期間は2年間。Speedルールによる試合の配信は4月から始まり、今月3日には、8人参加のトーナメントを制したリコシェが初代王者に認定された。短時間に絶え間なく動き続ける試合は軽量級や“ハイフライヤー”と呼ばれるレスラー向きであり、リコシェは「オレのためのショーだ」と語る。出場するスーパースターの顔ぶれは現状は中堅クラスが中心であるものの、RAWやSMACKDOWNの中で埋もれている人材がこのルールによって、スポットライトを浴びる可能性は十分にある。

是非を問う論争も

では、ファンの反応についてはどうだろうか。プロレス特有の「間」をそぎ落とした試合にネット上では批判の声が上がる一方、SNS上で情報を得ることに慣れ親しむ「Z世代」には概ね歓迎されているようだ。Speedの試合をきっかけに「このプロレスを認めるか?認めないか?」の論争が起こるのは黎明期ならではの現象だろう。なお、リコシェとジョニー・ガルガノによる初代王者決定戦の動画投稿に対する「いいね」は1万4千以上で、再生回数は257万回超え。インプレッションが可視化されるのもSNSの特徴である。

他団体が追いかける可能性

最後にSpeedによる影響についても考えたい。現状はWWEの中でも独立した存在だが、他のブランドのストーリーに絡めば、さらに広がるだろう。また、ファンの目が慣らされて、短時間の試合が標準化する可能性は高い。かつて、WWEはテレビのチャンネルを変えさせないプロレスを作り上げたわけだが、SNSの登場によって、再び新しいスタイルを創る時代がやってきたのである。世界最大のプロレス団体は業界の流行を決定づける力があり、SNSと結びついたタイパプロレスが今後、世界中でますます増えていくような気がしている。

※文中敬称略

実況アナウンサー

実況アナウンサー。1973年神戸市生まれ。プロレス、総合格闘技、大相撲などで活躍。2015年にはアナウンス史上初めて、新日本プロレス、WWE、UFCの世界3大メジャー団体の実況を制覇。また、ラジオ日本で放送中のレギュラー番組「真夜中のハーリー&レイス」では、アントニオ猪木を筆頭に600人以上にインタビューしている。「コブラツイストに愛をこめて」「1000のプロレスレコードを持つ男」「もえプロ♡」シリーズなどプロレスに関する著作も多い。2018年には早稲田大学大学院でジャーナリズム修士号を取得。

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