観光税よりも「観光二重価格」を採用すべきこれだけの理由
どうもこんにちは木曽です。ここのところ私自身が、オーバーツーリズム対策の施策として世の中に打ち出すべきとして積極的に発信をし始めた「地元割」導入に関してですが、いよいよ観光政策の「いち選択肢」として本格的に語られるようになり始めましたね。以下東スポwebからの転載。
私が個人的に、この政策の推進キャンペーンを打ち始めてから約1カ月、ちょうどゴールデンウィークの観光シーズンを挟んだというタイムリーさも手伝ったのかなとは思いますが、あれよあれよとその概念が広がってゆき、ここまで語られるようになりました。喜ばしい限りです。
これまで、我が国のオーバーツーリズム対策の施策として中心に語られてきたのは二重価格ではなく、寧ろ「観光税」の導入でした。以下、先週のNHK news webからの転載。
観光税とは、ホテルの宿泊客を中心に宿泊料金に付加する形で徴税を行い、それを行政財源にしてゆこうという施策。観光税を巡っては、私自身はオーバーツーリズム対策として「一つの手段」しつつも、一方で「それが有効に働かないケースがある」としてきました。
観光税が有効に「働く」ケースは、例えば沖縄の様に近隣府県との距離的断絶により「観光税を徴取しても観光客の宿泊需要が外に逃げない」ことが約束されている地域での採用です。本来観光地というのは観光客に現地に宿泊をして頂く方が域内への経済効果が高く、「域内宿泊を推進しなければならない」立場にある存在です。一方で、観光税というのはホテルの宿泊料金に上乗せして賦課するのが通例となっていますから、本来は地域にとって喜ばしいハズである「観光客の域内宿泊」に対してマイナスの効果を及ぼす懲罰的な課税となっているのですね。
そのような懲罰的な課税が域内宿泊に対してあまりマイナスにならない地域というのは、先に挙げた沖縄の様にそこに懲罰的課税が為されたとしても、外に向かって宿泊需要が「逃げない」地域。逆に言うと、例えば従前から「域内宿泊客を増やすこと」が観光政策上の重大課題となっている京都の様な地域では、そのマイナスの効果が大きく出てしまうリスクがある。具体的に言ってしまえば、現況でも多くの観光客の宿泊需要を大阪に取られてしまっている京都が観光税を採用してしまうと、益々その宿泊客を京都から遠ざける様になってしまう。そういう施策となってしまうわけです。
一方で私は、このような問題点のある観光税よりも、まずは観光二重価格の採用を推進すべきと主張しているワケですが、その理由はいくつもあります。
1. 宿泊客だけを狙い撃ちにした施策ではない点
まず前提として観光二重価格とは、観光地における各種サービス価格を観光客向けに一旦引き上げた上で、地元民に対しては何らかの割引(いわゆる地元割)を適用することで彼らの生活を守る施策です。この種の割引制度はハワイで採用されている「カマアイナ割」に代表されるように、宿泊業だけではなく、域内の多くのサービス業に適用されるのが一般的です。
すなわち宿泊税のように、本来は地域にとって「より好ましい観光客」であるハズの「域内宿泊を伴う客」だけを狙い撃ちとする懲罰的施策ではなく、域内を訪れる観光客全体に適用される施策である。勿論、観光客にとっての域内観光における費用感は「全体的に」引き上げられる事になりますから、その価格上昇によって観光需要の総体は抑制されることとはなりますが、少なくとも「その地域に宿泊すべきではない」というネガティブメッセージにはなりません。
2. 価格上昇による需要抑制で業者の「売上」は維持されやすい
一つ前の項目で「価格上昇によって観光需要の総体は抑制される」ことをあたかもマイナスの現象であるかのように表現しましたが、実はこのことそのものは観光二重価格の「利点」でもあります。
昨今ではオーバーツーリズムなどと横文字でワケワカラン表現を為されるようになりましたが、オーバーツーリズムとは要は観光市場における「需要超過」が行き過ぎた状態を現しているに過ぎません。この様な行きすぎた需要超過が起こってしまう原因は、域内の各業者が「地元民への配慮」から需要超過に対して適切な価格上昇を行うことができない、すなわち観光商品おける価格の上方硬直性が働いている状態にあるからといえます。
観光二重価格の採用は、観光客向けと地元民向けのサービス価格を切り分ける事でその上方硬直性を緩和しようという施策であるわけで、要は健全な市場機能によって超過しすぎた観光需要、すなわちオーバーツーリズムを緩和しようという施策であるわけです。この様な健全な市場機能による需要抑制の元では、各業者は需要が抑制される分の売上を「販売価格の上昇で補完」することができますから、実は施策の実行後も民間事業者側の売上は「維持されやすい」施策であるといえます。
一方で観光税の採用は、それまで存在しなかった税の負荷によって地域を訪れる観光客の「体感的な観光費用」は上がり、需要抑制がなされるものの、一方で業者にとっては販売価格が上がるわけではありませんから、結果的に需要だけを減らし総体としての売上を減らしてしまう可能性が高い施策となります。
3. 市場機能が動的に発生しやすい
多くの諸外国の観光地で採用されている観光二重価格は、行政補助のようなものではなく、あくまで各民間事業者によって採用される個別の「地元民向け割引」を総体として「地元割」と表現しているものにすぎません。すなわちその採用/不採用は勿論のこと、その割引幅なども基本的に各民間事業者の個別判断によって行われているものですから、その効果は市況にあわせて動的に発現します。
例えば、未だ記憶に新しい2019年から発生したコロナ禍や、2013年に発生した尖閣諸島問題による中国人観光客の減少など、観光需要というのは外部環境に影響され急に縮小することがあります。この様な急な観光需要の縮小が発生した場合、当然ながらその需要を抑制する様な施策は市況に合わせて動的に採用可否が判断される必要がありますが、民間事業者による個別判断によって行われる観光二重価格の採用は、その様な有事の際に柔軟に対応ができるという利点があります。
それに対して観光税は、一旦条例制定等で採用が行われた場合「停止条項」などがあらかじめ定められていない限りにおいて、条例の再改正が必要となり、その様な有事の際の迅速な対応ができません。また、例え条例内に停止条項が規定されていたとしても、その停止判断は行政側に預けられるのが常であり、現実的に行政がそれを柔軟運用できるのか?という問題が付きまといます。特に、この観光税を特定施策の財源として充ててしまっている場合、税の停止は即ちその特定施策の財源停止を意味しますから、基本的に行政は「税の停止を『判断しない』」方向に引っ張られてしまい、観光税という施策自体が硬直化する傾向が高くなります。
ここ数年の各自治体によるオーバーツーリズム対策は「観光税の採用」検討に偏って来た傾向がありますが、以上のような様々な理由により、私としては観光税の採用よりもまずは観光二重価格の採用を先行して検討すべきと考えています。その導入手法に関しては、現時点では色んな案が出されていて百花繚乱の状況ではありますが、細かい手法の論議は別に行うとして(※私の推す導入手法はコチラのリンク先を参照)まずもって、この施策が観光政策の一つの選択肢として大きく語られるようになった現況を喜ばしく見ているところ。関係各所におきましては、引き続き論議を深めて参りましょう。