Yahoo!ニュース

2度目の緊急事態宣言…子どもの受診や予防接種はどうする?

坂本昌彦佐久医療センター小児科医長 日本小児科学会指導医
提供:AFRC_092/イメージマート

新型コロナウイルス感染症の流行は爆発的な勢いをみせ、1都3県を対象とした緊急事態宣言が発出されました。今後他の地域にも対象が拡大される可能性もあります。そのような中で子どもの健康を守るために、私達が気をつける要点をまとめてみたいと思います。

子どもはもともと、よく熱を出します。また、小さなお子さんは予防接種や乳幼児健診で病院に行く機会も多く、新型コロナウイルス感染が広がっている状況下で、どんなタイミングで病院に連れていけばいいのだろうかと、迷う方もいらっしゃると思います。

日本小児科学会のホームページには、「子どもの新型コロナウイルス感染症に関するQ&A」があり、これらの疑問に答えています(1)。学会のホームページというと何となく気後れする方もいらっしゃるかも知れませんが、とてもわかりやすくまとまっていますのでぜひご参考にしていただければと思います。

「病院に近づきたくない」と思ったら

まず、病院の受診についてお話しします。医療機関でクラスターが発生して機能停止した、というニュースも時々目にするようになりました。感染してしまうのではとの保護者の不安も強く、「できれば病院には近づきたくない」という方も多いのではないでしょうか。私が勤務している病院の外来でも「定期受診や予防接種の延期」についての相談が、最近再び増えています。

慢性的な病気で定期受診されているお子さんの場合、定期的な診察や薬の内服が必要ですが、病状が安定している場合には、主治医と相談し、処方薬や物品の処方をいつもより多めにして受診間隔を延ばしたり、家族だけが受診するなど、柔軟な対処が可能なこともあります。電話で様子を確認させていただく「電話再診」というやり方を取っている医療機関もあります。定期受診に不安な方は一度、主治医とご相談ください。

熱が出た!受診の目安は…

お子さんに症状がある場合の受診の目安はどう考えればよいのでしょうか。(新型コロナウイルス感染症の濃厚接触者や健康観察の対象者の場合は、下記によらず、まず地域の保健所等にご相談ください)。

新型コロナウイルス感染症と子どもの風邪は、症状からは区別できません。子どもの新型コロナウイルス感染の多くが家庭内感染であることを考慮すると、周りのご家族の症状の有無や、地域の感染流行状況も考慮して対応することになります。そもそも、子どもはいろいろな感染症にかかります。特に寒い季節はRSウイルスやインフルエンザなど、熱や咳の症状を伴う感染症が数多くあります。今年はその数はかなり低く抑えられていることが分かっていますが、ゼロになっているわけではありません。そしてそれらの感染症を侮っていいわけでもありません。結局のところ、病院を急いで受診すべきかどうかは、本人の症状の程度から考えることになります。

発熱時に急いで受診が必要なタイミングは次のような場合です。

・ぐったりして顔色が悪い

・呼びかけてもぼんやりしている(眠ってばかりいる)

・何度も嘔吐する

・水分が摂れず半日以上尿が出ない

・けいれんした

もともと子どもの風邪は、熱があっても元気で水分が取れていれば、あえて薬を飲まなくても、こまめな水分摂取と安静で自然に治ることがほとんどです。高熱で脳に障害が残るのでは、と心配される方もいますが、感染症の熱だけが原因で、脳に障害が出ることはありませんのでご安心ください。

「熱が出たらすぐ病院!」と、これまで考えていらっしゃった方は、今回のパンデミックを機会に、子どもの適切な受診のタイミングを知っていただければと思っています。

生後3か月未満の発熱は急いで受診を

しかし一方で、元気に見えても急いで受診しなくてはいけない場合があります。例えば、生後3か月未満の発熱です。通常この時期は、お母さんからもらった免疫成分がまだ体に残っているため、熱を出すことはあまりありません。したがって、この月齢で熱が出た場合は、通常とは違う重い感染症のサインかもしれず、すぐに病院を受診しなければいけないのです。

 以上の目安を知っていても不安がある場合には、日本小児科学会の「online こどもの救急」や小児救急電話相談(#8000)をご利用ください。私たちのプロジェクトでも、受診の目安を判断する無料アプリを提供していますので、ご参考になればと思います。

怖い感染症を防ぐ予防接種 延期しないで 

少しでも受診を減らしたい、という思いから「予防接種を延期できないか」と思う保護者も増えています。これは日本に限らず世界中で起きていて、イギリスではMMRワクチンの接種が19.8%減少し、米国でも5才時点でワクチン接種を完了した児の割合が67%から49.7%に減少したと報告されています(2)。日本でも新型コロナウイルス感染症の流行が始まってから、特に1才を過ぎてからのMRワクチンやおたふくかぜワクチンの接種率が下のグラフのように下がっているとの報告があります(3)。またBCGワクチン(乳幼児の結核を予防するワクチン)の接種率も下がっており、この報告を行ったNPO法人「VPDを知って子どもを守ろうの会」では、その理由として「集団接種の延期」「大人のBCGワクチン接種による供給不足」を挙げています。

NPO法人「VPDを知って、子どもを守ろうの会」ホームページより
NPO法人「VPDを知って、子どもを守ろうの会」ホームページより

「この時期、何度も病院に行くのはちょっと……」と、予防接種を控えたくなるお気持ちも分かります。一方で予防接種の対象となる病気は軒並み、かかると致命率が高かったり、重い後遺症を残る危険があったりする病気が多いです。たとえば、ヒブワクチン、小児用肺炎球菌ワクチンで予防できる侵襲性インフルエンザ菌感染症、侵襲性肺炎球菌感染症の致命率は4.56%、5.6%です。5歳未満の小児の新型コロナウイルス肺炎の推定致命率は0.15%~1.35%とされており、それよりも5倍から10倍も高いことが分かります(4)。

予防接種を適切なタイミングで受ければ、こうした重い感染症にかかるリスクを下げることができます。したがって小児の予防接種は原則延期せず、必要なタイミングで接種していただければと思います。ただし、今は平時ではないことも事実。少しでもコロナウイルスの感染を広げない努力も必要ですね。自治体ではBCG集団接種が個別接種に切り替わるところも多いと思います。そのため個別接種にしても接種率が下がらないアナウンスを工夫する必要があります。

乳幼児健診はどうすればいいの?

前回の緊急事態宣言のなかで、乳幼児健診が中止や延期されるケースも相次ぎました。

実は日本小児科学会では、短期間で以前の生活に戻れる見通しも立たないまま、予防接種や乳幼児健診を回避するデメリットは大きく、可能な限り保護者と実施者が協力して予定通りに実施すべきであると明言しています(1) 。

乳幼児健診の目的のひとつは、保護者だけでは気づけない発達の遅れや隠れた病気の存在を、手遅れになる前に見つけることです。そのためできる限り適切な時期に受けることが大切です。もちろん実施にあたっては、極力、集団健診を個別健診に切り替えたり、電話による保健指導などの工夫が必要です。また従来乳幼児健診は拘束時間が長いことも問題で、3時間近くかかることも少なくありません。終わる頃には保護者も子どももぐったりです。これを機に少しでも効率のよいシステムにできる工夫が進めばと願っています。

なお、乳幼児健診については、緊急事態宣言に伴い、やむを得ず再び延期となる自治体も出てくると思います。私達のプロジェクトでは、乳幼児健診のポイントをまとめたフライヤーを作りましたので、延期で不安のある方は、ご参考にしていただければと思います。

出典:「教えて!ドクター乳幼児健診フライヤー」より一部抜粋
出典:「教えて!ドクター乳幼児健診フライヤー」より一部抜粋

保育園や学校は休校にしなくていいの?

今回の非常事態宣言で小児に関して注目されていることのひとつは「一斉休校は要請しない」という点です。

このニュースが流れたとき、「子どもは軽症だから軽視しているのか」、という意見もありました。しかしこの決定には根拠があります。それは、これまでの報告から子どもの感染の多くは家族からの家庭内感染で、小児を発端としたクラスターは少ないことが分かっているという点です。例えば新型コロナウイルス感染症に感染した小児203例の概要を分析した研究(5)では、感染源の74.2%が家族内感染によるものでした。このうち小児から成人への感染が証明されたのは1例だけでした。子どもから成人への感染リスクは成人から子どもと比べると低いと考えられます。

文科省のデータでは、子どもの陽性者の学校内感染・家庭内感染の割合は小学生で6%対73%、中学生で10%対64%、高校で24%対32%でした(6)。年齢に従い学校内感染が増える傾向がわかります。感染が蔓延すると当然学校現場のクラスターも出ますが、外の社会と比べると圧倒的に少ないです。学校を閉鎖して流行を抑制できるかどうかはまだ結論は出ていませんが、海外の研究では、学校の閉鎖で新型コロナウイルス感染症による死者数は2~4%しか減らすことはできず、他の施策よりも効果は低いと予測されています(7)。

ところで、学校閉鎖はインフルエンザの流行に対しては、実施によって患者数のピークを30%下げる効果があり有効とされています(7)。新型コロナウイルス感染症とは異なる結果ですが、その理由は,インフルエンザの場合には流行の中心を子どもが担っており、大人が流行の中心である新型コロナウイルス感染症とは性質が違うためと考えられます。

一方で、静岡県の小中学校で緊急アンケート調査を行ったところ、休校措置が終わった昨年夏休み以降「子どもの不登校や保健室登校が増えた」との回答が全体の25.4%あったというニュースがありました。私の外来でも、体調を崩して不登校気味になったお子さんの受診が明らかに増えている印象で、その数は昨年までの比ではありません。

イギリスでも、昨年の学校休校前後で7才~11才の学童168名のメンタルを評価したところ、休校前後でうつ病の症状が明らかに増えていたと報告されています(8)。

このように長期間の休園休校、急激な環境の変化などにより、様々なメンタルの不調を訴える小児が増えていると考えられます。

休校による影響として、日本小児科学会は次のような影響を挙げています(9)。

・子どもたちの教育の機会を奪い、子どもを抑うつ傾向/情緒障害に陥らせている

・生活習慣の乱れ

・栄養バランスの優れた学校給食がなくなることによる栄養の偏りや食環境の変化

・親子でストレスが増える結果、家庭な暴力や虐待のリスクが増える

・保護者の就労困難

・重症化リスクの高い祖父母などの高齢者との接触機会の増加

(出典:日本小児科学会「新型コロナウイルス感染症に対する保育所・幼稚園・学校再開後の留意点について」(9))

このような点から休園休校の判断は慎重であるべきと私は考えています。

ところで、最近の気になるトピックとして変異株のニュースがあります。このインタビューによると、「変異株はこれまでのウイルスよりも子どもに感染しやすいのでは」と報告しています(10)。現時点ではまだ分からないことも多く、引き続き注意が必要です。ただ、新型コロナの流行の中心を担っているのが子どもではなく大人であることは現時点では変わらず、やはり子どもに休園休校を強いる前に、行動範囲が大きく流行を広めている大人自身が取るべき対策があると考えています。

学校での「上着禁止」ルールの見直しを

学校についての話題を取り上げましたが、もう一つ,これを機に考えたいことがあります。それは一部の学校で今でも残る上着禁止ルールについてです。

感染対策として定期的な換気が推奨され、教室では冬でも窓を開けて定期的に換気をしています。

一方で、この令和の時代でも、「教室では寒くても上着着用は禁止」の校則がある中学校、「冬でも体育は半袖半ズボン」の小学校もあります。幼稚園や保育園でも、薄着だと体が強くなり風邪を引かなくなる、と謳っているところがあります。

実のところ、医学的な視点からは、薄着で寒さをがまんすれば健康になるという科学的根拠はありません。むしろ子どもは体重あたりの体表面積が大人よりも大きいため、体は外気の影響を受けやすく、熱せられやすく冷えやすいのが特徴です。大切なのは暑さや寒さを着ているもので調整できる環境です。医療を取り巻く状況が非常に厳しい現状では、少しでも体調を崩さない環境作りが求められていますので、学校関係者の皆さんと一緒に、こういった課題についても考えていきたいと思います。

出典:教えて!ドクタープロジェクト
出典:教えて!ドクタープロジェクト

今回は緊急事態宣言下において子どもの健康を守るために知っておきたいことをまとめました。

最後に自衛隊中央病院の皆さんからのメッセージを病院のホームページから改めて共有したいと思います。

'We stayed at work for you You stay home for us,please'

‘私達は病院で 皆様は家で 一緒に日本を守ろう!!’

自衛隊中央病院ホームページより
自衛隊中央病院ホームページより

今が踏んばり時です。みんなで乗り切りましょう。

参考文献:

(1)日本小児科学会「新型コロナウイルス感染症に関するQ&A」

(2)Rev Saude Publica. 2020 Nov 9;54:115.(PMID:33175029)

(3)NPO法人VPDを知って子どもを守ろうの会.リリース「新型コロナ流行時に延期した予防接種のキャッチアップを

(4)Aust J Gen Pract. 2020 Oct;49(10):683-686.(PMID: 33015684)

(5)Pediatr Infect Dis J. 2020 Dec;39(12):e388-e392.(PMID: 33031141)

(6)文部科学省.学校における新型コロナウイルス感染症に関する衛生管理マニュアル~「学校の新しい生活様式」(2020.12.3 Ver.5)~

(7)Lancet Child Adolesc Health. 2020 May;4(5):397-404.(PMID:32272089)

(8) Arch Dis Child. 2020 Dec 9;archdischild-2020-320372.(PMID: 33298552)

(9)日本小児科学会「新型コロナウイルス感染症に対する保育所・幼稚園・学校再開後の留意点について

(10)BMJ. 2020 Dec 23;371:m4944.(PMID: 33361120)

佐久医療センター小児科医長 日本小児科学会指導医

小児科専門医。2004年名古屋大学医学部卒業。現在佐久医療センター小児科医長。専門は小児救急と渡航医学。日本小児科学会広報委員、日本小児救急医学会代議員および広報委員。日本国際保健医療学会理事。現在日常診療の傍ら保護者の啓発と救急外来負担軽減を目的とした「教えて!ドクター」プロジェクト責任者を務める。同プロジェクトの無料アプリは約40万件ダウンロードされ、18年度キッズデザイン賞、グッドデザイン賞、21年「上手な医療のかかり方」大賞受賞。Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2022大賞受賞。

坂本昌彦の最近の記事