Yahoo!ニュース

「よく口を開けているけど大丈夫?」気になる子どもの口呼吸の原因と健康への影響とは

坂本昌彦佐久医療センター小児科医長 日本小児科学会指導医
(写真:イメージマート)

乳幼児健診のときに「うちの子はよく口を開けているが、あまりよくないと聞きました。大丈夫ですか」という質問を受けることがあります。保育園などでも、子どもが普段から口を開けていると指摘されたり、気になったりする保護者の方もいらっしゃるかもしれません。実は私も子どものときは口呼吸で、親に「口を閉じなさい」と言われた記憶があります。でも、口を閉じなさいって言われても困りますよね。実際それだけで治るなら苦労しません。
今回はそんな口呼吸について小児科医の立場から解説します。

口呼吸とは?その原因について解説します

人は本来、鼻で呼吸をするようにできています。しかし、何らかの理由で鼻呼吸が難しくなると、口で呼吸するようになります。これが「口呼吸」です。専門的には、呼吸の25-30%以上が口からの呼吸になっている場合を口呼吸と呼びます。

実は、口呼吸は特別なことではありません。研究によると、幼児から小学生20-30%以上が口呼吸をしているとされています(1)

口呼吸が起きるのは、鼻がつまるなど、何らかの原因で鼻で呼吸することがむずかしくなるときです。具体的には以下の原因が挙げられます:

  • アデノイドや扁桃腺の肥大(最も多い原因)
  • アレルギー性鼻炎を含む慢性鼻炎
  • 副鼻腔炎(蓄膿症)
  • 鼻の形態的な問題(鼻中隔湾曲症など)

アデノイドや扁桃腺が大きくなると、鼻からの空気が通りにくくなり、代わりに口呼吸になることがあります。アデノイドや扁桃腺は6-7歳でもっとも発達し、その後小さくなることが多いですが、中には小さくならないお子さんもいます。最近はアレルギー性鼻炎のお子さんが増え、鼻づまりによる口呼吸が増えている傾向もあります。

口呼吸は年齢とともに自然になくなることもありますが、続く場合には健康に影響が出ることが心配されています。

口呼吸が引き起こす影響とは?4つのポイント

口呼吸が続くことで、次のような影響が報告されています。

歯並びや顔の形への影響

研究によれば、口呼吸の子どもは、歯列や噛み合わせ、顎の発育に悪影響を及ぼす可能性があるとされています。 具体的には、前歯が閉じない「開咬」や上の前歯が前に突出する「前突」という状態と関連があることが報告されています(2)。

口呼吸と睡眠の質、学習への影響

口呼吸が原因で睡眠の質が低下し、その結果として日中の眠気や集中力の低下が見られることがあります。これにより、学業成績に影響が出る可能性が指摘されています(3)。

口呼吸とお口の健康リスク

口呼吸では、口の中が乾燥し、唾液が減ります。唾液には口の中を感染症から守る免疫防御の働きや、口の中を潤滑にし、余分な食べかすなどを洗い流す作用もあります。唾液が減ることで虫歯が増えるリスクがあり、実際多くの研究から口呼吸をする子の多くで、虫歯の原因となる細菌(ミュータンス連鎖球菌)の濃度が明らかに高くなっていることが報告されています(4)。

全身の健康への影響

口呼吸のお子さんは、上気道感染のリスクが高いことや(5)、口臭(6)や歯ぎし り(5)との関連も指摘されています。このように口呼吸の影響は全身に及ぶため無視できません。

このように、口呼吸はお子さんに様々な影響を及ぼす可能性があります。ただし症状の出現には個人差が大きく、すべての子どもに同じように現れるわけではありません。また早めに適切な対応を行うことで改善が期待できます。

口呼吸の対策:子どもの健康を守るためにできること

口呼吸の原因には、先ほどお話ししたように扁桃腺やアデノイドの肥大、さらにはアレルギー性鼻炎などが挙げられます。まずはこれらの原因がないかを調べ、必要に応じて適切な治療を行うことで口呼吸が改善する可能性があります。「口を閉じなさい」と頭ごなしに子どもに伝えるのではなく、まずは原因を探すことが大切です。なお、口呼吸は歯並びや顔面の発育に影響を与えるため、早めに歯科に相談し、適切な時期に矯正治療を始めることで将来的な問題を軽減することができます。

ちなみに、子どもの口呼吸を改善するために唇と舌の筋力トレーニングが効果的という報告もあります(7)。日本では「あいうべ体操」が知られており、専門家の指導の下で実施することでより効果が期待できます。

このように、口呼吸が気になる場合には、早めに相談し、トレーニングや治療を始めることで子どもの健康を守ることができます。

口呼吸の予防:家でできる環境調整と専門医への相談

空気清浄機や定期的な掃除で家庭内の環境を整えることで、アレルギー性鼻炎の症状が軽減され、口呼吸の予防にもつながる可能性があります。また、歯科や耳鼻科で定期的に健診を受けることで、口呼吸に関連する問題を早めに発見できる可能性があります。早期の対応が改善のカギです。

ここまで子どもの口呼吸の原因や対処方法についてお話ししました。保護者の皆さんの中には不安を感じられた方もいるかもしれません。ただ、口呼吸が気になっても過度に心配する必要はありません。適切な治療と生活習慣の改善を通じて、多くのケースで改善が期待できるからです。

そして、口呼吸を直そうとするあまり、ついお子さんに「口を閉じて!」と強い口調で言ってしまうかもしれませんが、それだけでは根本的な解決につながりません。優しく見守りながら、子どもの症状改善を支援することが大切です。

口呼吸の問題は、ご家族だけで抱え込む必要はなく、気になることがあれば、まずは小児科医や歯科医に相談してみてください。専門家と協力しながら、お子さんの健やかな成長をサポートできればと思います。

参考文献

1. Kogue Y, Igari K, Komatsu H, Mayanagi H. Actual status of mouth breathing in nursery school children. The Japanese Journal of Pediatric Dentistry. 2003;41(1):140-7.

2. Paolantonio EG, Ludovici N, Saccomanno S, La Torre G, Grippaudo C. Association between oral habits, mouth breathing and malocclusion in Italian preschoolers. Eur J Paediatr Dent. 2019;20(3):204-8.

3. Jefferson Y. Mouth breathing: adverse effects on facial growth, health, academics, and behavior. Gen Dent. 2010;58(1):18-25; quiz 6-7, 79-80.

4. Mummolo S, Nota A, Caruso S, Quinzi V, Marchetti E, Marzo G. Salivary Markers and Microbial Flora in Mouth Breathing Late Adolescents. Biomed Res Int. 2018;2018:8687608.

5. Lin L, Zhao T, Qin D, Hua F, He H. The impact of mouth breathing on dentofacial development: A concise review. Front Public Health. 2022;10:929165.

6. Alqutami J, Elger W, Grafe N, Hiemisch A, Kiess W, Hirsch C. Dental health, halitosis and mouth breathing in 10-to-15 year old children: A potential connection. Eur J Paediatr Dent. 2019;20(4):274-9.

7. Nogami Y, Saitoh I, Inada E, Murakami D, Iwase Y, Kubota N, et al. Lip-closing strength in children is enhanced by lip and facial muscle training. Clin Exp Dent Res. 2022;8(1):209-16.

佐久医療センター小児科医長 日本小児科学会指導医

小児科専門医。2004年名古屋大学医学部卒業。現在佐久医療センター小児科医長。専門は小児救急と渡航医学。日本小児科学会広報委員、日本小児救急医学会代議員および広報委員。日本国際保健医療学会理事。現在日常診療の傍ら保護者の啓発と救急外来負担軽減を目的とした「教えて!ドクター」プロジェクト責任者を務める。同プロジェクトの無料アプリは約40万件ダウンロードされ、18年度キッズデザイン賞、グッドデザイン賞、21年「上手な医療のかかり方」大賞受賞。Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2022大賞受賞。

坂本昌彦の最近の記事