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台風で子どもの喘息は増えるのか?

坂本昌彦佐久医療センター小児科医長 日本小児科学会指導医
(提供:アフロ)

台風や熱帯低気圧の季節です。その影響で秋雨前線も活発になり、先週末も天候が不安定でした。能登では復興途上にもかかわらず水害で多くの方が被災されています。被災された皆様には心よりお見舞い申し上げます。

この季節、小児科外来をやっていると、「このシーズンになると喘息の症状がひどくなっています。やはり台風が近づいているせいですか?」と質問されます。そのあと、「やはり気圧が下がるせいでしょうか?」と聞かれることも少なくありません。この季節、外来をやっている我々にとっても、台風が近づくと喘息の患者さんが増える印象は確かにあります。

実際に台風などの低気圧は喘息の症状の引き金になるのでしょうか。もしくは、この季節には喘息を悪化させる原因が何か別にあるのでしょうか。そこで今回は台風をはじめとする低気圧と喘息の関係についてまとめました。

台風は喘息症状の悪化に関係する?

 これまでの研究で、喘息症状は様々な気象条件の変化によって大きく変化する可能性が指摘されてきました。よく話題になる指標の一つが気圧かもしれません。先ほどもお話ししたように、台風による気圧の変化が喘息発作に影響を与えるのでは?と外来で聞かれることもあります。台風は気圧が低いのが特徴です。気圧が下がると喘息症状は悪化するのでしょうか。

 中国の北京で2万3000人の喘息入院患者の入院記録と、その時期の気象情報から大気圧のデータを収集し、その関連を調べた研究があります。この研究では、大気圧の低下と喘息入院患者の増加との関連を示していました(1)。一方で逆の報告もあります。日本で小児喘息と気圧の関係を調べた研究では、むしろ気圧が高いことが喘息症状の悪化と関係していたと報告しています(2, 3)。さらに、小児喘息症状の悪化にそもそも気圧は関係なかったという報告もあります(4)。気圧が喘息に及ぼすメカニズムはまだよくわかっていません。様々な研究結果からは、少なくとも台風による低気圧が喘息悪化の原因であるとシンプルに結論することはできなさそうで、他の要因を考える必要があります。

喘息症状は湿度の変化に大きな影響を受ける

実は喘息症状は気圧以外の気象条件の影響を受けることが分かっています。その影響として特に知られているのは①湿度②雷雨などの異常気象です。

まず、湿度については、低くても高くても喘息症状の引き金になることが分かっています。例えば冷たく乾燥した空気を吸い込むと気管支が収縮して喘息症状が出現するリスクがあります(5)。いっぽうで、湿度が高くても喘息症状の引き金になります。西欧12か国の57か所のセンターで6-7歳もしくは13-14歳の小児の保護者に実施したアンケート調査の結果、室内の相対湿度が10%上昇すると、喘息症状が2.7%増加したことが報告されています(6)。つまり室内の湿度が高くなることが喘息症状の悪化因子となる可能性があります。そのメカニズムとしては、湿度そのものが気道に及ぼす影響だけでなく、湿度が高いことでアレルゲンであるカビやダニの繁殖が促され、喘息症状が悪化するためではと考えられています(7)。

その点で、台風等の嵐は湿気を帯びた空気を運び込むため、湿度を大きく変化させ、喘息症状を悪化させる可能性があります。成人の研究ですが、ハリケーン襲来により喘息発作が増えたことを示した研究もあります。例えばハリケーン・カトリーナの研究では、このハリケーン襲来の前後で喘息有病率が4.4%→9.1%に上昇したと報告しています(8)。

雷雨の後に喘息症状が悪化する「雷雨喘息」とは

また喘息に影響を及ぼす気候の例として、雷雨喘息という現象が知られています。これは雷雨の数時間後に喘息発作の悪化が起こる現象です。一般にこのタイプの喘息は花粉の季節に起こり、世界中で発生していますが、特にオーストラリアで報告されているものが有名です。2016年にメルボルンで雷雨が発生した時には、その後30時間以内に市内の救急外来を呼吸器症状で受診した患者さんが3400人増えたという報告もあります(9)。雷雨の下降気流によって花粉の粒子が濃縮され、湿度の高い雲に吹き込まれると、風や湿度の影響で花粉の粒が破裂して細かくなり、空気中の花粉濃度が高まり、その破片が下気道に吸い込まれることで喘息の悪化を引き起こしているというメカニズムが仮説として考えられています(10)。

日本の喘息患者61名を対象とした研究でも、台風シーズンの喘息症状の悪化の要因のひとつに花粉感作が関連している可能性を報告したものがあります(11)。この研究では台風シーズンに症状が悪化したグループでは、もともとスギ花粉に感作されていた人の割合が高かったという結果でした。台風の時期の喘息症状の悪化に花粉が何かしら影響している可能性はありそうです。

異常気象は女性と子供の喘息の罹患率や死亡率を高める

このように喘息発作の引き金となる要素には湿度の変化や花粉の感作などがあり、台風がそのきっかけの一つとなる可能性はあるのではと個人的には考えています。

いずれにせよ天気が不安定なことは喘息発作の悪化と関係する可能性が高いです。最近は季節外れの大雨や夏の異常な気温上昇など、いわゆる異常気象と呼ばれる現象が珍しくありません。異常気象は特に女性と子供の喘息の罹患率や死亡率を高めるという報告もありますので(12)、小児科医としても見過ごせません。

まだまだ台風シーズンで天気が大きく変わる日々が続きそうです。喘息のあるお子さんは、今一度日頃の治療をしっかりとできているか見直すきっかけにしていただければと思います。

参考文献

1.Fu J, Liu Y, et al. J Asthma Allergy. 2022;15:1035-43.

2.Yamazaki S, Shima M, et al. BMJ Open. 2015;5(4):e005736.

3.Ehara A, Takasaki H, et al. Pediatr Int. 2000;42(3):272-4.

4. Mireku N, Wang Y, et al. Ann Allergy Asthma Immunol. 2009;103(3):220-4.

5.Anderson SD, Daviskas E, et al.J Allergy Clin Immunol. 2000;106(3):453-9.

6.Weiland SK, Hüsing A, et al. Occup Environ Med. 2004;61(7):609-15.

7.Pacheco SE, Guidos-Fogelbach G, et al. J Allergy Clin Immunol. 2021;148(6):1366-77.

8.Rath B, Young EA, et al. Public Health Rep. 2011;126(6):853-60.

9.Thien F, Beggs PJ, et al. Lancet Planet Health. 2018;2(6):e255-e63.

10.Hughes DD, Mampage CBA, et al. Environmental Science & Technology Letters. 2020;7(6):409-14.

11.Suzuki Y, Sato S, et al. European Respiratory Journal. 2014;44(Suppl 58):P4055.

12. Makrufardi F, Manullang A, et al. European Respiratory Review. 2023;32(168):230019.

佐久医療センター小児科医長 日本小児科学会指導医

小児科専門医。2004年名古屋大学医学部卒業。現在佐久医療センター小児科医長。専門は小児救急と渡航医学。日本小児科学会広報委員、日本小児救急医学会代議員および広報委員。日本国際保健医療学会理事。現在日常診療の傍ら保護者の啓発と救急外来負担軽減を目的とした「教えて!ドクター」プロジェクト責任者を務める。同プロジェクトの無料アプリは約40万件ダウンロードされ、18年度キッズデザイン賞、グッドデザイン賞、21年「上手な医療のかかり方」大賞受賞。Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2022大賞受賞。

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