Yahoo!ニュース

子どもは何歳から危険を察知し、学ぶことができるのか

坂本昌彦佐久医療センター小児科医長 日本小児科学会指導医
(写真:イメージマート)

小児科医をしていると保護者から色々な相談を受けます。先日は1歳前の保護者からこんな質問をいただきました。

「子どもがソファから下を覗き込んでいることがあるが、落ちると痛いから危険、と自分で理解してやめられるようになるのは何歳くらいからでしょうか?」という内容でした。

子育てはヒヤリハットの連続ですよね。言って聞かせて理解できるのはいつからだろう、などと思ったことのある保護者の方も多いと思います。そこで今回は年齢や月齢ごとに起きやすい子どもの事故を紹介しながらリスク認知の発達段階についてお伝えしようと思います。月齢ごとにまとめましたので、お子さんの年齢のところだけ飛ばし読みしていただいても構いません。

生後数か月でもっとも多い事故は窒息

生まれてしばらくは主に寝て過ごし、あまり大きな動きをしなかった赤ちゃんも、生後3か月を過ぎると首も据わり、物に手を伸ばす動作が出てきます。

ただ、この時期はまだ自由に動き回ることができないため、顔に布やタオルなどがかかったり、ミルクを吐き戻したりして窒息する事故が起こる可能性があります。

生後5-6か月を過ぎると探索行動が増え、何でも口に入れるため誤飲が増える

生後6か月を過ぎるとおもちゃをつかんで手から手に持ち替えたりするようになります。また、お座りできるようになることで遠くまで見渡すことができるようになります。手を使ったり、動き回ったりができるようになると、外の世界への関心が増していきます。

この時期に赤ちゃんは色々なものを転がしたり投げたりして遊びながら、その動作を観察し、身の回りの物について学習し、食べられるものと食べられないものがあることを理解し始めますが、念のためすべて口に入れようとします。これを探索行動といいます。正常な発達の過程ですが、結果的に誤飲が起こる理由にもなり、電池や磁石などの誤飲はこの時期に多くなります。当然ながらこの時期の赤ちゃんは、まだその危険を事前に理解することができません。

1-2歳で言語理解は少しずつ進むが、言い聞かせてもまだ難しい

1歳前後になると赤ちゃんは歩き始めるようになり、行動範囲がぐっと広くなります。言葉の理解も少しづつ進む時期ですが、まだ言い聞かせても危険を理解することは難しいです。

行動が一気に広がる一方、まだ歩行姿勢も不安定なこの時期に多い事故は転倒です。転倒による事故はつかまり立ちができるようになる生後10か月くらいから起こり始め、1歳前後がピークになります。歩行姿勢を崩して転ぶだけでなく、階段からの転落もあります。

また溺水事故も増え、浴槽に落ちて溺れたり、水遊び中の溺水事故なども起こったりします。ちなみに2歳までの溺水の9割近くは自宅の浴槽で発生しています。

2-3歳になると危険回避能力が育ち始めるがまだ不十分

子どもは通常、運動能力と認知能力が向上するにつれて、2歳から3歳頃に危険を回避する能力を発達させ始めます。この時期になると、子どもは物事の因果関係を理解し始め、いくつかの危険を認識できるようになります。3歳くらいになると単純なリスク、例えば「高いところからの転落の危険」や「熱いものでやけどする」といった事柄を認識できるようになります。

しかし、複雑な危険はまだ理解できませんし、子どもの好奇心も強くなる時期で、遊んだり探索した行動がもたらす危険をしっかり理解するにはまだ不十分です。こうした危険回避能力は、保護者の指導、環境要因、個人の気質に大きく影響されるため、この時期はまだ不安定といえます(1)。

さらに、この時期は身体能力も急速に成長する時期のため、親も気づかないうちに色々なことができるようになっています(2)。このことは予想外の事故リスクを高めることにもつながります。

この時期に起こりやすい事故としては、やけど、窓やベランダからの転落、中毒、自動車事故が挙げられます。やけどは特に2-3歳がピークです。やけどの場面としては暖房器具などのイメージがあるかもしれませんが、一番多いのはキッチンでのやけどで、全体の6割を占めています(3)。またその多くは熱い飲み物やポットなどの熱湯によるものです(4)。 

高所からの転落は3-4歳に多いです(5)。転落事故対策として、階段にはゲートを使用する、2階以上の窓には窓ガードの設置、ベランダへの補助錠の取り付けなどが有効です。

4-6歳になると親に言われた危険を理解し、注意する行動が徐々に育つ

4歳頃から相手の心を理解する能力が発達し、この頃から相手の立場に立って考えられるようになります。また言語能力が発達し、大まかな時間の理解が進み、記憶をたどって話せるようになります(6)。このように言葉を使って考えや行動を調整することができるようになり、自己をコントロールする力(自制心)が高まるとされています(6)。

この時期になると子どもは一般的に安全に関する意識と意思決定の能力が向上し、より複雑な危険を理解することができます。例えば交通事故のリスクや見知らぬ人との接触によるリスク等です。

したがって、最初の質問に戻りますが、保護者に言われてその注意を理解し、安全な行動に移り始める時期は個人差もありますが4歳以降と考えるのが妥当と考えます。

この時期になると増える事故としては滑り台やジャングルジムなどの遊具からの転落や、ペダルなし二輪遊具やキックボードなどの転倒などです。遊具の事故は5-6歳がピークで6歳以下が7割を占めています(7)。このようにまだまだ安全な行動を獲得するのは不安定な時期であり、保護者の監督と支援は欠かせません(1)。

このように、子どもの発達段階と起こりやすい事故は密接にリンクしています。こども家庭庁が作成したガイドブック「子どもを事故から守る!事故防止ハンドブック」(8)には、子どもの起こりやすい事故と年齢、発達段階について1枚の図で分かりやすく説明していますので、最後にご紹介します。

出典:「こどもを事故から守る!事故防止ハンドブック」(文献10)より
出典:「こどもを事故から守る!事故防止ハンドブック」(文献10)より

お子さんの発達は個人差も大きいですし、事故は起きやすい時期を過ぎたからといって絶対に起こらないわけでもありません。お子さんそれぞれの状況を把握していただきつつ、今回の記事が少しばかりでもお役に立てればと思います。

参考文献

1. Kendrick D, Mulvaney CA, et al. Parenting interventions for the prevention of unintentional injuries in childhood. Cochrane Database Syst Rev. 2013 Mar 28;3

2. American Academy of Pediatrics. Safety for Your Child: 2 to 4 Years [Internet].

3. Abedin M, Rahman FN, et al. Epidemiology of non-fatal burn injuries in children: evidence from Bangladesh Health and Injury Survey 2016. BMJ Paediatrics Open. 2022 Jun;6(1):e001412.

4. Watson M, Mulvaney C, et al. Keeping children safe at home: protocol for a case-control study of modifiable risk factors for scalds. Inj Prev. 2014 Oct;20(5):e9.

5. 消費者庁. 窓やベランダからの子どもの転落事故に御注意ください! [Internet]. 2020年9月4日.

6. 笹田哲. イラストと動画で学ぼう人間発達学. 診断と治療社; 2015年.

7. 消費者庁. 遊具によるこどもの事故にご注意! [Internet].2016年2月10日.

8. こども家庭庁. 子どもを事故から守る!事故防止ハンドブック [Internet].

佐久医療センター小児科医長 日本小児科学会指導医

小児科専門医。2004年名古屋大学医学部卒業。現在佐久医療センター小児科医長。専門は小児救急と渡航医学。日本小児科学会広報委員、日本小児救急医学会代議員および広報委員。日本国際保健医療学会理事。現在日常診療の傍ら保護者の啓発と救急外来負担軽減を目的とした「教えて!ドクター」プロジェクト責任者を務める。同プロジェクトの無料アプリは約40万件ダウンロードされ、18年度キッズデザイン賞、グッドデザイン賞、21年「上手な医療のかかり方」大賞受賞。Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2022大賞受賞。

坂本昌彦の最近の記事