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日本の賭博史に新たに刻まれた「黒川基準」

木曽崇国際カジノ研究所・所長
(写真:アフロ)

昨日2020年5月22日は、日本の賭博史における歴史的な日となりました。以下、時事通信より転載。

刑事局長、賭けレート「高額とは言えず」 黒川検事長のマージャン

https://www.jiji.com/jc/article?k=2020052200587&g=pol

法務省の川原隆司刑事局長は22日の衆院法務委員会で、東京高検検事長を辞職した黒川弘務氏が参加したマージャンに関し、賭けレートは「点ピン」と呼ばれる1000点100円だったと明らかにした。野党共同会派の山尾志桜里氏への答弁。川原氏は「もちろん許されるものではないが、社会の実情を見たところ必ずしも高額とは言えない」と説明。出席した委員らから「おかしい」とヤジが飛ぶと、川原氏は「処分の量定に当たっての評価だ」と強調した。

法務省が行った調査において、黒川検事長は「3年間に月に1、2回程度の麻雀をし、1回の勝ち負けは1人当たり数千円から2万円くらい」の麻雀賭博を続けていたとの供述を行っていましたが、刑法賭博罪を所管する法務省刑事局の公式見解では、この麻雀賭博行為は「もちろん許されるものではないが、社会の実情を見たところ必ずしも高額とは言えない」との事。また、その常習性に関しては、刑法における常習賭博の成立を「参考」に判断した結果「常習性は確認されなかった」という事であります。

今回国会で示された法務省刑事局による「黒川基準」は、今後の麻雀業界、ひいては賭博業界全体にとって非常に大きな影響を与えます。これまでは業界タブーということになっていましたが、法務省刑事局より「お墨付き」が出たようですので以下申し上げます。我が国に存在するいわゆる麻雀荘では、日常的に客同士による賭博行為が繰り返されています。この事は業界内のみならず広く世間一般において「公然の秘密」として扱われて来ましたが、今後は「3年間に月に1、2回程度の麻雀をし、1回の勝ち負けは1人当たり数千円から2万円」程度の賭博に関しては、少なくとも刑法を所管する法務省刑事局の解釈においては「もちろん許されるものではないが、社会の実情を見たところ必ずしも高額とは言えない」ものとして判断されることとなります。(※勿論、司法判断がこれとは別である可能性はあり得る)

一方、今回示された黒川基準で一番バカを見ることとなったのは、ノーレート雀荘と呼ばれる「賭け事をしない、させない」店舗として営業努力を重ねて来た、おそらく業界内では1割程度にも満たない遵法事業者。同業他社のうち9割以上が麻雀賭博営業を行っている中で、あえてノーレートを選択する事というのは並大抵の覚悟ではありませんし、その遵法意識の高さ故のハンディキャップを背負いながらも営業が維持できていること自体が、その背景にあるとんでもない営業努力を証明するものであります。この様な事業者は有り余る遵法意識は勿論のこと、自身の営業の有り方についてプライドを持って営業を続けて来た優良事業者であります。

しかし昨日2020年5月22日を境に、その様な高いプライドと遵法意識をもって営業を行って来た事業者達が、これまで積み重ねて来た努力が全てご破算となってしまいました。法務省が、己の抱えるエライサンを守る為に「もちろん許されるものではないが、社会の実情を見たところ必ずしも高額とは言えない」麻雀賭博の基準を示した。「必ずしも高額とは言えない」と君(法務省)が言ったから、5月22日は「麻雀賭博記念日」。

これまで様々なご苦労の元で、遵法営業を続けて来たノーレート雀荘業者の皆様には心より敬意を評し、「正直者がバカを見る」こととなったこの「麻雀賭博記念日」を、この道の専門家として長く語り継いでゆきたいと思います(棒

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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