ビッグデータで浮かび上がった「異形の国・北朝鮮」を「遠くから観察」する視線
日本と北朝鮮の間には核・ミサイル、拉致など重要な懸案が横たわっている。だが日本国内における北朝鮮に対する関心は、ロシアのウクライナ侵攻や米中葛藤などに埋没するように低下し、懸案解決に向けた世論は盛り上がりに欠ける。北朝鮮に対して抱く日本国内における興味・関心は今、どうなっているのだろうか。ビッグデータから読み解いてみた。
◇二つのピーク
日本を拠点とするインターネットユーザーが何らかの関心事を調べる際、多くがインターネット検索という行動に出る。そこでヤフーが提供するビッグデータ分析ツール「DS.INSIGHT」を使い、2019年以降の収集分について分析を試みた。
筆者の想像だが、「北朝鮮」をキーワードに検索するユーザーはおそらく、日常的に北朝鮮情報に接しているわけではない。むしろ、メディアやSNSからの情報や、友人・知人とのやり取りをきっかけに「北朝鮮」に対して何らかの興味・関心を抱き、検索という行動に出たということだろう。
まず「北朝鮮」というキーワードだけで検索したデータの量(推計検索ボリューム)を見てみる(図1)。2019年には32万6000だったものが2020年にはいったん52万3000に増え、2021年には26万6000、2022年は37万5000と推移した。
北朝鮮は2018年に積極外交に打って出て、米国や中国、韓国との首脳会談を繰り返して国際社会の耳目を集めた。米朝交渉が決裂した2019年2月以後、首脳外交は停滞した。今回のデータはこの2019年を起点とする。
図1を見れば、2カ所でボリュームが急増している。
一つ目は2020年4月。米CNNテレビが「米情報当局が『金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長(当時の肩書)が重体』という情報を監視中」と速報したことで「金正恩氏の健康不安説」がにわかに急浮上した時期だった。
次のピークは2020年6月。拉致被害者、横田めぐみさんの父、滋さんが同5日に亡くなった。また同16日には北朝鮮が南北共同連絡事務所を爆破したため、検索ボリュームが急増したと考えられる。
ちなみに「北朝鮮」を検索する際、国名である「朝鮮民主主義人民共和国」や、北朝鮮における自国の呼称である「朝鮮」「共和国」という用語が使われる例は極めて限定的だった。
◇「北朝鮮の何に興味・関心を抱いているのか」
次に着目したのは「北朝鮮」という用語とともにネットユーザーが検索に使った「絞り込みキーワード」だ。この「絞り込みキーワード」は、ネットユーザーが「北朝鮮の何に興味・関心を抱いているのか」の傾向を一定程度示すものといえる。
2019~22年において、「北朝鮮」とともに「絞り込みキーワード」に使われた用語のうち、検索ボリュームの多い上位10を表1に記した。ちなみに「北朝鮮 ミサイル」と「北朝鮮 ミサイル」が区別されているのは、検索の際に単語を分けるために使う空白が全角・半角であるかによって「異なる検索キーワード」として認識されているためだ。
ミサイルについては後述するが、ここで目立つのが「生活」「コロナ」「公開死刑(処刑)」「美女」だ。
北朝鮮では金正恩総書記による独裁体制が敷かれ、住民は激しい忠誠競争を余儀なくされている。厳しい経済制裁を受けながらも核・ミサイル開発を進め、住民生活は脇に置かれている。
そこに新型コロナウイルス感染対策のため国境が封鎖され、人とモノの行き来が途絶える。ただでさえも医療態勢は脆弱だ。北朝鮮でコロナがまん延すればどうなるのか――こうした興味・関心から、ユーザーたちは、北朝鮮と「生活」「コロナ」に関わる情報をネット上に求めているのかもしれない。
また、北朝鮮からの離脱住民(脱北者)を通して伝えられる「公開処刑」、スポーツの国際大会などに派遣される女性応援団を形容する際に用いられる「美女」などの用語にも興味・関心が払われている。
◇ミサイル・核・拉致
次に「ミサイル」の推計検索ボリューム(図2)をみると、2019年8万2700、2020年3万1600、2021年4万4380と推移したあと、北朝鮮がミサイル発射を繰り返した2022年には34万2000と跳ね上がっている。ミサイルに対する危機意識が高まるにつれ、関連情報をネット検索によって得ようとする傾向がはっきりと表れている。
意外だったのは「核」を絡めた検索が、2019年以降に上位10はおろか20からも外れている点だ。北朝鮮は2017年9月以降、核実験を実施していないが、金総書記が「核戦力強化」に繰り返し言及▽核政策に関する法令を採択▽核実験場での動きから「核実験間近」という情報が米韓を中心に発信されている――など緊迫した状況にありながら、ネットユーザーの興味・関心を強くひきつけているわけではないようだ。
また「拉致」「拉致問題」の絞り込み推計検索ボリューム(図3)は、横田滋さんが亡くなった2020年6月に急増したものの、2021年には大きく落ち込み、2022年には上位20から「拉致」というキーワードが消えた。
◇分断70年、韓国との比較
参考のため、同時期の「韓国」についても「絞り込みキーワード」の推計検索ボリュームを調べてみた。「絞り込みキーワード」に使われた用語のうち、検索ボリュームの多い上位10(表2)をみると、「料理」「ドラマ」「旅行」「韓国語」が目立っている。そこからは「韓国料理を作る」「韓国旅行をする」といった目的に向け、情報やヒントを得たいというネットユーザーの意図がうかがえる。
もちろん北朝鮮にも「料理」「ドラマ」などは存在するが、それに興味・関心を持ち、検索によってその手掛かりを得ようという日本のネットユーザーは限定的と言わざるをえない。
北朝鮮と韓国はもともと一つの国だった。同じ民族、同じ言語を話していた両国だが、分断から70年以上を経て、それぞれの国内事情や対外関係は大きく変化し、両国に対する日本側の印象も揺れ続けた。韓国とは1965年に国交を正常化させているが、北朝鮮とは今も国交はない。
韓国との間では近年、徴用工問題など諸懸案は残されているものの、K-POPを中心とした韓流ブームが諸懸案に大きく左右されない形で勢いを維持しているように感じられる。
一方、北朝鮮に関しては「何か関わりを求めて検索する」という意図を日本のネットユーザーから感じ取りにくく、「異形の国を遠くから観察する」ということにとどまっているように思える。北朝鮮は、依然として「近くて遠い国」であることが、今回のビッグデータ分析からもうかがえた。
ヤフー・データソリューション | DS.INSIGHT
※この記事は、Yahoo!ニュース 個人編集部、ヤフー・データソリューションと連携して、ヤフーから「DS.INSIGHT」の提供を受けて作成しています。
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