Yahoo!ニュース

トモダチのシンゾーはいくら払えばいいのか?トランプの米軍駐留経費増額要求の理不尽

山田順作家、ジャーナリスト
そんなにオトモダチでいたのですか、首相?(写真:ロイター/アフロ)

 12月3日、米トランプ大統領は、訪問先のロンドンで、NATOのストルテンベルグ事務総長との会談の冒頭に、こう言い放った。

 "I've asked Japan. I said to Prime Minister Abe, a friend of mine, Shinzo. I said,'You have to help us out here. We're paying a lot of money. You're a wealthy nation. And we're, you know, paying for your military essentially."

(私は日本に頼んだぞ。トモダチの安倍首相にこう言ってね。「あんたらはわれわれを助けるべきだ。われわれはたくさんの金を払っている。あんたらは金持ちの国だ。われわれはあんたらの軍事基盤に大金を払っている」とね)

 この発言の真意は、「日本は払うのだから、NATOもそうしろ」というトランプの牽制だろうが、日本のメディアは、こう伝えた。

《トランプ氏は要求額や伝達時期など具体的な内容には触れなかったが、「首相はたくさん助けてくれるだろう」との見通しを示した。》(読売新聞)

 はたして「見通し」だろうか? すでにトランプの頭の中には、安倍首相が「イエス」と言う前提があり、それを受けての発言だと思えるが、どうだろうか?

 このトランプ発言に菅官房長官は、苦虫を噛み潰して、会見でこう答えた。

「首脳間の外交上のやりとりの詳細を明らかにすることは差し控えたい」「(米軍の駐留経費は)日米両政府の合意に基づいて適切に分担している。それ以上でもそれ以下でもない」

 表向きはそうとしか言えないのはわかる。しかし、気になるのは、やはり、トランプが日本にいくらふっかけてきているかだ。すでに韓国は2019年比5倍増の約50億ドルという報道があり、現在、米側と交渉中だ。これは、米軍の駐留経費の総額45億ドルを上回ってお釣りがくる金額だから、韓国はとても飲めないだろうという。

 ロバート・オブライエン大統領国家安全保障担当補佐官は、11月23日、訪問先のカナダで「韓国は現代においてもっとも経済的に成功した国の一つだ。非常に豊かで技術的にも進んだ美しい国だ」と述べ、韓国に駐留費負担増を求めると言明している。これは、トランプが日本に言っていることと同じだから、この男は単なる大統領の“オウム”だ。

 もう聞き飽きたが、トランプが言っていることは一向に変わらない。「アメリカは日本を守ってやっているのだから、日本はその代金をもっと払え」である。同盟とは互いに利益があるから存在するのに、この大統領はそれがわかっていない。同盟国も敵国もみな同じで、アメリカに寄生して儲けていると思っている。だから、「上納金」をもっと払えと言うのだ。

 じつは、日本の上納金は、すでに明らかもしれない。それは、11月16日に、次のような報道があったからだ。

トランプ政権が日本に在日米軍経費負担の4倍要求か 米誌報道(産経新聞、11月16日)

 米外交誌フォーリン・ポリシー(電子版)は15日、トランプ政権が日本政府に対して在日米軍の駐留経費負担を現在の約4倍に増やすよう要求していると伝えた。複数の現役または退職した米政府当局者の話として報じた。

 同誌によると、問題の要求は今年7月、当時のボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)とポッティンジャー国家安全保障会議(NSC)アジア上級部長が東アジアを歴訪した際、日本で政府当局者に伝達した。両氏は現行の駐留経費負担約20億ドル(約2177億円)を約80億ドルにするよう求めたという。》

 ここで言う「駐留経費」とは、いわゆる「思いやり予算」のことと思われる。「約20億ドル」は、2019年度予算の在日米軍駐留経費負担1974億円とほぼ同じだからだ。

 しかし、在日米軍の駐留経費は、そんな額ではない。日本は、「思いやり予算」とは別に、「基地周辺対策費・施設の借料など約1800億円」「土地の賃料約1660億円」「基地交付金約380億円」など約4000億円を別に負担している。これらすべてを合わせると、約6000億円になる。

 では、その額は、米軍駐留経費のどれくらいを占めているのだろうか? アメリカ側にある国防総省公表データ(2004年会計年度、これが最新という)によると、次のようになる(円ドル換算レートは当時のもの)。

日本   44億1134万ドル(5382億円)74.5%

ドイツ  15億6392万ドル(1908億円)32.6%

韓国    8億4311万ドル(1029億円) 40.0%

イタリア  3億6655万ドル(447億円) 41.0%

イギリス  2億3846万ドル(291億円) 27.1%

 比較年度及び日米で計算方法が違うとはいえ、日本の約6000億円とアメリカの約44億ドルはだいたい一致する。で、その占有率となると、世界各国でもダントツの、なんと74.5%である。

 そこで、100%がいくらかと、計算すると1兆217億円となる。では、思いやり予算をトランプの要求通り20億ドルから80億ドル(約8800億円)に4倍増したらどうなるだろうか?

 約8800億円+思いやり予算外負担約4000億円=1兆2400億円である。こうなると、日本の負担は100%を軽く超える。超過分は、負担ではなくプレゼントになる。

 日本はアメリカの属国である。パクスアメリーカーナのなかで、経済・金融から政治・軍事までアメリカに依存している。日本は、古代ローマ帝国の属州のようなものである。

 しかし、ローマはここまでひどくなかった。属州民には、収入の10%に当たる属州税が課せられたが、その代わり兵役義務が免除された。しかも、212年には、アントニウス帝により、すべての属州民にローマ市民権が与えられ、10%属州税は廃止された。

 現代のローマ帝国の皇帝トランプは、ローマの全皇帝以下である。その馬鹿さ加減は、関税を武器にして、それを振りかざすことに表れている。しかも、軍事費も関税と同じように考えている。このままだと、中国ばかりか、全世界を敵にしてしまうだろう。誰か、トランプに世界のリーダーはなにをしなければならないか、教えてあげなければならない。

 トランプにとってシンゾー・アベはオトモダチではなく、単なるATMである。これまで、イージス・アショア、F35戦闘機105機購入などで、いったいいくら使ったか。軽く2兆円を超えているだろう。さらに、自動車関税の撤廃を先送り(事実上なし)され、農産物の輸入関税をTPPレベルにしたFTAを結ばされた。

 これでは、消費税2%引き上げなど簡単にすっ飛び、年金支給70歳引上げ、75歳以上医療費2割自己負担が実現しても、すべて無意味になる。

 しかも、トランプは日本を守ってくれるかどうかわからない。おそらく、そんな気はないだろう。金正恩と握手するためにだけに会い、米本土に届くICBMには釘を刺したが、日本に打ち込める中距離ミサイルは事実上認めてしまった。これは、日本に対するアメリカの核の傘が効かないことを意味しているので、「守ってほしければカネを払え」という論理は事実上破綻している。

 米下院(民主党)は、トランプ政権が日本と韓国に対して米軍駐留経費の大幅増額を求めている問題について、外交、軍事両委員長の連名で懸念を示す書簡を政権に送った。日米韓3カ国が北朝鮮や中国の脅威に対処すべきときに、トランンプのやり方は「米国と同盟国の間を不必要に引き裂く」と、大統領を批判した。

 日本にとって、トランプ共和党はもはや災害である。安倍首相は、在任最長記録を更新中だが、その間に1回でいいから「ノー」と言ってみせてほしい。

 あなたがアメリカに支払うお金は、あなたのお金ではない。私たち国民の税金である。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

山田順の最近の記事