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5月26日はスーパームーン皆既月食

縣秀彦自然科学研究機構 国立天文台 准教授
皆既月食(2018年1月31日) 撮影:長山省吾 クレジット:国立天文台

月食を楽しむチャンス到来

 今年、5月26日(水)の20時過ぎ、待望の皆既月食が起こります。今回の月食では、天候に恵まれた場合、日本全国で部分食の始まり前後から皆既食、そして部分食の終わりまでを見ることができます。北海道西部、東北地方西部、中部地方西部、西日本では欠けた状態の月が昇ってくる「月出帯食」となります。この夜、満月は、地平線に近い位置で18時44分過ぎに欠け始め、20時9分頃に皆既食となります。

 皆既食となった月は、通常、ほのかに赤銅色に見えます。皆既食は20時28分頃に終わり、その後は徐々に欠けた部分が小さくなって、21時53分前後に部分食が終わり、通常の満月に戻ります。気軽に家族で楽しめる好都合の時間帯での月食と言えましょう。皆既中の月の明るさや色合いはもちろん、部分食中の欠けた満月のようすや、皆既食中の夜空の明るさの変化などにも着目してはいかがでしょうか。

5月26日の皆既月食のようす(東京から見た場合) クレジット:国立天文台 
5月26日の皆既月食のようす(東京から見た場合) クレジット:国立天文台 

皆既食後の部分食のようす(2007年8月28日) クレジット:国立天文台
皆既食後の部分食のようす(2007年8月28日) クレジット:国立天文台

月食が起こる仕組み

 宇宙空間で太陽–地球–月の順に3天体がほぼ一直線と並ぶと、下図のように月は地球の影に入って暗くなります。しかし、影の濃さには2段階あり、地球の半影に入っている間は、月が暗くなったことにほとんどの人は気づかないことでしょう。多くの方々が注目するのは通常、月が地球の本影(影の濃い部分)に入る場合で、部分的に欠ける部分食と完全に隠されてしまう皆既食があります。図からも分かるように、月食が起こるのは満月のときだけです。

月食のしくみ クレジット:国立天文台
月食のしくみ クレジット:国立天文台

 月の満ち欠けの周期は29.5日、つまり約一か月ですが、満月のときに毎回月食が起きるわけではありません。天球上での月の通り道=月が地球を公転する軌道面を白道(はくどう)と呼びます。一方、地球から見ての太陽の天球上での通り道を黄道(こうどう)と呼びます。黄道と白道は約5度傾いているため、両者の交点の近くで満月になるときにのみ月食が起こるのです。

 日食と違って月食は、月が見える場所なら地球上のどこからも見え、皆既食の継続時間は最大1時間40分以上にも達することがあります。ただし、今回は短い皆既時間で20分弱の長さです。地球全体でみると月食が起こる頻度は、年平均約1.4回で、日食の年平均約2.2回よりも少なくなっています。

皆既中の月の明るさと色に注目

 皆既食の最中、月は完全に真っ暗にはならず、微かな赤銅色に見えます。これは地球大気によって屈折・散乱された太陽光が、地球の本影中に入り込むことが原因ですが、夕日や夕焼けが赤いのと同じ理由で、地球大気を通過し月面に届く光は、可視光のなかでも波長の長い光、すなわちオレンジから赤い光のため赤銅色に見えるのです。

 屈折や散乱は、地球大気中の塵や雲などによって影響を受けますので、皆既食中の月の色や明るさは月食の度毎に微妙に異なります。大規模な火山噴火などがあると、地球大気をすり抜ける太陽光が減って、とても暗い皆既食になることが知られています。今回の皆既月食を観察すると、地球大気の状態が推察可能かもしれません。

皆既食が赤銅色に見える理由 クレジット:国立天文台
皆既食が赤銅色に見える理由 クレジット:国立天文台

満月の大きさにも注目しよう 

 今年は2回も日本から月食が見られます。11月19日には、ほぼ皆既に近い食分0.98の部分日食が日本各地で見られます。この時の月食の進行の仕方や月の形の見え方を今回の皆既食と比較してみるのも興味深いことでしょう。

 皆既食を起こす5月26日の満月は今年最も大きな満月(=俗に言う「スーパームーン」。注:国立天文台ではこの用語を正式には採用していません。)です。下図のように今年最小の満月は12月の満月ですが、11月の部分食の満月もほぼ同じ小さなサイズですので、同じ倍率で写真を撮れば、地球を公転する月の軌道が円軌道ではなく、楕円軌道であることに気づくことでしょう。

満月の大きさの違い(2021年) 11月19日の月食の月も12月の満月とほぼ同じく小さな満月となる。 クレジット:国立天文台
満月の大きさの違い(2021年) 11月19日の月食の月も12月の満月とほぼ同じく小さな満月となる。 クレジット:国立天文台

月までの距離の変化(2021年) 4月と5月の満月は大きく、11月と12月の満月は小さいことが分かる。 クレジット:国立天文台
月までの距離の変化(2021年) 4月と5月の満月は大きく、11月と12月の満月は小さいことが分かる。 クレジット:国立天文台

 ただ、肉眼で月を見る際には、その大きさを記録・記憶することは困難なため、天体望遠鏡を用いて同じ倍率で画像を残せば、その大きさの違いを理解することが可能です。天体望遠鏡で月の写真を撮ると聞くと難しいイメージかもしれません。しかし、小型で取り扱いが簡単な月を見るのに適した天体望遠鏡が国内では複数流通しています。例えば、国立天文台望遠鏡キットを用いると、スマホ用のカメラアダプターが付属していますので、簡単に月食を写真に記録することが出来ます。

 国立天文台望遠鏡キットは、学校教育や個人のご家庭で、気軽に天体観察が出来るようにと国立天文台がプロデュースし、複数の販売業者を通じて頒布しています。詳しくは、国立天文台のウェブサイト をご覧ください。

一例として「国立天文台望遠鏡キット」 月食の観察や写真撮影にて適した天体望遠鏡が国内では複数、流通しています。 クレジット:国立天文台
一例として「国立天文台望遠鏡キット」 月食の観察や写真撮影にて適した天体望遠鏡が国内では複数、流通しています。 クレジット:国立天文台

曇ったらどうするの?

 さて、5月26日の天気が気になるところです。お住いの地域の天候が優れない場合は、インターネット中継などを楽しみましょう。全国各地の公開天文台や科学館等で月食中継を予定しています。なお、月は明るい天体なので曇天下でも薄雲を通して、部分食中の欠けた姿が見える場合もあります。天気予報に注意して、場合によっては諦めずに夜空を眺めてみましょう。

日本公開天文台協会(JAPOS)の皆既月食観測キャンペーン・サイト

(全国各地からのインターネット中継サイトのリンク表あり)

皆既月食ライブ配信(国立天文台) 他

その他の参照サイト:

国立天文台「ほしぞら情報」皆既月食

国立天文台「月食とは」

インターネット天文学辞典「月食」

自然科学研究機構 国立天文台 准教授

1961年長野県大町市八坂生まれ(現在、信濃大町観光大使)。NHK高校講座、ラジオ深夜便にレギュラー出演中。国際天文学連合(IAU)国際普及室所属。国立天文台で天文教育と天文学の普及活動を担当。専門は天文教育(教育学博士)。「科学を文化に」、「世界を元気に」を合言葉に世界中を飛び回っている。

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