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「彼らのことを日本のサッカーファンも知ってほしい」Kリーグが日本語発信に踏み切った理由

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
スポーツナビのKリーグ公式ページのキャプチャー画像

韓国のプロサッカーリーグであるKリーグが、日本で新しい試みをスタートさせている。日本最大級のスポーツ総合サイトである『スポーツナビ』を通じて、Kリーグの最新情報を発信しているのだ。

『スポーツナビ』では2019年3月からスポーツ競技団体(協会、リーグ、クラブなど)が情報発信できる「公式情報」ページを開設。

登録団体の数は現在、200を超えており、海外のリーグやクラブも情報発信している。この「公式情報」にKリーグもページを持つことになった。

(参考記事:スポーツナビ・公式情報『Kリーグ公式』ページ

1983年にアジア初のプロサッカーリーグとしてスタートしたKリーグが、公式情報を日本語で発信するのは初めてであり、『スポーツナビ』内で公式コンテンツを配信する韓国のスポーツ団体はKリーグが初めてとなるが、なぜ、Kリーグは日本で情報発信を始めるのか。

韓国プロサッカー連盟のウ・ジョンシク氏は語る。

「Kリーグが韓国語ではない他国の言語で情報発信するのは今回が初めてではありません。公式サイトには英語版もありますし、月に1度は英文でのニュースレターも配信しています。

ただ、そのニュースレターは海外の協力社や関係者などにKリーグの近況を伝えるビジネスライク的なものであって、一般を対象にした、つまりサッカーファンのためのものではありませんでした。

これから始める日本語サービスは、日本のサッカーファンたちのために始めるものです。現在、Kリーグでは多くの日本人選手がプレーしています。そうした彼らの活躍はもろちん、Kリーグに関するさまざまなニュースや情報を、日本のサッカーファンのみなさんにも届けたいという思いから始まるプロジェクトなのです」

2001年に海本幸治郎が城南一和(現・城南FC)に加入して以来、Kリーグでは数多くの日本人選手がプレーしてきた。今季は天野純が蔚山現代に、鈴木圭太が大邱FCに、佐藤優平が全南ドラゴンズに、丸岡満が金浦FCと4名の日本人選手が新たにKリーグへ。

邦本宜裕(全北現代)、小林祐希(江原FC)、西翼(ソウルイーランドFC)、石田雅俊(大田ハナシチズン)、磐瀬剛(安山グリナース)などすでにKリーグでプレーしている選手たちを含めると、今季は9名の日本人選手がKリーグでプレーしている。

「Kリーグでは2009年からアジア枠を導入していますが、この10年でどれだけの日本人選手が韓国にやって来たか、ご存じですか?

Kリーグにやって来たアジア枠選手は2022年3月基準の累積で110名になりますが、そのうち、日本人選手は33名になります。

これは39名で最多のオーストラリアに次ぐ数で、3位のウズベキスタン(16名)と比べてもかなり開きがあります。今やKリーグにおいて日本人選手は欠かせない存在になりつつあるのです」(ウ・ジョンシク氏)

実際、Kリーグにおける日本人選手の存在感は年が重なるごとに増している印象だ。

昨年は登録名を“マサ”とする石田がKリーグ2(2部リーグ)の年間ベストイレブンに選ばれた。Kリーグ1(1部リーグ)の年間ベストイレブン候補にも名を連ねた邦本は、昨季年間MVPのホン・ジョンホが「2022年の年間MVPは邦本ではないか」と予想するほどでもある。

天野に至っては開幕2試合目で、Kリーグ第2節のベストイレブンとMVPを受賞。

天野については韓国サッカー取材歴が長い吉崎エイジーニョ氏も詳しく紹介しているが、そうした日本人Kリーガーたちの活躍もKリーグが日本語での情報発信に踏み出すきっかけになったと言えるだろう。

(参考記事:「いきなりMVP」「現地絶賛テク」 最近の日本人Kリーガーがスゴすぎる "サポ席に日本国旗"も

「韓国のサッカーファンたちの間で日本人選手と言えば、“テクニシャン”を連想することが多いです。先ほど言及した33名の日本人Kリーガーたちの登録時のポジションを見ても、MFが27名、FWが4名、DFは2名(登録時基準)となっています。

これはKリーグの各クラブが日本人MFを好む傾向にあることを示していると思いますし、邦本、マサ、天野、西翼などがテクニシャンとして認知されています。

また、日本人選手たちはピッチの外でも“誠実”というイメージが強くあります。代表的なのが大田ハナシチズンのマサです。彼は昨季、一生懸命練習した韓国語で“人生をかけて昇格したい”という名言を発し、一躍、人気者になりました。

このマサを含め異国の地でプレーする日本人選手に対して、日本のサッカーファンたちが強い関心と愛情と愛着を注いでいることも有名です。

蔚山現代は天野獲得後、日本のファンからユニホーム購入の問い合わせが多く寄せられたことを受けて、日本ファンを対象にしたオンラインモールの開設も進めているほどです」

着実にその存在感が増している日本人Kリーガーたち。その活躍を日本のサッカーファンたちに知らせ、Kリーグの魅力も伝えたい。

Kリーグがスポーツナビで公式情報ページを開設することを決めた背景には、そういう思いもあってのことなのだろう。ウ・ジョンシク氏も期待を込めてこう語る。

「Kリーグには優れた日本人選手がたくさん活躍していますし、Jリーグでもたくさんの韓国人選手が活躍しています。彼ら選手たちを起点に、日本でもKリーグと韓国サッカーに対する関心が高まることを期待して、スポーツナビでの情報発信を始めることになりました。

それに韓国と日本はサッカーの世界においてライバルであり、AマッチやACLといった国際試合で“善意ある競争”をしながら切磋琢磨してきた間柄です。今回の公式情報発信を通じて、日本のサッカーファンたちにとってもKリーグが身近な存在になってくれることを願っていますので、ご関心のほど、どうぞよろしくお願いします!!」

Kリーグが日本語で始める情報発信。日韓サッカー交流を活性化させる、ひとつの“デバイス”になってくれることを期待したい。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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