Yahoo!ニュース

「いきなりMVP」「現地絶賛テク」 最近の日本人Kリーガーがスゴすぎる "サポ席に日本国旗"も

横浜F・マリノスから今季蔚山現代に移籍した天野純 写真提供=Kリーグ

Kリーグのトップクラブで日本人選手が躍動している。

今季横浜F・マリノスから蔚山現代(ウルサン・ヒョンデ)に加わったMF天野純(30)は、2月27日の第2節で2ゴールを決めリーグ選定の週間MVPを獲得した。聯合ニュースも「ワンマンショー」「蔚山の新型エンジン」と評する活躍ぶり。それもリーグデビューから2戦目でのものだった。

昨シーズンより全北現代(チョンブク・ヒョンデ)モータースに所属するMF邦本宜裕(24)は、2月19日の開幕節(対水原FC/ホーム)で「緩急技」を披露。思わずクラブ公式SNSがこう記した。

”스고이(スゴイ)”

日本語をハングルで表記してしまったのだ。この動画が23万回再生されるヒットとなっている。

2人が所属するのは、現在の韓国の2大クラブだ。

2020年ACL優勝&3年連続リーグ2位(天野の蔚山)、リーグ5連覇中(邦本の全北)。

こんな時代がやってきたか。そう思わせる。両国サッカー史のなかでもこれはかなりスゴイ出来事だ。

天野&邦本”現地で大絶賛”のプレーとは?

写真提供=Kリーグ
写真提供=Kリーグ

「近年の自分に納得していない。2020年のACL王者の厳しい環境で、日々の練習に揉まれる事で、もっと強くて逞しい選手に成長できるのではないか」

30歳でのレンタル移籍の理由をそう口にする天野。MVP選出は、リーグ戦第2節、城南FC戦(アウェー)での活躍からだった。

昨季から監督に就任した洪明甫監督の下、4-3-1の2列め中央のポジションで先発出場。

0-0で迎えた後半開始直後にペナルティボックス付近でのこぼれ球を左足でハーフボレー。先制点とした。後半10分には自らの絶妙な動きで相手のファウルを誘い、得たPKを決め2ゴール目。勝利の立役者となった。

一方の邦本は、2月19日の開幕戦でのプレーが称賛された。

バイタルエリアの左サイドにてボールを受け、ドリブルを開始。

相手はペナルティエリア内に侵入させまいと、”中を切り”つつプレッシャーをかけてくる。

邦本はこれを鋭く威嚇し返すような、鋭利なステップ。いったん外のスペースでボールを置く場所を確保すると…

ワンテンポ置いて、フニャッとノールックパスを見せた。

ゴールに繋がるプレーではないが、どっと沸くスタンド。

動画:全北・邦本の超緩急技(クラブ公式FaceBook)

動画がアップされたページには990の「いいね!」がついた。

かつてはJリーグで2クラブを追われた。2017年の7ヶ月のブランクを経て2018年シーズンから韓国に渡って今季が4シーズン目。余裕すら感じさせるプレーだった。

かつては高原、前園もプレー

かつて「日本人がKリーグでプレー」というのは「望まざる場所に仕方なく行く」という面があった。時に「都落ち」とさえ書かれた。

インフラが整わず、人気がなく、Jリーグの「地域密着」のような哲学もなく、日本ではプレーぶりが報じられず、さらにサラリーも下がる。そんな場所。

史上初の日本人プレーヤーは、01年~02年に城南一和(現城南FC)に在籍した海本幸治郎。ガンバ大阪を度重なる負傷で退団して後のチャレンジだった。

それ以降はビックネームもプレーした。

前園真聖(03年~04年)と高原直泰(2010年)。

いずれもキャリアの全盛期は過ぎた状態だった。

前園は東京ヴェルディから湘南ベルマーレへのレンタルを終えた03年、安養LGチータース(現FCソウル)に在籍。2シーズンで計20試合出場、ノーゴールに終わった。メディアは当時水原に在籍していたチェ・ソンヨンとの「アトランタ五輪代表対決」を煽ったりもしたが、期待に応えたとは言い難かった。

高原は2010年のシーズン後半に在籍した。浦和レッズ在籍当時、フォルカー・フィンケの構想に入れず、半年のレンタル契約。当時のKリーグ最大のビッグクラブにあって、大活躍とは言えないものの12試合4ゴールを記録した。

そのなかでも、同年8月28日のFCソウルでの2ゴール&MVP獲得には触れなくてはならない。同国で「スーパーマッチ」と呼ばれるナショナルダービーでの記録なのだ。

4万万2377人が集まったホーム”ビッグバード”にて2-2で迎えた後半39分、45分に連続ゴール。MVPも獲得した。スペインでいうならエル・クラシコで一番の活躍を見せたようなものだ。韓国の地に”爪痕”は残したのだった。

韓国側が日本人選手を求めなかった理由「やっぱり低く見ていた」

なぜ日本人Kリーガーが少なかったのか、という理由には「韓国側の日本選手獲得に対しての距離感」もあった。

「ニーズに合わない」

2000年代までははっきり言って日本サッカーや日本選手を”ナメていた”。

日本代表は92年のダイナスティカップ、93年のアメリカW杯予選あたりから勝ち始めたが、筆者の肌感でいうと2000年代まではそういった視点があった。

本稿の主旨たる「日本人選手が韓国に行く」という話と逆の例え話だ。「韓国人選手をJリーグに売り込む」という”従来”の流れの中で、両国エージェントの間にはよくこういう話があった。

韓国人エージェント:「日本スタイルの選手です」

要は国内ではちょっと力強さに欠けるテクニシャンに関する話だ。日本スタイルの選手なら、日本にいるというのに。またこういった話もあった。

同:「彼は年代別の韓国代表でした」

いやいやこれも、元年代別日本代表選手はホントにたくさん日本にいる。要は「フィジカルコンタクトが緩く、容易いリーグ」というイメージ。韓国では少々”弱い”選手でもイケるだろ。こういった強い先入観があった。

そんな国の選手だから、わざわざ外国人枠を使ってっでも欲しいとは思わない。09年までは「アジア枠」も存在せず、前園や高原のような「名前のある」超大物が時折移籍する、という事例があるに留まった。

09年以降、明確な「ニーズ」が生まれる 

しかし、その09年のアジア枠のスタートが流れを変えた。韓国では豪州や中央アジアのタレントが活躍するなか、その「1」を日本人に使うクラブが出てきた。

そんな折、2012年12月の取材時に「韓国側の日本人選手への考え」の端的なものを聞いた。

ACLで優勝後、クラブワールドカップに出場した当時の蔚山現代のキム・ホゴン監督(アテネ五輪代表監督)へのインタビュー時だ。

「最前列と最後尾を中盤で繋ぐ存在として、技術のある日本人MFが欲しい」

2012年はロングキックを(194センチの)FWキム・シヌクに当てる作戦が的中したが、2013年は別のオプションを加えたい。そう話していたのだ。

よく韓国のサッカーは「剛」、日本のサッカーは「柔」のイメージで語られるが、まさにそのとおりの話だった。

実際、その翌年にマジョルカ(スペイン)から家長昭博がやってきた。彼と近い時期に韓国に渡った大橋正博(09年江原)、馬場憂太(大田)、島田裕介(12年江原)、高萩洋次郎(2015年~16年ソウル)も同様のイメージだった。そして冒頭の天野、邦本もそうではないか。

また、この傾向には「Jリーグの発足により日本との縁が強まった」という点もある。かつての選手が監督やコーチとなり、具体的なイメージのある日本人選手を呼ぶのだ。

でも近年の日本人Kリーガーのうち一番のビッグネーム、現在も川崎フロンターレで大活躍する家長を呼んだ監督キム・ホゴンは日本とは無縁ではないか…そうでもないのだ。慶応大と関係の強い延世大の出身で、慶大ソッカー部OBとの縁は卒業後も続き、よく日本に遊びに… いずれにせよ両国には思ったよりも深いつながりがあるのだ。

”韓国人が強い”ポジションでの成功者は?

天野、邦本らのトップクラブでの躍進はこういった歴史の上に成り立っているものだ。

では次のステップとしてこの点は実現するだろうか。

「スキルフルなMF以外の選手も活躍する」

韓国人自らも「強い」と考えているプレーヤーが活躍するのか、ということだ。2018年シーズン後半に元日本代表の豊田陽平が蔚山現代の門を叩いたが、9試合出場2ゴールと大活躍とは行かなかった。また守備のセンターラインには韓国側に請われ、大活躍を見せた選手はいない。

ただし、FWにはその萌芽が見える。

2012年シーズン途中から15年までFCソウルに在籍したエスクデロ 競飛王は、猛烈なスパルタ式のチェ・ヨンス監督の下で”開花”。2013年にはアジアチャンピオンズリーグ決勝に出場し、2戦で1ゴール2アシストの活躍。優勝は逃したものの相手の広州恒大の時の監督マルチェロ・リッピは「彼こそがアジア最高のプレーヤー」と評した。

日本育ちの在日コリアン安柄俊(アン・ビョンジュン)は、川崎フロンターレやロアッソ熊本に在籍後、2020年シーズンからKリーグ2部で旋風を巻き起こしている。初年度に水原FCで20ゴールを挙げ得点王。翌年は釜山アイパークで23ゴール、連続して同タイトルを獲得した。

「Kリーグのスタンドに日本国旗」 大反響を呼ぶ無名FW

また2部リーグではあるが、「韓国人DFをスピードとパワーでぶっちぎる」「闘志あふれる熱い言葉で韓国人の心を揺さぶる」といったFWも登場している。

石田雅俊。市立船橋高から2014年に京都サンガに入団したが、2016年シーズン途中からは相模原SC、アスルクラロ沼津などにレンタル移籍して過ごした。

2019年にKリーグ2部の安山グリーナスに移籍し、同年は年間9ゴール。翌2020年は当時2部の上位クラブだった水原FCで10ゴール。2021年シーズンは1部の江原FCに迎え入れられたが…わずか半年で2部の大田ハナ・シティズンにレンタルに出されてしまう。

そこからがこの選手のスゴいところだ。

10月16日、忠南牙山(チュンナム・アサン)戦で相手DFをスピードとフィジカルでぶっちぎるゴール。2部リーグながら、日本人選手が個の力で韓国人DFラインをこじ開ける姿は強烈なインパクトを残した。

この選手の魅力は「韓国語」にもある。とにかく自分の言葉で話しまくる。カタカナ読みではあるが、語彙は豊富。逆にそこに当地でのサバイバルの跡を感じさせる。

昇格争いの最中にあった2021年10月10日、第33節の安山グリーナス戦ではハットトリックを記録。その後のインタビューで「ファンにメッセージを」と求められ、韓国語でこう言ったのだ。

「僕はここまでのサッカー人生を通じ、(自分を)敗北者だと思っています」

「それでも今、毎試合、人生を変えられる試合(機会)があります」

「いずれにせよ昇格、それに人生を賭けてやります」

この言葉には大反響があり、YouTube動画の再生回数12万回、スタンドには日本語で「人生賭けて」という横断幕が掲げられた。

チームは結局昇格を逃してしまうのだが、この言葉は「根性」「精神力」を叩き込まれてきた世代のイ・ミンソン監督の心にも響くものだった。

「選手がそこまで考えているなんて知らなかった。むしろコーチングスタッフが反省し、気を引き締め直すきっかけになった」

熱い言葉を自分で伝えられる。上手いか下手かなんてどうでもいい。語学学習者の鏡ですらある。

結果、翌々節の35節にはスタンドの応援席に日本国旗が掲げられるまでになった。2021年3月の横浜での日韓戦時には韓国代表ユニフォームに対戦相手の日本の国旗を入れたことが大問題となるほどに”敏感”な地で出来事だ。

石田は今季から大田に完全移籍。再び1部昇格を目指して戦っている。

待遇面でも悪くはないリーグ

Kリーグは例年選手年俸関連のデータを公表している。

2021年シーズンの1部リーグ平均年俸は約2070万円、外国人の平均は約6230万円。2部リーグはそれぞれ1040万円、2920万円となっている。

1部の外国人選手の最高年俸は大邸FCのブラジル人アタッカー、セシーニャの約1億4800万円。5位(約1億900万円)までに日本人選手は入っていない。

条件でも決して悪くないリーグだ。今後さらに日本人選手のチャレンジも増えてくるのではないか。

現在Kリーグには下記の日本人選手が在籍している。

Kリーグ1(1部リーグ)

邦本宜裕(全北現代) : 登録名'쿠니모토(クニモト)' 元浦和,福岡

天野純(蔚山現代) : 登録名'아마노(アマノ)' 元横浜FM(期限付き移籍)

鈴木圭太(大邱FC) : 登録名'케이타(ケイタ)'

小林祐希(江原FC) : 登録名'코바야시(コバヤシ)' 元東京V,磐田ほか

Kリーグ2(2部リーグ)

石田雅俊(大田ハナシティズン) : 登録名'마사(マサ)' 元京都、沼津ほか

佐藤優平(全南ドラゴンズ) : 登録名'유헤이(ユーヘイ)' 元東京V

磐瀬剛(安山グリナース) : 登録名'이와세(イワセ)' 元群馬

西翼(ソウルイーランド) : 登録名'츠바사(ツバサ)'

丸岡満(金浦FC) : 登録名'마루오카(マルオカ)' 元C大阪

(了)

吉崎エイジーニョ ニュースコラム&ノンフィクション。専門は「朝鮮半島地域研究」。よって時事問題からK-POP、スポーツまで幅広く書きます。大阪外大(現阪大外国語学部)地域文化学科朝鮮語専攻卒。20代より日韓両国の媒体で「日韓サッカーニュースコラム」を執筆。「どのジャンルよりも正面衝突する日韓関係」を見てきました。サッカー専門のつもりが人生ままならず。ペンネームはそのままでやっています。本名英治。「Yahoo! 個人」月間MVAを2度受賞。北九州市小倉北区出身。仕事ご依頼はXのDMまでお願いいたします。

吉崎エイジーニョの最近の記事