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日本男子バレーボールを“世界の強豪”に押し上げたブラン監督はいま。韓国Vリーグでどうしているか

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
フィリップ・ブラン監督(写真提供=スポーツソウル)

男子バレー日本代表を“世界の強豪”に押し上げたフィリップ・ブラン監督が、韓国で新たな挑戦に乗り出している。

今夏のパリ五輪は準々決勝敗退に終わったものの、直前のFIVBバレーボールネーションズリーグ(VNL)では47年ぶり銀メダル獲得に導き、日本男子を世界ランキング2位まで浮上させたブラン監督。この躍進ぶりには、韓国でも自国代表と比較して「“日韓の格差”がますます広がっている」と報じられるほどだった。

(参照記事:日本は「ライバル」ではなく「お手本」?凋落する韓国バレー界が“羨望の眼差し”を向けるワケ

そんなブラン監督はパリ五輪を終えて契約が満了。8月16日に日本バレーボール協会を通じて退任が発表されたのだが、次の日の17日にはすでに新天地に入国した。

次なる舞台は韓国プロバレーのVリーグ男子部。ブラン監督は2024-2025シーズンより現代キャピタル・スカイウォーカーズを率いる。

そもそも、現代キャピタルがブラン監督の就任を正式発表したのは今年2月。当時は前シーズンのリーグ戦真っ只中のタイミングであり、シーズン終了を待たずに来季の新監督を明らかにするのは異例のことだった。

それでも、日本代表監督が韓国Vリーグで新たに指揮を執るということもあり、国内メディアも「名将ブラン監督選任」「韓国バレーに革新をもたらす」「日本の変革導いたブラン監督、現代キャピタルにも新風吹かせるか」などと大きく注目していた。

全7チーム体制の韓国Vリーグ男子部では現代キャピタル含め3チームで監督交代が行われたが、ブラン監督はパリ五輪の影響で最も遅くチームに合流した。

そのため、現代キャピタルでは例年以上に急ピッチでシーズンの準備が進められているようで、『スポーツソウル』バレー担当のチョン・ダウォ記者も「トレーニングが想像以上に高い強度で進められているとのことです」と打ち明ける。

そんなブラン監督は最近、現代キャピタルの本拠地キャッスル・オブ・スカイウォーカーズで『スポーツソウル』の要請に応じたインタビューで、「システムを構築し、確立することに邁進している。チームを把握し、選手、コーチングスタッフをチェックすることに時間を費やしている。良いチームを作ることに集中している」と語った。

現代キャピタルは韓国代表エースのホ・スボン(26)やチョン・グァンイン(33)など既存の主力メンバーが健在であり、そこに新戦力としてキューバ出身のレオナルド・レイバ(34)を獲得。アジア枠で中国出身のアウトサイドヒッター、ドン・シンペン(23)も加わった。

韓国Vリーグ男子部は9月21日から始まった前哨戦のカップ大会「KOVOカップ」を経て、10月20日より新シーズンが開幕する。

「今はすべての選手をテストしている」というブラン監督は、「ホ・スボンはすべてのポジションに適している。レオはコンディションが完璧になったら改めてチェックするだろう。ドン・シンペンはチームの重要な資産だ。チームにとって最もバランスの良いベスト6を見つけ出そうとしている」と現在のチーム状況を語っていた。

ブラン監督が初挑戦の韓国Vリーグで成功できるか。チョン記者はそのカギを「経験不足のセッター陣」が握ると展望する。

「セッター陣は代表歴もあるキム・ミョングァンが兵役により入隊したため、イ・ヒョンスン、イ・ジュンヒョプという2001年生まれの若手2人でシーズンを準備しています。ただ、イ・ヒョンスンはまだプロ3年目で、2022-2023シーズンに26試合(96セット)に出場したのが最高記録。イ・ジュンヒョプも同様に経験が多くありません。ブラン監督もこの点はよく理解しているようです」

実際、指揮官は「2人のセッターと一緒に、可能な限り高みに上がりたい。コーチングスタッフの一員として、若いセッターが成長し、重い責任感を分担できるように助ける。すべての選手とコーチングスタッフが助けているという気持ちになれるよう努力する」と、セッター陣の成長に期待を寄せているようだ。

そんなブラン監督が強調するのが“中長期プロジェクト”だ。「(韓国)Vリーグでチームを構築するのは独特だ。外国人選手も選ばなければならず、新人選手の選抜もある。選手たちを着実に成長させるプロジェクトになるだろう」とし、次のように力を込めた。

「若い選手たちには時間がもっと必要だ。優勝という言葉は(選手たちに)重圧とプレッシャーを植え付けかねない。頂上奪還はプロジェクトの最終目標としている。まずはコートで良いバレーボールを見せることが重要だ。(頂上奪還が)いつ実現するかはわからないが、全力を尽くして達成できるように頑張りたい」

男子バレー日本代表を世界の強豪に押し上げたように、2018-2019シーズンを最後に韓国Vリーグの王座から遠ざかる現代キャピタルを再び頂点に導けるか。

昨日行われたKOVOカップ開幕戦では荻野正二監督率いるOK貯蓄銀行相手に3-0で完勝した現代キャピタル・スカイウォーカーズ。ブラン監督の挑戦を今後も注目していきたい。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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