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おかえり、りんちゃん! 元阪神・林威助さんが100周年の甲子園球場で6年ぶりのファーストピッチ

土井麻由実フリーアナウンサー、フリーライター
“りんちゃんスマイル”を炸裂させる林威助さん

■「台湾デー」のゲストに林威助さん

 “りんちゃんスマイル”は健在だった。

 阪神甲子園球場で開催された「台湾デー」。そのゲストとして、台湾から来日した元阪神タイガース林威助さん。6年ぶり2度目の“登板”だ。

 その愛くるしい童顔は6年前と…いや、タテジマをまとっていた現役時代とまったく変わらない。時空が止まっているのかと錯覚するほどだ。

 「もう45(歳)ですよ。顔が丸いからかな」と白い歯をこぼす林さん。老いを知らないその笑顔に、失礼ながらつい「かわいい」と思ってしまう。変わらず流暢な日本語も、時の流れを感じさせないのかもしれない。

 6月7日の「台湾デー」に先駆けて同5日に到着した林さんは6日間滞在し、久しぶりの日本を満喫した。

 (注:「台湾デー」については後述)

りんちゃんスマイル
りんちゃんスマイル

りんちゃんスマイル
りんちゃんスマイル

■「台湾デー」でのお仕事

 当日、林さんは大忙しだった。まず甲子園歴史館の「一日館長」に就任し、午後1時から来場者に自身の名刺を手渡しした。それを目当てに大勢のファンが長蛇の列を作ったが、先頭の母娘は4時間も前の朝9時に来たとか。ずっと応援し続けてきた林さんに会えるとあって、いてもたってもいられなかったようだ。

 また、6年前と同じく台湾からのファンも多く、いまだ日台にわたってどれほど高い人気を誇っているのかが、よくわかる。

甲子園歴史館の一日館長に就任
甲子園歴史館の一日館長に就任

 林さんが登場すると並んでいる人々から黄色い歓声が飛び、さながらアイドルのコンサートのようだった。一人一人に丁寧に手渡し、笑顔で受け応えをする林さんに、来場者はみな感激していた。

黄色い歓声に出迎えられた
黄色い歓声に出迎えられた

 続いて「甲子園歴史館スタジアムツアーOB便」の解説者として、ツアー参加者と撮影をし、スタンドでタイガースの練習を見学しながらトークを繰り広げた。

 参加者からの質問にもユーモアを交えながら答えていたが、その中で座右の銘「一球撃命」が出てきたのがなつかしかった。林ファンなら、タイガースファンならお馴染みの言葉である。

タイガースの練習を見学しながらトーク
タイガースの練習を見学しながらトーク

 そのあと阪神甲子園駅の駅前広場に移動し、台湾東部沖地震への救援金の募金活動を行った。募金箱の前に立ち、募金をしてくれた人にお礼を言って記念撮影に応じた。

 「台湾は親日。日本人が大好きなんです。力になれたら、僕も嬉しく思います」と日台の架橋として、これからも尽力することを誓っていた。

(上)募金活動中の林威助さん (下)台湾プロ野球のチアと林威助さん
(上)募金活動中の林威助さん (下)台湾プロ野球のチアと林威助さん

 さらに外周のミズノスクエアのステージにて、トークショーに出演。林さんの姿を間近で見られるとあって、ステージ前は黒山の人だかりとなった。

 ここでもまた爽やかな笑顔を振りまいた林さんに、集まったファンは魅了されていた。

ミズノスクエアのステージで話が弾む
ミズノスクエアのステージで話が弾む

甲子園歴史館では一人一人の目を見て名刺を手渡した
甲子園歴史館では一人一人の目を見て名刺を手渡した

■6年ぶりのファーストピッチセレモニー

 いよいよファーストピッチセレモニーだ。その名がコールされると大歓声がわき、林さんは両手を挙げて応えた。そしてマウンドに向かうと、ライトスタンドからはなつかしい曲が…!

 ♪それいけ今こそ 炎の一打を ウェイツゥ ウェイツゥ 勝利を目指して~

 リン・ウェイツゥ!リン・ウェイツゥ!

 そう、林威助選手のヒッティングマーチが奏でられたのだ。かつて幾度も感動させてくれた背番号31の帰還を、タイガースファンはおおいに喜んでいた。

ヒッティングマーチに手を挙げて応える
ヒッティングマーチに手を挙げて応える

 大きくふりかぶって投げた林さんだが、踏み込んだ瞬間に右足を少し滑らせかけたのはご愛敬。ナイスピッチングを披露して、拍手喝采を浴びた。

 大役を終え、林さんは安堵した表情だった。「さっき滑りそうだったんですけど」と照れ笑いし、「今日の仕事はこれで終わり。ホッとしてます」と話した。ヒッティングマーチには相当感激した様子だった。

 「やっぱり久々で、曲を聴いてもう一回、現役のときの思い出がわいてきています。台湾に帰って10年も経ったし、甲子園も6年ぶりなのに、僕のことを覚えていただいていて、本当に感謝ですね」。

 そう言って、タイガースファンに頭を下げていた。

みごとなピッチング
みごとなピッチング

ラッキーに出迎えられる
ラッキーに出迎えられる

■古巣にエール

 古巣・タイガースのことはもちろん、ずっと気にかけている。すべての試合を見られるわけではないが、常にチェックは欠かさないという。

 この日を迎えるまで虎打線は低調で、直近は東北楽天ゴールデンイーグルス相手に3連敗を喫していた。

 「1つの試合の勝ち負けってすごく大きい。この3連敗も九回に逆転されて…そういうのは一番悔しい。でも長いシーズンですので、そういうゲームはあるし、こういう時期もある。今は我慢の時期ですね。主力選手は何人かまだファームにいるし、しっかり調整できればね。これから彼らが実力を発揮したら…。去年の優勝チームだから力はある。勝率も5割ですし」。

 後輩たちに力強くエールを送っていた。

甲子園歴史館に展示されている林威助さんのユニフォームと道具
甲子園歴史館に展示されている林威助さんのユニフォームと道具

甲子園歴史館の展示
甲子園歴史館の展示

■林さんにとっての岡田監督とは

 自身も監督経験者だけに、岡田彰布監督の心労も痛いほどわかるのではないだろうか。「いや、僕はまだまだですけど」と恐縮しつつも、「岡田さんは勘が鋭いんで、これから勝っていくでしょう」と期待をこめる。

 ファーストピッチの前には、岡田監督にあいさつに行った。「しっかりデータを見ていたので、ちょっと邪魔したなと思って…。やっぱりすごいなと思いましたよ」と、明かす。

 岡田監督は気さくに「お!りんちゃん!始球式しに来たんか」と迎えて入れてくれ、「はい、頑張ります」と答えたという林さんは、再会に顔をほころばせていた。

 現役時代、そう多く言葉を交わしたわけではなかったが、ここぞというときの代打策や投手交代など、その勝負勘を尊敬していたという。

 「やっぱりデータも頭の中に入っているんでしょうね。このバッターにはこのピッチャーがいいとか、頭の中で計算しているんでしょうね。データがある上での勝負勘が鋭い。やっぱりすごい監督だと思います」。

 岡田監督については、忘れられない思い出があるという。2007年の横浜ベイスターズ戦だった。打撃の調子をやや落としていた林選手は試合前、岡田監督から一声かけられ、その直後、ホームランを放ったのだ。

 「何を言われたのかは、イマイチはっきり覚えてないんだけど…(笑)。でもバッティングのアドバイスで、それを聞いてすぐに結果が出たんです。その年は一番よく使っていただいたなぁ」。

 普段は近づきがたい雰囲気があるが、よく見ていてくれて要所でヒントをくれる監督だったと振り返る。

りんちゃんスマイル
りんちゃんスマイル

■大学の後輩・サトテル選手と初対面

 この日は平田勝男ヘッドのはからいで、母校・近畿大学の後輩である佐藤輝明選手とも初対面した。

 かねて林さんは、同じ左打者の後輩のことを気にかけていた。この日、1軍登録されたことを聞き、「『頑張ってください』って言いました。持っているものは素晴らしい。力もあるし、打撃も柔らかい。これから活躍が楽しみ」と、今後の爆発を期待していた。

 そのあと、佐藤選手は林さんが観戦する目の前で昇格即ヒットを放ち、先輩の檄に応えた。しかもマルチ打をマークし、林さんを非常に喜ばせた。

 また、平田ヘッドからも「元気か?」と声をかけられたことを明かした林さんは、「あの人はいつも明るいんで、元気をもらえますね」と笑いを添えた。

 なおこの日、タイガースは埼玉西武ライオンズに勝利し、林さんは“連敗ストッパー”の役目も果たした。

りんちゃんスマイル
りんちゃんスマイル

■憧れの甲子園球場

 今年、甲子園球場は開場100周年を迎える。その節目の年の「台湾デー」にゲストとして招聘されたことを、林さんは非常に光栄に感じている。6年ぶりにグラウンドに足を踏み入れ、「やっぱりすごく広い球場だなと思いました」と、あらためてその大きさに圧倒されたという。

 「台湾に帰って10年くらい経つんですけど、台湾にはこういう球場はなかなかないですね。客席がね、すごく高い(位置まである)でしょ。台湾だとだいたい(収容人数が)2~3万人くらいじゃないですか。甲子園は4~5万人くらいは入るから。それで100年の歴史があって…やっぱりすごいですね」。

 かつて中学生の林少年はテレビで見た日本の高校野球に夢中になり、日本行きを決意した。そのころから甲子園球場は、林さんにとって特別な場所だった。だから今回、畏敬の念をもってスーツも新調してきたという。

 「野球の柄がいっぱい入っていたんで、せっかくなのでこの柄でと仕立て屋さんに頼んで。やっぱりピリッとしないとね(笑)」。

 ボタンを開けなければ見えないような裏地にも、自身のこだわりや思いを忍ばせているのが林さん流だ。

実は…とスーツの裏地を披露
実は…とスーツの裏地を披露

 そして、それはまた、今回も同行された林さんのお母さんにとっても同じ思いだ。我が子が憧れた甲子園球場やタイガースファンが、月日が経った今も温かく迎え入れてくれていることに、胸を熱くされていた。

 6年前と同じくファーストピッチのときにはグラウンドに出て、かたわらで見守っておられた。2年前に事故に遭われたが、「歩けなかったのが元気に回復して、一緒に来られて本当によかった」と、雄姿を見てもらえて林さんも笑顔だった。

甲子園に集まったタイガースファンにあいさつ バックスクリーンのビジョンには同行されたお母さんの姿も
甲子園に集まったタイガースファンにあいさつ バックスクリーンのビジョンには同行されたお母さんの姿も

■指導者として研鑽を積む

 2003年から2013年まで虎戦士として活躍し人気を博した林さんは、祖国に帰ると2014年から2017年まで台湾プロ野球の中信兄弟で主砲としてチームを牽引した。

 引退後は同チームの2軍監督として2年連続優勝すると、2021年には1軍監督に就任して台湾一にも輝いた。

 現在の林さんは、台中にある国立台湾体育運動大学で客員打撃コーチを務めている。

 「教えるのは(相手が)プロであっても大学生であっても変わりはないし、自分ももっともっと勉強しないといけない。10年前の野球を教えると今は違うし、10年後もまた違っていると思う」。

 体の使い方や考え方、理論などは時とともに変化し、進化している野球。それに対応しながら、選手に最も適切な指導法を学んでいるという。

 「科学スポーツもいろいろあるんですけど、何がアジア人にとって一番いいのか、それも勉強できたらと考えています。将来のために、選手に教えられるようにしたい」。

 教えながら勉強し、勉強しながら教える日々だ。

熱く語る林威助さん
熱く語る林威助さん

■日本が大好き

 6年前の「台湾デー」は2軍監督のシーズン中だったため“弾丸日程”だったが、今回はゆったりしたスケジュールだ。近大時代の監督はじめ、お世話になった方々へのあいさつ回りも含め、観光などにもあちこち足を運んだ。

 滞在中は「焼肉と寿司は絶対でしょ(笑)。やっぱり日本で食べるとおいしい」と舌鼓を打ち、変わらず親日家であることを明かす。

 日本の野球をたいせつにし、また、日本で学んだ「態度」「礼儀」「敬う」という3つを重んじて、「この3つさえちゃんとしていれば、どこの球団に行っても、野球以外の仕事に就いても、人生はやっていけるよ」と、台湾での指導にも取り入れてきた。

 以前、チャンスがあれば日本での指導もしてみたいと語っていたが、タテジマ姿もまた見てみたいと思う虎党も多いのではないだろうか。そんな日が訪れることを待ちたい。

日本が大好きという林威助さん
日本が大好きという林威助さん

 (注:「台湾デー」とは)

 2014年に映画「KANO(※)」が台湾国内でヒットしたことで、台湾から阪神甲子園球場に隣設する甲子園歴史館に多くの来場者があったことをきっかけに、さまざまなイベントを通じて多くの人々に台湾の魅力を伝えることを目的として、2016年から開催している。今年で6回目。

 ※1931年、夏の甲子園に初出場し、準優勝した台湾代表・嘉義農林学校の実話をもとに台湾で映画化され、大ヒットした。その後、日本でも公開され話題となった作品。

台湾デーのいろいろ
台湾デーのいろいろ

甲子園歴史館の展示(上)台湾プロ野球6球団のユニフォーム (下)記念ボールとメッセージボール
甲子園歴史館の展示(上)台湾プロ野球6球団のユニフォーム (下)記念ボールとメッセージボール

(撮影はすべて筆者)

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フリーアナウンサー、フリーライター

CS放送「GAORA」「スカイA」の阪神タイガース野球中継番組「Tigersーai」で、ベンチリポーターとして携わったゲームは1000試合近く。2005年の阪神優勝時にはビールかけインタビューも!イベントやパーティーでのプロ野球選手、OBとのトークショーは数100本。サンケイスポーツで阪神タイガース関連のコラム「SMILE♡TIGERS」を連載中。かつては阪神タイガースの公式ホームページや公式携帯サイト、阪神電鉄の機関紙でも執筆。マイクでペンで、硬軟織り交ぜた熱い熱い情報を伝えています!!

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