ノート(67) 「国策捜査」と「国策不捜査」について
~達観編(17)
勾留23日目(続)
「国策捜査」とは
検察、とりわけ特捜検察の暴走を批判する際、しばしば「国策捜査」という言い回しが使われる。1996年の住専事件あたりからマスコミ報道でも目にするようになった言葉だ。
元衆議院議員・鈴木宗男氏とともに東京地検特捜部のターゲットとなった元外交官・佐藤優氏がその著書「国家の罠」の中で取り上げ、広く知られるようになった。
佐藤氏によれば、東京拘置所で佐藤氏の取調べを担当した特捜検事が、取調べ中に次のような発言をしていたという。
「これは国策捜査なんだから、あなたが捕まった理由は簡単。あなたと鈴木宗男をつなげる事件を作るため。国策捜査は『時代のけじめ』をつけるために必要なんです。時代を転換するために、何か象徴的な事件を作り出して、それを断罪するのです」
この特捜検事は、佐藤氏との信頼関係を構築し、鈴木氏の追い落としに役立つ供述を引き出すため、あえて佐藤氏が好みそうな「国策捜査」という言葉を使い、佐藤氏の置かれた立場に同情を示しているかのように装っていただけではないか、とも考えられる。
こうしたやり方も、取調べ官を味方であるかのように錯覚させるための取調べのテクニックの一つだからだ。
ただ、法令で使われている用語ではないので、使い手によって広狭さまざまな意味で使われているというのが実情ではないか。あえて「国策捜査」を定義するとすれば、次のようなものになるだろう。
「どこからも告訴や告発がなく、あるいは立件すべき理由や必要性が乏しいのに、国の施策や何らかの政治的な思わくに基づき、『起訴ありき』という前提の下で、検察が自ら事件を作り出し、強引に立件、捜査する場合」
実際には少ない「国策捜査」
ただ、長く特捜部に身を置き、内情を知る立場の者から言えば、起訴する方向でのこうした国策捜査は一般に思われているよりもはるかに少ない。
確かに、特捜部が何らかの形で動くと、ターゲットとなった被疑者やそのシンパから「国策捜査だ」といった批判が必ず起こる。結果的には捜査によって被疑者と反対の立場にある関係者を利する場合が多いし、政治家であればなおさらだ。
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