ノート(66) 湧いて出てきた新たな刑事告発とその内容
~達観編(16)
勾留23日目(続)
これ幸いと
この日の中村孝検事の取調べは、午後2時前ころから午後8時前ころまでの間、休憩や夕食を挟みつつ、3時間ほど行われた。話題は、朝鮮総連中央本部の土地建物をめぐる詐欺事件に関する捜査状況が中心だった。
2007年、公安調査庁長官や高検検事長などの要職を歴任した大物ヤメ検弁護士を東京地検特捜部が逮捕し、起訴に至った事件だ。検察の世界で大先輩に当たる人物にほかならない。
僕が検事1年目だった1996年の広島地検時代には、同じ庁舎の最上階で広島高検の検事長を務めており、まさしく「雲の上」の存在だった。後進の育成に熱心で、僕を含む広島地検の4名の新任検事を高検検事長室に集め、昼食会を兼ねた勉強会を開催してくれたこともあった。
検察では極左や極右集団などを捜査対象とする「公安畑」が長く、東アジア反日武装戦線による連続企業爆破事件など著名事件の捜査経験も豊富だが、物腰柔らかで、ドッシリと落ち着いており、上から押さえつけるようなところもなく、実に紳士然としていた。
完全黙秘が当たり前の公安事件における取調べ方法、特に被疑者の信頼を勝ち取って検察側に寝返らせるやり方や、多忙な中でも時間を見つけて様々な本を読み漁る大切さなど、検事としての基本的な心構えを教えてもらうこともできた。
時を経て、東京特捜に配属されていた僕は、先ほどの総連事件で元検事長の共犯者である元不動産会社社長を取り調べ、皮肉なことに元検事長から教えられたノウハウなどを駆使し、元検事長を追い込む自白調書を得た。
起訴後の公判では、自白の任意性を立証する検察側証人として出廷し、2008年12月、その旨の証言をしていた。
2009年7月に下された東京地裁の判決が執行猶予の付いた有罪だったことから、「だます意図はなかった」などと無罪を主張する元検事長や元不動産会社社長らと、彼らの実刑を求める検察側がともに控訴し、東京高裁で控訴審が続いていた。
そうした中の2010年9月に僕が証拠改ざん事件で逮捕されたことから、これ幸いと、10月に入って元検事長の弁護団が僕を刑事告発してきたというわけだ。
告発のポイント
告発の内容は、僕の証言が偽証に当たるというものだった。
東京地裁は、元不動産会社社長の自白が任意になされたものであると認定し、自白調書を証拠として採用しており、特捜部副部長らが取調べを担当した元検事長の自白調書とともに、有罪判決の根拠としていた。
元検事長が控訴審で逆転無罪を得るためには、それらの調書が邪魔だった。そのため、弁護団は、元検事長の自白の任意性を立証する証人として出廷、証言していた特捜部副部長の落合義和さんについても、同じく偽証罪で刑事告発していた。
このうち、僕に対する告発のポイントとしては、次の3点を挙げることができた。
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