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「チェンソーマン」と米津玄師の融合に学ぶ、アニメと音楽のコラボの未来

徳力基彦noteプロデューサー/ブロガー
(出典:米津玄師 公式ツイッターアカウント)

テレビアニメ「チェンソーマン」が11日に公開され、まだ一週間も経っていませんが、様々な分野で大きな話題になっています。

放送当日は当然のようにツイッターのトレンド1位にランクインしていましたし、Netflixのランキングにも2位にランクインするなど下馬評通りの高い注目を集めているようです。

参考:『チェンソーマン』第1話放送で神作画に反響 血だらけの戦闘シーンやマキマさん登場で「最高じゃあないっすか」「すげぇ…」

特に興味深いのは、「チェンソーマン」の検索数が、日本だけでなく世界中で跳ね上がっている点です。

すでにアメリカでも大きな話題に

「チェンソーマン」の検索数推移を分析すると世界中で検索数が増えているのが分かるのですが、特に反響が大きいのがアメリカのようです。

(出典:Googleトレンド 米国での「チェンソーマン」検索数推移)
(出典:Googleトレンド 米国での「チェンソーマン」検索数推移)

「チェンソーマン」単独で検索数推移が大きく跳ね上がっているのはアニメ化されたので当然とも言えます。

ただ、非常に印象的なのは、アメリカでの「チェンソーマン」の検索数が「鬼滅の刃」や「呪術廻戦」の過去の検索数のピーク時に届きそうな勢いがある点です。

(出典:Googleトレンド 米国での検索数推移 青「チェンソーマン」赤「鬼滅の刃」黄「呪術廻戦」)
(出典:Googleトレンド 米国での検索数推移 青「チェンソーマン」赤「鬼滅の刃」黄「呪術廻戦」)

公開されたばかりのアニメが世界中で話題になるのは、アニメ「SPYxFAMILY」でもみられた現象ですから最近では特殊な現象ではありません。

ただ、特にアメリカで「チェンソーマン」がここまで注目されるのには、原作のマンガが「Best Manga」賞を2年連続で受賞する快挙を達成するなど、マンガ自体の人気が高かったことが背景にあるようです。

参考:「チェンソーマン」がハーヴェイ賞の「Best Manga」部門受賞、2年連続は史上初

大きな話題になったアーティストの楽曲提供

今回のアニメ「チェンソーマン」は、流血などの過激なシーンが多いことや、製作委員会方式ではなくアニメ制作会社のMAPPAが100%出資していることなど、従来のマンガのアニメ化と比べても特筆すべき点はいくつもあります。

ただ、やはり何と言っても、公開直後にここまで世界で話題になっている一つの要因となっているのは、米津玄師さんをはじめとするアーティストの楽曲提供の取り組みでしょう。

「チェンソーマン」ではオープニングテーマに米津玄師さんの「KICK BACK」が使われるだけでなく、なんとエンディングテーマは週替わりで12組のアーティストが楽曲を提供。

参考:アニメ『チェンソーマン』はアニソンの常識を破壊する 週替わりED曲&映像という類を見ない挑戦

しかも、米津玄師さんの「KICK BACK」は配信が始まるやいなや各配信サイトで軒並み1位を獲得し、さまざまなランキングを合わせるとなんと31冠を獲得。

参考:米津玄師、TVアニメ『チェンソーマン』OPテーマ「KICK BACK」が配信デイリーチャート31冠を獲得

MAPPAの公式YouTubeに公開された「KICK BACK」のオープニング動画は公開から24時間で600万再生を突破。この記事執筆時点で再生回数が1400万回を超えています。

もちろん、人気アニメと有名アーティストのコラボというのは、「鬼滅の刃」におけるLiSAさんの「紅蓮華」の大ヒット以降珍しい取り組みではありません。

ただ、時系列で振り返ると今回の「チェンソーマン」公開に向けて、MAPPAや関係者が緻密にアニメと音楽を連動させた話題化に取り組んでいたことが見えてきます。

アニメ公開前から楽曲提供が様々な話題化に貢献

「チェンソーマン」と米津玄師さんに関する主な出来事を時系列で並べるとこのような流れになります。

■9月19日 米津玄師さんが「チェンソーマン」のオープニングを担当することが発表され本予告で楽曲の一部が公開

■9月19日 発表を受けて、つんくさんがモーニング娘。の楽曲サンプリング打診があったことを公開し、ツイッターでも話題に

参考:米津玄師氏の担当の方から連絡がありました。

■9月20日 メディアがつんくさんの発表を受け、サンプリングの件を記事化してさらに話題に

■10月4日 「チェンソーマン」第1話予告が公開

■10月12日0時 「チェンソーマン」TVアニメ放送開始

■10月12日0時 米津玄師さんの「KICK BACK」が配信開始され各種ランキングで軒並み1位に

■10月12日0時 並行して「チェンソーマン」ノンクレジットオープニングがMAPPAの公式YouTubeに公開

■10月12日 並行して米津玄師さんが「チェンソーマン描かせてもらいました」とジャケットイラストをツイート

■10月12日 オープニング動画が様々な映画のインスパイアシーンで構成されていることが世界中で話題に

参考:映画を知ってるとアニメ『チェンソーマン』のOPが100倍楽しい!? オープニングアニメのオマージュ元をまとめてみた

■10月13日 米津玄師さんのジャケットイラストがうますぎることがメディアでも話題に

参考:は、うますぎん!? 米津玄師のイラストが本家レベルのクオリティでビビったわ!

楽曲やアーティストの話題とアニメの話題が、クロスして様々なメディアで話題になることで、アニメ「チェンソーマン」の話題が最大化されているわけです。

特に、オープニング動画に様々な映画のオマージュが組み合わさっている点は、多くの人が答え合わせのために動画を何度も再生するという形で、再生数増加や話題化に大きく貢献したと考えられます。

単なる楽曲提供ではないアニメと音楽の融合

もちろん「チェンソーマン」がこれだけ世界で話題になっているのは、当然原作者の藤本タツキさんのマンガが素晴らしく、それを元にしたMAPPAのアニメの完成度が高いことが最大の要因です。

オープニング動画に映画のオマージュを含める手法も、原作者の藤本タツキさんが映画好きで様々な映画をオマージュすることが多いからこそファンに響いたということも言えるでしょう。

ただ、それに加えて、これだけアニメ公開前から公開直後にかけて大きな話題を作ることができたのは、「チェンソーマン」と米津玄師さんとの連携が、単なる楽曲提供ではなく、融合とでも言うほどの二人三脚のコラボレーションになっていることが大きかったと言えると思います。

象徴的な点としては、「KICK BACK」の楽曲のフルバージョンが、現在のところMAPPAの公式YouTubeにしかアップされておらず、15日にアップされた米津玄師さんの公式YouTubeのものは32秒の短縮版である点があげられます。

楽曲のフルバージョンはアーティストのYouTubeにアップするのが普通だと思いますが、今回に関してはオープニング動画で映画のオマージュの話題が最大化されるように、米津玄師さんもMAPPA側のチャンネルでの配信を優先しているということなのでしょう。

冒頭でも書いたように、今回のアニメ「チェンソーマン」は日本では一般的な製作委員会方式ではなく、アニメ制作会社のMAPPAが100%出資する形でリスクを取って製作されています。

これには、MAPPA側が海外のピクサーやディズニーの成功を踏まえ、さらなる成長を踏まえて大きな勝負をするという決断が反映されているようです。

参考:アニメ『チェンソーマン』異例となる「100%出資」の理由は?

逆に言うと、そこまでMAPPA側がリスクを取っているからこそ、米津玄師さんをはじめとするアーティストの方々も、本気でアニメ「チェンソーマン」の成功にコミットし、本気のコラボをされているということなのかもしれません。

現在大ヒット中の映画「ONE PIECE FILM RED」も、映画とアーティストの音楽を新しい形で融合させていることが非常に印象的な作品でしたが、こうした映画やアニメとアーティストの音楽の融合は、今後も様々な拡がりを見せていきそうです。

noteプロデューサー/ブロガー

Yahoo!ニュースでは、日本の「エンタメ」の未来や世界展開を応援すべく、エンタメのデジタルやSNS活用、推し活の進化を感じるニュースを紹介。 普段はnoteで、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNSの活用についての啓発やサポートを担当。著書に「普通の人のためのSNSの教科書」「デジタルワークスタイル」などがある。

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