濃厚クリーミーなスープに自家製麺 若き職人が挑む「進化系博多ラーメン」とは?
四国高知から豚骨の本場福岡へ
豚骨ラーメンの聖地、福岡博多には数多くの博多ラーメン店が存在する。白濁した豚骨スープに低加水率の細い麺。博多ラーメンというある一定の枠組みの中で、どう個性を出してどう差別化をはかっていくか。老舗や人気店がひしめき合う場所だからこそ、博多ラーメンを名乗って存在感を出していくことはなかなか難しい。
地下鉄東比恵駅から歩いて10分。福岡空港の西にある榎田に2020年2月にオープンした『いちむじん』(福岡県福岡市博多区榎田2-3-1)は、濃厚ながらも臭みのないクリーミーな豚骨スープに、しなやかな食感の自家製麺で人気を集めている新進気鋭の一軒だ。
店主の和田一平さんは、福岡市内の老舗や人気ラーメン店で経験を積み、最後にこの場所にあった人気ラーメン店で働いていたが、その店が移転することに伴い、店舗を譲り受けて開業した。生粋の福岡人かと思いきや、生まれも育ちも四国高知。土佐っ子の和田さんはなぜ福岡でラーメン店を開いたのだろうか。
「高校卒業後は地元で就職したんです。しかし愛媛で初めて豚骨ラーメンを食べてはまってしまって、本場の豚骨ラーメンを知りたくて仕事を辞めて、24歳の時に福岡へ越してきてラーメン修業に入りました」(いちむじん 店主 和田一平さん)
自分の大切な人が「美味しい」と言ってくれる一杯を
老舗の豚骨ラーメン店で博多ラーメンの基礎を学び、自分が好きだった人気ラーメン店に修業を直訴し、様々なラーメン作りを経験した。さらに豚骨以外のラーメンを学びたいと門を叩いた前職では、白濁しないスープと共に自家製麺も学んだ。
独立して自分の店を構えるにあたり、ラーメンはこれまでの経験を生かしたものにしようと決めていた。しかし、経験が豊富だからこそ迷いも出て試行錯誤が続いた。そんな時に大きかったのが結婚を予定していた彼女の存在だった。
「自分の大切な人に美味しいと言って貰えるラーメンを作りたいと思ったんです。そこで試作につきあってもらって、彼女が満足する一杯で勝負しようと決めました」(和田さん)
博多ラーメンとしては珍しく、豚骨の他に鶏ガラも使用するスープは、圧力鍋で一気に炊き上げることで、臭みがなく滑らかでクリーミーな口あたりとなり、豚骨だけではなく鶏の旨味も加わることで、より重層的で深みのある味わいになった。自家製の細ストレート麺は自分の理想の食感と風味を追求し、歯切れの良さと同時にしなやかさを持ち合わせたもの。博多ラーメンの常識に縛られずに新たな形に挑戦した、懐かしさと新しさが共存する次世代型の博多ラーメンが誕生した。
生まれ育った高知から離れた福岡で出逢った、多くの人たちとの大切な絆からこの店は生まれた。店名の「いちむじん」とは脇目もふらず一生懸命取り組むという言葉「一無尽」から名付けたという。
「僕は本当に凄い人たちにラーメンを教わることが出来ましたが、まだまだ実力が足りません。一生懸命ラーメンと向き合い続けて、いつしか師匠たちに負けないと胸を張って言えるような一杯を作って恩返しがしたいと思っています」(和田さん)
※写真は筆者によるものです。
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