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日本を描くハリウッド作品は成功/落胆が極端。『沈黙』はどう受け入れられるか

斉藤博昭映画ジャーナリスト
『沈黙ーサイレンスー』ジャパンプレミアでのマーティン・スコセッシと日本人キャスト(写真:REX FEATURES/アフロ)

1月21日の日本公開を控え、先日はマーティン・スコセッシ監督らが登壇してのジャパンプレミアが行われた『沈黙ーサイレンスー』。スコセッシがNHKのニュース番組でインタビューに応じるなど、公開直前に一気に注目度が高まっている。原作は遠藤周作であり、日本人キャストも多数出演していることから、日本でどの程度の観客を集めるのか、気になるところだ。

日本を舞台にした物語を、海外の監督が撮った映画。

この例は過去にもいくつかあり、日本で公開される際には話題になった。そして見事に大ヒットした作品もある。過去の例とともに、今回の『沈黙』の受け入れられ方を予想してみたい。

大成功の例

ラスト サムライ』(2003) 興収137億円

本作の成功の要因は、日本人の武士道精神を誠実に描いた点にあるだろう。「外国人が描く日本」として、撮影地はニュージーランドながら、ツッコミどころが極めて少ないので、日本人観客もすんなり受け入れられた。さらにヒットの確率の高い、トム・クルーズ主演作でもあり、渡辺謙がアカデミー賞助演男優賞にノミネートされた後の日本公開だったことで、話題は盛り上がり、驚異的な数字になった。

硫黄島からの手紙』(2006) 興収51億円

アカデミー賞作品賞・監督賞など4部門にノミネートされたが、日本での公開は賞レース前の12月。アカデミー賞に関係なく、大ヒットした。クリント・イーストウッド監督への信頼感に加え、『ラスト』同様、おかしな描写が少ない点が評価につながった。渡辺謙はもちろん、嵐の二宮和也の出演で若い世代にアピールしたことも大きい。

また、リドリー・スコットが撮った『ブラック・レイン』(1989)は当時の大阪ロケが効果的で、高倉健、松田優作の熱演もあって語り継がれる作品になった。メインで日本人キャストは出ていないものの、ソフィア・コッポラの『ロスト・イン・トランスレーション』(2003)もアカデミー賞で脚本賞を受賞。海外監督が撮った日本の成功例だろう。

微妙だった例

SAYURI』(2005) 興収15.5億円

第二次大戦前の京都・祇園を舞台に、芸者の成長を描く本作は、渡辺謙、役所広司、桃井かおりらが出ているものの、ヒロインに中国人女優チャン・ツィイーを据えたことで、日本人にはやや違和感が? やや奇妙な日本の描写も完成後に指摘を受けた。アカデミー賞では3部門受賞。

キル・ビルVol.1』(2003) 興収25億円

クエンティン・タランティーノの映画愛が炸裂し、コアな日本映画にもオマージュを捧げるシーンが多数。栗山千明らも怪演。日本人の一般観客にとっては呆然とする描写もありつつも、タランティーノ人気が最高潮の時期で、興行収入では意外に健闘した。

ウルヴァリン:SAMURAI』(2013) 興収8.1億円

東京の増上寺や上野近辺、広島県各地などで大がかりなロケも敢行。日本からも真田広之や福島リラ、TAOらが参加したが、残念ながら日本でのヒットはならず。アメコミ映画+日本は、さすがに取り合わせが奇抜?

はっきり言って失敗例

47 RONIN』 興収4.6億円

有名な忠臣蔵のストーリーを、キアヌ.リーブス主演、真田広之、柴咲コウ、浅野忠信ら日本の豪華スターで映画化するも、珍妙なシーンも多く、国内外でソッポを向かれる結果になってしまった。

その他、これはフランス映画だが、ジャン・レノと広末涼子が共演した『WASABI』(2002)は、秋葉原や帝国ホテルなどが出てくるも、苦笑もののサスペンスだったし、第二次大戦後、連合国占領下の日本を舞台にした『終戦のエンペラー』(2012)は皇居でも異例の撮影が行われたが、大きな話題にはならず……。

成功要素も多くある『沈黙』

こうして振り返ると、意外なほどアカデミー賞に絡んだ作品が多いことに気づく。2016年度のアカデミー賞ノミネート発表は週明けの1月24日。『沈黙』の結果はわからないが、作品賞や演技賞は厳しそうで、撮影賞などわずかに留まりそうな予想。ノミネート発表の直前に公開というのは、結果的に良かった面もあるだろうが、当初は、多部門ノミネートで、公開後の盛り上がりが期待されていただけに……。

また、成功作の多くを眺めると、渡辺謙の名が目立つ。『沈黙』も当初、浅野忠信が演じた通辞役は渡辺謙がやる話も出ていたが、スケジュールなどで実現に至らなかった。

とはいえ、原作になじみのある世代にとって、『沈黙』が気になる存在なのは間違いなく、「観てみたい」という声をあちこちで耳にする。「意外な役であの人が!」と、一瞬だけ登場する日本人キャストへの興味もあるだろう。何より、ロケ地が台湾だというのに日本の描写でこれだけ違和感の少ない海外作品は珍しい。日本人観客にとってのリアル感は、『ラスト サムライ』『硫黄島からの手紙』以上ではないか。

いっぽうで、宗教をテーマに、拷問なども描かれるので「そんな重い映画を観たい人は限られているのでは?」と語る映画関係者もいる。しかし『ラスト サムライ』も『硫黄島』もシリアスな内容ながら、大ヒットの結果となった。とりあえず『沈黙』は、『SAYURI』の15億円あたりを目標に、そこからどれくらい数字を伸ばせるかが勝負になってくるだろう。

画像

『沈黙ーサイレンスー』

1月21日(土)、全国ロードショー

配給/KADOKAWA

(C) 2016 FM Films, LLC. All Rights Reserved.

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、スクリーン、キネマ旬報、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。連絡先 irishgreenday@gmail.com

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