トランプ若き日を演じた俳優 大統領選後に本心を吐露「僕には不愉快でも、今こそ検証する意味が」
ドナルド・トランプが次期アメリカ大統領となることが決まり、日本では来年1月に公開予定のトランプの映画も急遽、11/22から一週間限定で一部の劇場で先行上映されることになった。
ちょうど11/16(日本時間)に、その作品『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』のヴァーチャル会見が行われた。
本作で若き日(今から50年前の1970年代)のトランプを演じたのは、「アベンジャーズ」シリーズのバッキー・バーンズ役でおなじみのセバスチャン・スタン。映画の製作が進んでいた時期は、アメリカの大統領ではトランプではなかった。本作がアメリカで公開された今年の10月も、まだ大統領選の前だった。今こうしてトランプが次期大統領に決まったことで、そのトランプを演じた作品への思いは変わってきたのか。スタンは次のように答えた。
「ドナルド・トランプという人物を、これからは完全に無視することはできない。そのような状況になった今、僕らが作った映画がどのように批評されるのか。まず本作はトランプを肯定する映画ではありません。かと言って、卑劣な人物だと否定したり、直接的に攻撃するものでもなく、この人物に対して過去に試みられなかったアプローチで取り組んだ作品なのです。とりあえず僕自身の意思は別として……。いずれにしても“現実”は残念ながら痛いものです」
この最後のフレーズからわかるとおり、スタンはトランプに反対の立ち位置を明確にする。
「多くの人と同じように、これまで何年もの間、ドナルド・トランプという人物を、『サタダーナイト・ライブ』でのモノマネ芸や、CNNやFOXニュースなどの見解とともに受け止め、ただただ僕は批判的な目で見てきました。ですからこの作品に参加することは、自分自身の気持ちを理解し、いろいろと教えてもらえる機会になったのです。
僕らが正しい仕事をすれば、醜悪な部分だけではなく、この人物がどのように完成されたのかを伝えることができる。一人の俳優としての判断はとりあえず脇に置いて、客観的に物事を見つめるように努め、トランプ役を演じました。
なぜこの人物が、ロナルド・レーガン以来40年ぶりの大勝利をするほど人々を惹きつけたのか? そこを探索するのは僕にとって気持ちのいいものではありません。本作は観る人によって不愉快に感じる部分も多いことでしょう。でも、だからこそ今回の大統領選で人々を突き動かしたものを理解する一助になるはずです」
セバスチャン・スタンはルーマニア出身である。8歳でオーストリアに移り、12歳で母親の再婚に伴ってアメリカでの生活が始まった。そんな出自から、今回の大統領選にもいろいろと思うところは深いようだ。
「僕はヨーロッパの共産主義国家で育ったので、子供の頃からイデオロギーやアメリカンドリームなどについて多くの話を聞いてきました。そうした概念が人間に何をもたらすのか、疑問が膨らんだのも事実です。この『アプレンティス』という映画は、行間を読むことで、僕の疑問も含めて多くの発見が得られるでしょう。僕が演じた人物が、その後、現代社会のシステムで地位を得るわけで、そのシステムへの疑問も提示すると思います。こうした判断がつくのは、10年先かもしれませんが……」
この『アプレンティス』は、トランプ側から公開を差し止めようという動きがあったとされる。それくらい赤裸々な内容であり、たしかに今、再び大統領に登り詰めるまでの“黒歴史”を実感する人も多いはず。長年、取材を続けてきた政治ジャーナリストの脚本という点も真実味を帯びる。この点についてもスタンは次のように話す。
「トランプが映画を差し止めようとしたのは、なぜなのか? 彼の陣営にとって何らかの脅威になる明確な理由があるはずです。そうでなければ“黙らせる”必要はないわけですから」
素顔のセバスチャン・スタンとドナルド・トランプが似ているかと問われたら、そんなことはない。しかし『アプレンティス』を観れば、瞬間的に両者の距離が縮まる。現在のトランプの若き日がこうであった……という説得力ある名演をスタンは見せているからだ。実在の人物を演じるうえでのアプローチも彼は語った。
「ここまで有名な人物なら参考にする映像は大量にあるので、楽器を練習する感覚でした。毎日、一定時間の練習を繰り返せば“10,000時間の法則”で上達し、習得できるものです。ただしトランプの場合、多くの人が強い印象を持っているので、手の動きや、唇の動かし方をマネると“やりすぎ”に見えるリスクも抱えます。
若い日の映像を見ると、おなじみの癖はあります。しかし現在のように相手にアイコンタクトはとっていません。身振りや表情も抑え気味です。おそらく彼は自分自身を観察しすぎて、今の姿に成長したのだと思います。1988年のオプラ・ウィンフリーとのインタビューを見ると、トランプはものすごいスピードで話し、現在よりも自信に満ちた感じです。こうした“変化”を予想させながら、1970年代の彼を体現することで、映画を観る人がジャーニー(旅)に同行してもらえれば、と僕は思っています」
セバスチャン・スタンは『アプレンティス』の演技によって、次のアカデミー賞でも主演男優賞ノミネートの有力候補になっている。賞レースで受賞を重ねれば、作品が何度も注目され、トランプにとっては面白くないかもしれない。スタンが語るように、その理由を知るうえでも、今まさに観るべき映画であることだけは事実だろう。
アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方
11月22日~28日の1週間限定でTOHOシネマズ日比谷、 kino cinema 新宿にて先行上映
2025 年1月17日(金)TOHO シネマズ日比谷ほか全国公開
(c) 2024 APPRENTICE PRODUCTIONS ONTARIO INC. / PROFILE PRODUCTIONS 2 APS / TAILORED FILMS LTD. All Rights Reserved.
配給:キノフィルムズ