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トランプ激怒の自分を描いた問題作、日本では就任式直前に公開とは…。トランプ役俳優は来日できず無念

斉藤博昭映画ジャーナリスト
微妙に似てる? ドナルド・トランプの若き日=原点が描かれた

第47代アメリカ合衆国大統領にドナルド・トランプが選ばれた。そのトランプの若き日──現在の彼の原点となった時代を描いた映画は、2024年のカンヌ国際映画祭で上映されて以来、いろいろと物議を醸してきた。あまりに赤裸々な内容であることから、トランプ自身が(おそらく本編を観ずに)上映阻止に動いたとされる、いわくつきの作品。脚本は長年、トランプを取材してきた政治ジャーナリスト、ガブリエル・シャーマンによるものなので、信憑性という点では説得力がある。

トランプの阻止の動きにもかかわらず、この映画『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』は、アメリカで10月11日に劇場公開された。大統領選の1ヶ月前。しかし映画が選挙の結果に大きな影響を与えることはなかった。まぁ、そんなものだろう。しかし本作を冷静に観て受け止めた人は、「こんな人に国のトップを任せて大丈夫なのか」と、投票の参考になったはず…とは推測される。

『アプレンティス』の日本公開は2025年の1月17日に決まった。大統領就任式が1月20日なので、そのわずか3日前。ある意味、絶妙なタイミングであり、日本の配給会社はおそらく“狙った”のではないだろうか。カマラ・ハリスが選挙で勝ったとしても、敗れたトランプの映画としてこのタイミングでの公開は大きな話題になる。ましてトランプが勝利したら、物議も含めて映画がメディアなどで取り上げられやすい。そして結果は後者となったわけだ。

『アプレンティス』の内容はセンセーショナルであり、逆に「まっとう」である。確かに描かれた本人は面白くないだろうし、一方で日本語タイトルどおり、ドナルド・トランプという人物がどのよう出来上がったのかに納得する作りだから。大統領という地位に就く存命の人物に対し、このような映画を作ってしまうことにも感心させられる。

大統領就任式のタイミングで本作を観ることで、おそらくさまざまな思いが頭を駆け巡ることだろう。その意味で「映画の力」に改めて希望を持ちたい。

背景となるのは、1970年代。破産の危機もあった若きドナルド・トランプが、政府関係者とのパイプも持つ弁護士ロイ・コーンと出会い、マンハッタンにトランプタワーを建設するあたりを描くのだが、①とにかく相手を攻撃、②自分の非を認めず全否定、③劣勢に立っても勝利を主張、というコーンからの3つの教えで、のし上がっていく展開は豪快そのもの。Make America Great Againの原点、他者を踏み台にする生き方、髪型や体型の秘密まで、観ていて怖いほどのネタがこれでもか、これでもかと詰め込まれる。

圧倒されるのは、トランプ役のセバスチャン・スタンである。『キャプテン・アメリカ』シリーズなどマーベル作品のウィンター・ソルジャー/バッキー・バーンズ役で知られる彼だが、その素顔はトランプと似ているとは言えない。しかし映画ではヘアスタイルのおかげもあるが、表情の作り方、手の動きの癖、そして話し方を、わざとらしくないレベルで模倣。細部がじつに素晴らしい。しかも終盤に向けてゆっくりと現在のトランプに寄せていく。クライマックスは、ちょっと目を疑うほど本人に憑依した印象。

素顔のセバスチャン・スタン
素顔のセバスチャン・スタン写真:REX/アフロ

スタンは『アプレンティス』のトランプ役でアカデミー賞ノミネートの可能性もあるが、現段階の予想ではボーダーラインの位置だ。

そのセバスチャン・スタン、本来なら12月に幕張メッセで開催される「東京コミコン2024」で来日するはずだった。しかしこのほどキャンセルを発表。緊急の撮影が入ってしまったそうで、大統領選の結果とはまったく関係ない。もちろんコミコンでは“ウィンター・ソルジャーの人”という受け止められ方ではあるが、トランプ役俳優として、大統領選、主演男優賞レース、日本での公開…とタイミング的には最高の来日になるところだったので残念である。

アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方

2025 年1月17日(金)TOHO シネマズ日比谷ほか全国公開

(c) 2024 APPRENTICE PRODUCTIONS ONTARIO INC. / PROFILE PRODUCTIONS 2 APS / TAILORED FILMS LTD. All Rights Reserved.

配給:キノフィルムズ

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、スクリーン、キネマ旬報、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。連絡先 irishgreenday@gmail.com

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