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「保育士の年収は民間企業より100万低い」ベテラン保育士と本音対談⑥

なかのかおりジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員
(写真:アフロ)

フジテレビ系でドラマ「お迎え渋谷くん」(京本大我、田辺桃子)が4月に始まった。保育士の体当たりの仕事ぶりや持ち帰り仕事についても、リアルに描かれている。筆者は2023年、Yahoo!ニュース特集にて、保育士の働き方や再就職支援について取材した。
その中で出会ったベテラン保育士のAさんは45年あまり保育士として働いた。筆者も保育園に5年間、お世話になり、いま思い出しても涙が出るほどありがたい。食事や散歩、季節の行事、友達や保護者との関わりなど、財産がたくさんある。一方で保育士が足りない、仕事がきつい、置き去りなどのニュースを見るたび、苦しくなる。厚生労働省の資料では、2020年の保育士登録者は約167万人で、働いている従事者約64万人を差し引くと、潜在保育士はおよそ100万人いる。令和4年版「厚生労働白書」を見ると、退職理由としては、「人間関係」「給料が安い」「仕事量が多い」「労働時間が長い」が多い。再就業する場合の希望条件としては「通勤時間」「勤務日数」「勤務時間」が多く、柔軟な働き方を希望している。保育士の働き方の歴史や現状について、Aさんと本音で語り合った対談を、連載で紹介する。
連載⑤はこちら

(以下、「」内はAさん、【】内はなかの)

【どうしたら保育士さんが働きやすくなるか、お話を聞いてきました。制度を変えるとか、給料が上がればとか、大きい話になるんですよね。何年か前に、保育士の月給が上がったんですよね】

 「それはコロナの限定ですよ。お金も園にまとめてっていうことで。いつも思うんですけど、国は場当たりなんです。園児を置き忘れたらバスの補助を出すとか、そういうことじゃないと思う。保育士の問題って、保育の問題、子どもの問題を大事にしないとダメですよね」

【制度の面でできるとしたら、何十年も前からの配置基準を変えていくことですか】

 「それが一番大きいかなと思います」

【あとは環境の改善ですね】

 「保育士の年収って、同じ30代で民間と100万円違うのは聞きましたでしょう?」

【民間企業より100万円低い…】

 「そんな現実だったら、誰も働かないじゃないですか。よっぽど熱意があって、やりたいって思いの人じゃないとね」

【昔、ワークシェアリングという言葉があったんですけど、例えば短時間で潜在保育士みたいな方がたくさん働くようになったら、解決しないかと思うのですが。それよりは正規職員を増やしたほうがいいのでしょうか】

 「正規の保育士が働いてほしいっていう思いはあるんだけど、保育をどう捉えるかの問題も大きいかなって思うんですよ。何をどう捉えて制度にするかっていうことのね、その基本。子どもを育てること自体が、さっきもお話しされてたけど、人と人との信頼関係の中で子どもが大きくなって、明るい未来を築いていけるような。

 保育士のほうの働く意味、お金を稼ぐ意味も大事。それから、保育って子どもの命を育む教育なので、育み方の捉え方に、一本筋が通っていたら、もっと国の制度とか環境は変わるのかと。

 子どもの教育って、戦後に一斉に小学校をつくってやってきたけども、子どもが生まれて一年一年成長していくって、社会の役割だって言いながらも家族の問題や個人の問題にしてしまった。社会構造っていうか、日本の構造っていうか、大きな捉え方がちょっと違うかなって。

 社会の中で子どもを育てる環境づくりは、必要じゃないかなって思います。そこの基本が揺らいでる」

【例えば、短時間で働くお手伝いも必要だけど、基本はもうちょっと継続して筋が通った育み方ができる人が必要で】

 「そうそう。本当はね」

【子どもからすると、継続した人間関係が、愛着形成には必要ですよね】

 「求めるのは、そういうことですよね。待遇も心も豊かな、正規職員。笑って子どものことを話せる保育士が、必要なんです」

 筆者の投げかけに対して、様々な引き出しと長年の経験から、答えてくださったAさん。ざっくばらんに本音をお話いただき、Aさんが導いてくださった課題と理想が見えてきた。

 昨年、いくつかの職場を掛け持ちしている50代の保育士さんに聞いた。病児保育やボランティアもやっていて、お子さんの学費がかかるから、いろんな仕事をしている。正規になろうとすると、拘束時間が長くて厳しいという。「組織側は正規で長い時間、働いてほしいっていうので、なかなか難しいんですよ」と話していた。

 独身の保育士さんは、自分の生活をかけて対応してくださっている。学童保育でも、そういう先生が夜遅くまで頑張っている。

 子どもを育み、信頼関係を築くには、継続して働く正規職員が望ましい。でも心身ともに激務だ。潜在保育士も、短時間で、育児に影響しない働き方をしたいという。子育てとか介護とかいろんな事情があっても、いいチームを作り、それぞれができる時間に働けたら理想的かと思う。

取材する中で印象的だったのは、待遇とともに、スタッフの人間関係が良かったら続けられる、という言葉だ。Aさんのいう、「豊かな」保育士を増やすにはどうしたらいいか。この連載を通して、改めて投げかけたい。

ジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員

早大参加のデザイン研究所招聘研究員/新聞社に20年余り勤め、主に生活・医療・労働の取材を担当/ノンフィクション「ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦」ラグーナ出版/新刊「ルポ 子どもの居場所と学びの変化『コロナ休校ショック2020』で見えた私たちに必要なこと」/報告書「3.11から10年の福島に学ぶレジリエンス」「社会貢献活動における新しいメディアの役割」/家庭訪問子育て支援・ホームスタートの10年『いっしょにいるよ』/論文「障害者の持続可能な就労に関する研究 ドイツ・日本の現場から」早大社会科学研究科/講談社現代ビジネス・ハフポスト等寄稿

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