消費者は知っておくべき、飲食店は取得しておくべき「おもてなし規格認証」とは何か?
おもてなし規格認証
「おもてなし規格認証」をご存知ですか。
日本の観光業も非常に盛り上がりをみせてきており、2018年には年間で初めて訪日外国人が3000万人を超えました。
世界中からますます多くの外国人が日本に訪れるようになっている中で、日本のGDPの約70%を占めるサービス産業と地域の活性化のために、2016年に「おもてなし規格認証」が創設されたのです。
サービスは「その場・その人」が受ける一度だけの目に見えないものですが、高品質なサービスはしかるべき評価を受けて「見える化」される必要があります。
こういった考えをもとにして生まれたのが、「おもてなし規格認証」なのです。経済産業省に取材した内容を織り交ぜながら、展開してきましょう。
実現したいこと
「おもてなし規格認証」では、以下のことを実現しようとしています。
事業者には質の高いサービスを提供するインセンティブを与え、消費者には質の高いサービスを受けられるようにすることが、大きな目的となっています。
おもてなし規格の定義
サービスの多くは接客を通じて提供した製品とその製造のプロセスから成り立っており、「おもてなし規格」ではプロセスを扱います。
様々なプロセスの中でも、顧客、従業員、地域の満足を高めるためのプロセスが重要であると考えており、プロセスの品質を向上させるには、上記のようなことを行う必要があると定めています。
認証の種類
「おもてなし規格」には以下4種類の認証が設けられています。
紅認証、金認証、紺認証、紫認証と認証のグレードは上がっていき、紅認証は無料ですが、これより上位となる金認証、紺認証、紫認証には費用がかかり、定められた認証機関に申請して認証される必要があります。
サービス業務マネジメント項目
認証に必要な「サービス業務マネジメント項目」は30項目あり、以下のように大別されています。
「サービス業務マネジメント項目」はCS(顧客満足度)やES(従業員満足度)から、経営者のリーダーシップやITまでと多岐に渡っています。この項目がどれくらい実施されているかによって、認証のグレードが異なってくるのです。
具体的には「お客さまに対してわかりやすく案内・説明などを行うツールの整備」「従業員の働きがいを高める取組・仕組みづくり」「IT を活用した、お客さま接点業務に集中するための取組」といった項目があります。飲食店における重点要素が挙げられており、実用的になっているといってよいでしょう。
インバウンド対応項目
付加的な認証として、2019年3月8日からインバウンド対応を見える化するための「トラベラー・フレンドリー認証」が始まりました。
「トラベラー・フレンドリー認証」に関連する「インバウンド対応項目」は10項目あります。
金認証もしくは紺認証を取得しており、「インバウンド対応項目」において5項目以上が既に実施されていれば認証されます。
「外国語によるメール・電話での問い合わせ対応」「外国語でのサービス内容表示や説明ツールなどの用意」「外国人のお客さまと必要最低限のコミュニケーションが取れるための従業員教育」といった項目があるので、訪日外国人にとって非常に有益な認証であることは間違いないでしょう。
認証取得後のメリット
認証を取得した後に享受できるメリットは何でしょうか。
他の事業所と明確な差別化を図れたり、公的支援が受けやすくなったりするのは個店にとっては特に喜ばしいことでしょう。結果的に生産性の向上にもつながり、事業を継続するための力も養うことができます。
変遷
「おもてなし規格認証」の枠組みについて説明してきましたが、これまでどういった変遷を辿ってきたのでしょうか。
経済産業省に取材した内容によると、以下のように発展してきました。
2016年に紅認証が開始された後で、4ヶ月後には金認証と紺認証が始動しました。最上位の紫認証は、2018年になって第1回目の認証店が発表され、つい先月の2019年3月に第2回目が発表されたばかりです。
徐々に項目も整理されて分かりやすくなってきているので、どの認証まで目指せそうか、事業者が自ら判断し、選択できるようになっています。
認証取得数
「おもてなし規格認証」が始まってからの2年半で、どれくらいの事業所が認証を取得したのでしょうか。
こちらも経済産業省に取材した数字を以下に記載します。
おもてなし規格認証 累計
- 紅認証:113668
- 金認証:480(6)
- 紺認証:656(185)
- 紫認証:10
※()内は「トラベラー・フレンドリー認証」の数
費用もかからず、認証機関への申請も必要ない紅認証が圧倒的に多いのは当然のことでしょう。しかし、金認証と紺認証も合わせると1000事業所以上となります。
最上位の紫認証は、これまで認証された事業所が2回発表されていますが、難易度が高いために認証数はまだ少ないです。
宿泊や食に関する事業所の認証取得数
宿泊や食に関する事業所の認証数は以下の通り。
宿泊/飲食/持ち帰り・配達飲食/小計
- 2016年
188/403/9/600
- 2017年
816/2120/82/3018
- 2018年
995/5108/218/6321
- 2019年
126/1190/14/1330
※2019年3月26日時点集計
- 合計
2125/8821/323/11269
全業種のうち10分の1程度が宿泊や食に関する事業所です。認証数は年々増えていますが、2019年はこのペースでいくと昨年と同じくらいになるのではないでしょうか。
紅認証であればだいぶ取得しやすいだけに、他の事業所と差別化を図るためにも、もっと多くの事業所が取得できればよいと思います。
飲食店で初めてとなる紫認証を取得
紫認証は非常にハードルが高くなっています。というのも、「サービス業務マネジメント項目」全30項目のうち24項目以上となる、8割以上が実施されていなければならないからです。
2018年2月の第1回目発表では6事業所が認証されましたが、残念ながら飲食店はありませんでした。しかし、2019年3月の第2回目発表では、認証された5事業所のうち、2事業所が飲食店だったのです。
※第1回目で紫認証を取得したある事業所が第2回目の取得を辞退しているので、現在認証されているのは全部で10事業所
紫認証を取得した2事業所は、以下の通り、いずれともワンダーテーブルが運営している飲食店です。
紫認証を取得した飲食店
- モーモーパラダイス 歌舞伎町本店
- ロウリーズ・ザ・プライムリブ 赤坂店
ワンダーテーブルは「鍋ぞう」「モーモーパラダイス」「バルバッコア」といった気軽に訪れることができる業態から、「ロウリーズ・ザ・プライムリブ」「Union Square Tokyo」といったファインダイニング、さらにはミシュランガイドで1つ星を獲得している「Jean-Georges Tokyo」まで運営しています。
タイ、台湾、中国、ベトナムといったアジアやアメリカにも進出しており、まさにグローバルに展開する外食企業であるといってよいでしょう。
代表取締役社長を務める秋元巳智雄氏は「アウトバウンド、インバウンドの両面で大きな成果をあげた」ということから、第11回「外食アワード2014」の外食事業者分野で受賞もしています。
こういった大きな外食企業が率先して紫認証を取得することによって、他の飲食店にも「おもてなし規格認証」の存在を知らしめることになったのではないでしょうか。
ワンダーテーブルへの取材
では、紫認証を取得したことによって、どのような変化があったのでしょう。ワンダーテーブルで広報を務める竹原真理子氏に尋ねました。
Q:取得後、何か変化はありましたか?
竹原氏:当社は、飲食業界を代表するホスピタリティカンパニーとなるため、企業理念でホスピタリティを掲げています。認証を取得したことで、これまでの活動を評価されたものだと、店舗スタッフのモチベーション向上につながっています。
Q:どうして「おもてなし規格認証」に力を入れているのですか?
竹原氏:お客様に安心して利用できる店舗として認知され、信頼を勝ち取ることができるからです。認証取得に向けて、サービス向上の取組みを改善し、おもてなし度を高められるため、賛同しています。
Q:今後も他の店舗で「おもてなし規格認証」を取得する予定はありますか?
竹原氏:現在、今回の紫認証取得2店舗だけでなく、その他全店で紺認証を取得しています。当社は全店を上げて、より一層ブランドとホスピタリティを磨き上げ、全てのお客様を魅了する取り組みをしていくとともに、外食企業の中で本認証制度に取り組む先進的な存在になれるよう、邁進していきたいと考えています。
飲食店の道標となる
竹原氏が述べたように、「おもてなし規格認証」取得によって、消費者に対するアピールだけではなく、スタッフのモチベーション向上につながっていることは、慢性的な人材不足に悩まされている飲食業界にとっては意義があることでしょう。
先に述べたように「サービス業務マネジメント項目」には飲食店にとって必要な項目が列挙されています。飲食店では日々の業務に追われてしまい、本来は効率化や収益化を図れるのに実施できず、結果的に生産性を上げられないことが少なくありません。
「サービス業務マネジメント項目」をチェックし、より多くの項目をクリアしていくことは、飲食店にとってよい道標となるのではないでしょうか。
飲食店にとっても利用者にとっても嬉しい
最近では、おもてなしという言葉に対して、押し付けがましいだとか過剰サービスであるとか、ネガティブな反応が返ることもあります。
しかし、日本人にとって、おもてなしはホスピタリティよりも非常にしっくりとくる言葉であり、訪日外国人にとっても、日本でしか体験できないという観点から興味をもたれている言葉でしょう。
ただ、おもてなしに頼るあまり、その言葉だけが乱発されている状況がよいとは考えていません。したがって、おもてなしの枠組みをしっかりと規格して認証することは、おもてなしする飲食店にとっても、おもてなしされる訪日外国人を含めた利用者にとっても、非常に喜ばしいことではないでしょうか。
飲食店によるチャレンジを期待
認証する際に必要となる「おもてなし規格認証2019規格項目」セルフチェックシートは、文字がびっしりと記載されており、硬い印象を受けるので、とっつきづらい印象は拭えません。
しかし、事業所からフィードバックを受けて、年々改良されており、整理されてきています。
したがって、より多くの飲食店が「おもてなし規格認証」のことを知ってチャンレンジし、そして認証されることによってよいサービスが正当に評価され、さらによいサービスへ発展していくことを期待しています。