西日本豪雨・災害時、子どもを守るには・気をつけたいストレスのサイン
西日本豪雨によりおよそ7千人が避難を余儀なくされている(12日正午時点)。避難所や親類の家など、生活が変わると子どもに体と心の変化が現れる。また、忘れがちだが子どもと自分のストレスをダブルで抱え込む親のケアも必要だ。筆者は日本赤十字社の看護師・大西浩子さんによる講習を取材したことがある。大西さんに改めて、災害時に起こる子どもの変化や周囲ができること、心構えを聞いた。
今回の被害の様子を聞くと、自宅の1階が水につかったケースが多いようです。1階には生活の必需品を置いている場合も多く、平時からの準備の必要性を強く感じます。東日本大震災を振り返りながら、災害時に子どもと親を守るポイントをお伝えします。
【授乳場所に困る・夜泣き非難され】
災害が起きた時、子どもがいると独特な大変さがあります。東日本大震災の時、親御さんたちのこんな体験を聞きました。
●揺れがおさまってぐちゃぐちゃの自宅から、おんぶ紐でゼロ歳児をおんぶして2歳を抱っこして外に出た。どうしていいかわからなかった
●揺れるたびに飛び起きて、子どもを抱きしめた
●ミルクを求めて、子連れで何度も何時間も並んだ
●子ども用品が不足で買えなかった
●授乳場所がなかった
●お風呂に入れられず衛生面が心配だった
●避難所で子どもが苦手な人がいて、にらまれた
●赤ちゃんの夜泣きがうるさいと言われ自宅に戻った
避難所の生活になると安全だけど、プライバシーが保てません。乳幼児は、災害時にも親を必要とします。災害時の要援護者は、高齢者・障害者や妊産婦、乳幼児、病気を抱えている人です。そして忘れてはならないのですが、介助者や子育て中の人も支援が必要なんです。
避難所は集団生活で、普段と生活する環境が変わります。乳幼児も、大きなストレスを感じ、心身の不調につながります。災害時には、特に保護者や周囲の人々が乳幼児を気遣い、適切な支援を行うことが重要です。
【避難生活で気を付けるポイント】
〇皮膚が弱く新陳代謝が激しいため、清潔に配慮。オムツかぶれにも注意
〇危険を判断し行動することが難しいので、事故防止に気をつける
〇周囲での喫煙を避ける
〇できる限り規則正しい毎日を送り、生活習慣を身につける
〇消化機能が未熟で、間食が必要
〇排泄の調節機能が未熟なため、夜おねしょをすることがある
〇心身の成長のため、適度な運動や外遊びができる環境を
【いつもと違うサインを見逃さない】
周囲の人々が支援の必要性を意識して、乳幼児と保護者の「いつもと違う体と心のサイン」に早めに気づき対処することが大切です。子どもは、日常生活が続いていく安心感や自分を取りまく安全な環境への信頼感をなくします。自分の感情をコントロールし、新たなストレスに対処する余裕が持てなくなります。
子どもは、体の不調や欲求を言葉で訴えることができません。哺乳や食事、排泄の状態、機嫌など日常の様子をよく観察しましょう。体や心の変化として現れます。気をつけたい乳幼児の体のサインと、対処法を紹介します。
●発熱、下痢、便秘、腹痛、吐き気
●食欲がない、哺乳力の低下
●かゆみ、痛みなどの皮膚症状
↓
〇体温調節のため室温や衣服の調整をする
〇脱水症状に注意
〇清潔に配慮
【赤ちゃん返りも正常な反応】
心のサインもあります。子どもが受けるストレスは、災害そのものの衝撃によるストレスと、生活によるストレスがあります。
●寝付きが悪い、悪夢を見る
●1人になるのが怖い、親から離れない
●食べない、無表情、目をパチパチする
●泣く、怒る、かんしゃくをおこす
●落ち着かない
↓
〇安心感を与える
〇大人が「大丈夫」と態度や言葉で示す
〇普段通りの生活ができるようにする
〇スキンシップを多くする
〇子どもができるお手伝いをしてもらう
〇子ども同士過ごせる遊びの場を
〇目を見てよく話を聞く
〇話したがらない時は無理に聞き出さない
〇できるだけ子どもの求めに応じて、普段よりも甘えることを許す
〇赤ちゃん返りや年齢に合わない行動を叱らない
〇おうちの中は危ないからここにいようね、などと適切な情報を理解できる言葉で伝える
赤ちゃん返りは、子どもの正常な反応で心配ありません。ストレスが体の症状や極端な甘え、わがままなどの行動として出てくることがありますが、これらは異常な事態における正常な反応です。必要以上に心配せず、見守りましょう。
【傷ついている親にも理解と支援を】
忘れがちですが、保護者、特に母親は、通常の生活ができないことや、慣れない環境の中で子どもを守ろうとする責任感や将来への不安、災害にうまく対処できていないと感じる無力感など多くのストレスを抱えています。
また保護者は子どもの生活の変化にもストレスを感じます。避難所の生活では、子どもの存在が、希望や頑張り、心の支えになる反面、子どもが泣いたり騒いだり、避難所の活動に参加できないことから、周囲への後ろめたさを感じがちです。保護者が遠慮せずにすむような支援をしましょう。保護者の話に耳を傾け、不安を和らげることが、子どもの心を癒す助けになります。
〇親身に話を聞く
〇相手の感情をありのままに受け止め、むやみに励まさない
〇がんばりを認める
〇話したくないときには、その気持ちを尊重する
〇子どものこれまでと違った行動や、保護者の不安や無気力感などの心の反応は「正常な反応で、心配ない」ことを本人や家族に伝え、見守る
避難所などには、保健師や看護師、医師が回ってきます。「こんなこと言ってもいいかな?」と思わず、声をかけてください。周りの人も、「あの人、つらそう」と思ったら、専門家に話してみてください。
おおにし・ひろこ 日本赤十字社 事業局 救護・福祉部 参事。看護師。赤十字幼児安全法の講習をする。高齢者の支援も担当。
【子どもの遊びや生活の工夫も】
避難生活でも、遊びは子どもにとって心の健康に欠かせないもので、大事です。不安な気持ちは遊びの中で表現したり受け入れることで過去の記憶として処理していきます。避難所に子どもたちが集まれる場所を作り、自分のペースで遊べるようにしてストレス発散できるような支援が必要です。
準備は難しいかもしれませんが、東日本大震災では避難所の学校の教室をプレイルームにしたり、校庭で体を動かせるようにしたりしていました。地震ごっこなど災害に関連の遊びをする子がいても、度を越さないなら大丈夫です。それは記憶の中で処理しているということなので。
そうした場所や余裕がなくても、場を和ませるのに役立つ「ハンカチで作るネズミ」といった身近な資源でできる遊びを知っておくといいですね。生活に役立つ、「スカーフでできるリュック」「少しのお湯でできるおしぼりタオル」もあります。小さいビニールに、折ったタオルを入れてコップ1杯のお湯をしみ渡らせるだけで、絞らなくてもホットタオルができます。
【乳幼児特有の必要品も非常用袋に】
被害を小さくするための大きな力は、「自助、公助、共助」の連携です。平時から家族で避難場所や連絡方法を確かめて、地域の人とつながりを持っておきましょう。非常用の持ち出し袋は、できるだけコンパクトにまとめて、保管は家族みんながわかる場所に。おむつやミルクなど乳幼児特有の必要品の非常用袋も準備しておきましょう。
このような内容の「赤十字幼児安全法」の講習も開かれています。心構えがあれば不安が軽減されるので、参加してみてはいかがでしょうか。