藤井風「死ぬのがいいわ」の米ゴールドディスク認定の快挙で考える、日本語楽曲の可能性
「死ぬのがいいわ」という刺激的なタイトルの藤井風さんの楽曲が、今月アメリカレコード協会からゴールドディスク認定の快挙を達成したことをご存じでしょうか?
この賞は、楽曲の米国でのデジタルシングルの販売や、ストリーミング再生が一定数を超えた楽曲が認定されるもので、今回の藤井風さんの認定は、昨年10月の米津玄師さんに続き日本人アーティストで2人目の快挙になります。
参考:藤井 風、「死ぬのがいいわ」米ゴールドディスク認定 初解禁ライブ写真も
ただ、今回の受賞の経緯を振り返ると、今回の藤井風さんの認定は、ある意味では米津玄師さんの認定よりも多くの日本人アーティストにとっての可能性をひらく認定と言えますので、詳細をご紹介したいと思います。
海外でヒットする日本語曲はアニメの主題歌?
もちろん、米津玄師さんの認定も、藤井風さんの認定も、どちらも素晴らしい快挙なのは間違いありません。
ただ、昨年10月に米津玄師さんがゴールドディスク認定された「KICK BACK」は、米国でも人気のアニメ「チェンソーマン」のオープニングソングであり、その人気のお陰であることは米津さん本人も受賞時に明言されています。
参考:米津玄師が快挙 日本語詞曲「KICK BACK」で初の米ゴールドディスク認定
昨年世界中でヒットしたYOASOBIの「アイドル」もアニメ「推しの子」の主題歌ですし、今年世界中でヒットしているCreepy Nutsの「Bling-Bang-Bang-Born」もアニメ「マッシュル」の主題歌でした。
そういう意味で、アニメの主題歌というのが日本人アーティストの楽曲が世界に拡がる一つの入り口になっているのは間違いありません。
一方で、藤井風さんの「死ぬのがいいわ」は、そうしたアニメなどとの大きなタイアップが一切無い状態で今回ゴールドディスク認定を受けた点が、大きなポイントと言えます。
リリースから2年後に急に世界でヒットした楽曲
そもそも「死ぬのがいいわ」がリリースされたのは、2020年5月にさかのぼります。
あくまで「死ぬのがいいわ」は藤井風さんの1作目のアルバムである「HELP EVER HURT NEVER」の収録曲の一つであり、シングルリリースもされていませんでした。
しかし、2022年7月頃からタイのTikTokを中心に急激に話題化。世界中にその波が拡がり、結果的にSpotifyで23の国と地域で1位を獲得するような大ヒットになったのです。
参考:藤井風「死ぬのがいいわ」の世界的ヒットは、日本のアーティストの海外への扉を開くか
この「死ぬのがいいわ」の魅力は何と言っても、その独特なメロディです。
2022年12月28日に放送されたNHK MUSIC SPECIALでは、世界中の人達が「死ぬのがいいわ」を日本語の歌詞で口ずさんでいる様子が放送されていました。
参考:NHK MUSIC SPECIAL 藤井 風 いざ、世界へ
「死ぬのがいいわ」は、文字通り楽曲の魅力で、グローバルヒットになった曲と言えるわけです。
2年に渡り海外のチャート入りを継続
しかも、「死ぬのがいいわ」の凄いのは、2022年に一時的に流行した楽曲に留まらなかった点です。
実は「死ぬのがいいわ」は、2022年に世界中を席巻した後も、継続して世界で聞かれ続けます。
象徴的なデータと言えるのが、2023年の年末にSpotifyが発表した海外で最も再生された国内の音楽ランキングでしょう。
なんと、「死ぬのがいいわ」は2020年にリリースされ、2022年に世界中で大ヒットした楽曲であるにもかかわらず、その翌年の2023年にも、海外で最も再生された国内のアーティストの楽曲の1位になっているのです。
2023年を代表する大ヒット曲と言えば、YOASOBIの「アイドル」ですが、「死ぬのがいいわ」はその「アイドル」よりも海外では多く聞かれていたことになります。
しかも、実は2024年6月の現在の時点でも、「死ぬのがいいわ」はビルボードジャパンの「Global Japan Songs excl. Japan」という日本を除く海外での日本の音楽のヒットチャートで、XGの「WOKE UP」や、「アイドル」「Bling-Bang-Bang-Born」にならんで6位と、トップ10に入り続けているのです。
参考:XG「WOKE UP」グローバル・ジャパン・ソングス首位3週目に突入
つまり、日本においては「死ぬのがいいわ」は2022年に流行った曲、という印象の方が多いかもしれませんが、実は世界ではこの2年近くにわたって高い人気を維持しつづけています。
その一つの象徴が、「死ぬのがいいわ」が2024年6月の今になって米国のゴールドディスク認定を受けたことに表れていると言えるわけです。
海外で着実に高まる藤井風人気
「死ぬのがいいわ」を起点とした海外での藤井風さんの人気は、この2年間で着実に拡がりを見せています。
2023年には藤井風さんの自身初の海外ツアーとしてアジアツアーを成功させていますし、今年も5月から6月にかけて海外ツアーを実施されています。
さらに、象徴的な現象として、NHKと一緒に実施した「Tiny Desk Concerts」の収録動画が、本家「NPR Music」のYouTubeチャンネルで、すでに670万再生を突破し、同時期の他の動画に比べて非常に高い再生数を記録している点があげられます。
非常に印象的なのは、番組中のMCは藤井風さんが流ちょうな英語でおこなっているものの、歌唱されている楽曲は全て日本語楽曲という点です。
一昔前には、日本人アーティストが世界で成功するためには、英語での歌唱が必須であると言われてきましたが、「死ぬのがいいわ」と藤井風さんの成功は、間違いなく日本語の楽曲にも世界に拡がる力があることを証明してくれているのです。
CDでしか聞けない音楽は世界には見つからない
実は日本は、世界的にも珍しくCDビジネスが音楽の中心として維持されてしまった国であり、その関係でまだまだ多くのアーティストの楽曲がSpotifyなどのストリーミング配信で視聴できない状況にあります。
そうした楽曲は、当然「死ぬのがいいわ」のようにTikTok経由で突然世界で話題になるチャンスも逃していれば、海外の人が聞きたくても見つけることすらできない状態にあると言えます。
逆に言えば、藤井風さんのように積極的にストリーミング配信やYouTubeを活用すれば、「死ぬのがいいわ」のように世界に見つかる楽曲が増える確率も自然と増えるはずとも言えるわけです。
すでに、藤井風さん以外にも、今年コーチェラで素晴らしいステージを披露した新しい学校のリーダーズやYOASOBIのように、日本語楽曲で世界にファンを増やしているアーティストは増え続けています。
参考:新しい学校のリーダーズ、圧巻の「コーチェラ」出演に学ぶ、言語を超える音楽の力
実はこれまで、日本のアーティストがあまり世界に見つかっていなかったのは、単純に日本の多くの音楽レーベルや事務所がCDビジネスに固執して、世界から見つけられない場所に閉じこもっていたからかもしれません。
「死ぬのがいいわ」が証明してくれたように、素晴らしい音楽の力は間違いなく言語の壁や国境の壁を越えて世界に拡がります。
藤井風さんの成功に刺激を受けて是非日本の音楽レーベルや事務所には、CDからストリーミング配信へのシフトを進めて頂きたいと思いますし、それによってさらに多くのアーティストの日本語曲が、世界に見つかることを期待したいと思います。