『エヴァ』『あんスタ』『温泉むすめ』…複数作のキャラに出会える箱根旅の魅力
関東近郊の一大観光地である箱根。明治期以降から保養地・観光地としての開発が進められており、その歴史の古さは日本有数のものがあります。標高96メートルの箱根湯本駅から541メートルの強羅駅を結ぶ箱根登山電車は1919年(大正8年)に開業。その2年後の21年(大正10年)には強羅駅から標高750メートルの早雲山駅までの箱根登山ケーブルカーが開業しています。登山列車としては現在に至るまで「日本唯一」とも言える存在感を放っており、ケーブルカーも関東最古の歴史を持ちます。
戦前は箱根登山電車を運営する小田急電鉄が主に観光開発を担っていましたが、戦後になり、観光が大衆文化にまで成熟するようになると、西武グループが本格的に進出。戦前からある小田急グループの軌道インフラに対抗して、西武グループはバスや自動車専用道を軸にして対抗します。この競争は1960年代末まで熾烈に繰り広げられ、「箱根山戦争」とも表されています。
今では『エヴァ』の「聖地」に
そんな歴史を持つ箱根ですが、今では複数のキャラクターが共存する「聖地」にもなっています。中でも代表的なのが、今や国民的アニメとも言える「新世紀エヴァンゲリオン」(「エヴァ」)シリーズでしょう。
「エヴァ」シリーズは、1995年から96年にかけてTVアニメ放送がされ、97年から98年にかけて劇場作品も展開されました。その後、2007年から21年にかけて本作を再構成した「新劇場版」が4作展開されています。
箱根町が「第3新東京市」として描かれており、「聖地巡礼」が世間に認知され始めてきた09年ごろから箱根町の各施設とのコラボが進んでいます。15年以上にわたって継続的に続いており、その範囲も広がり続けています。
例えばローソンでは、店まるごと『エヴァ』仕様に改装するコラボが2010年から続いています。「第3新東京市」の市街地がある仙石原地区周辺で複数展開されており、現在ではローソン箱根仙石高原店が「第3新東京市西店」に。ローソン仙石原店が「第3新東京市南店」として改装されています。
他には、作中に登場しているとされる、同じく仙石原地区にある神社「公時(きんとき)神社」の入り口にある公衆トイレも、『エヴァ』仕様に改装されています。これらの場所は一見すると公共交通機関でのアクセスが難しいようにも見えますが、バスでのアクセスも容易で、日中でも毎時数本の本数があります。
また、箱根ロープウェイやバスの一ターミナル拠点である桃源台駅構内には、「エヴァ」とコラボしたスペースが常設的に展示されています。この桃源台駅は、小田急で箱根湯本駅まで訪れ、箱根登山電車、箱根登山ケーブルカー、そして箱根ロープウェイを乗り継いで行った先の終着点となる駅になります。ここから路線バスや「箱根海賊船」に乗り換えることで、「元箱根港」や「箱根町港」といった箱根の中心地へ移動できます。
「海賊船」では『あんスタ』とコラボ。
「海賊船」と聞くと、何のことかわからない人もいると思います。「箱根海賊船」とは芦ノ湖で小田急グループが運行する遊覧船です。見た目が海賊船のような大型帆船(戦列艦)をモデルにしており、一目でわかるのが特徴です。
桃源台港、箱根町港、元箱根港の、芦ノ湖畔の3港を環状に結んでおり、箱根のアクセス路線にもなっています。往復で乗り続けることで、遊覧船として元いた場所に周回することも可能です。
海賊船では、6月30日(日)にかけてスマートフォンゲーム『あんさんぶるスターズ!!(あんスタ)』とのコラボを展開していました。コラボイベント名は「UNDEAD×箱根海賊船」で、レジャー予約サイト「アソビュー」でコラボ乗船券を事前購入することで、オリジナルクリアカードが貰えるというものです。
『あんスタ』は男性アイドルの育成ゲームで、1800万ダウンロードを超える人気作です。TVアニメ化や劇場アニメも展開されています。
『温泉むすめ』のパネルも
箱根とコラボしている作品はこれだけではありません。箱根と言えば温泉地としても著名で、奈良時代以来1300年近い歴史を持つと言われています。この温泉の繋がりから、箱根では『温泉むすめ』とのコラボも16年から実施しています。
『温泉むすめ』とは、主に日本各地の温泉地を女性キャラクターに仕立てた作品で、2024年6月時点で127「柱」のキャラクターがいます。「柱」というのは、キャラクターが「日本の各温泉地に宿る下級の神さま」という設定のためで、言うなれば温泉地の「擬神化」コンテンツとも言えます。この温泉地の神さまでもある「温泉むすめ」が、全国の温泉地に再び活気を取り戻すべくアイドルとして奮闘する物語となっています。
箱根には「箱根彩耶」という温泉むすめがおり、等身大パネルの設置やグッズの販売が行われています。等身大パネルは、箱根関所に隣接する「御番所茶屋」や、水族館をはじめとする複合リゾート施設「箱根園」、元箱根港や箱根関所跡港の4箇所に設置されています。グッズもアクリルキーホルダーやアクリルスタンドほか、箱根の特産品である寄木細工がついたストラップや、木製のフィギュアなど多岐にわたります。
箱根の楽しみ方
このように、箱根では複数作品の「聖地巡礼」が一度にできる点も魅力です。そこで箱根を効率よく回る方法も取り上げたいと思います。
都心を起点にして箱根を鉄道で訪れる場合、小田原までJR東日本の東海道線や、JR東海の東海道新幹線で行き、箱根登山電車に乗り換える方法。あるいは新宿から小田急線で箱根湯本まで行く主に3つの方法があります。この中で最も経済的なのが小田急を用いるルートで、さらに小田急からは「箱根フリーパス」という割引周遊券が発売されています。
このきっぷは首都圏からの移動が小田急に制限されてしまうものの、箱根登山電車やケーブルカー、ロープウェイ、箱根海賊船といった公共交通機関だけでなく、箱根地区の路線バスも乗り放題になります(一部使えない路線あり)。
箱根フリーパスを利用した観光プランは、静岡以西の利用者向けにも展開されています。例えばJR東海が提供する旅行商品「Ex旅パック」では、往復の新幹線と宿泊、そして箱根フリーパスがセットになったプランが提供されています。
箱根を移動する場合、箱根登山電車やケーブルカー、ロープウェイを利用することで、日本でもここでしか味わえない旅情が味わえます。例えば、箱根登山電車は「スイッチバック」と呼ばれる折り返しを重ね、国内最大の80‰という急勾配の坂を上っていきます。また、ロープウェイからは大涌谷の活火山をうかがわせる噴気が一望できます。
一方で、こうした交通機関は所要時間の面で見ると決して早くない点があります。その点急勾配でも登っていけるバスはこうした軌道路線に比べると速達性に優れています。 箱根湯本駅から桃源台駅までの所要時間を比較するとその差は歴然で、電車とケーブルカー、ロープウェイを乗り継いで行った場合、その所要時間は2時間弱かかります。これに対し、箱根湯本駅から桃源台駅までバスを利用した場合は40分ほどでアクセスできます。そのため、行きはケーブルカーとロープウェイを利用し帰りはバスなど、交通機関を使い分けるのも一案です。
バスを活用することで、箱根に点在する観光施設に幅広く立ち寄れる魅力もあります。例えば箱根には「箱根ガラスの森美術館」や「彫刻の森美術館」など、「美術館」と付く施設だけで10ヶ所以上もあります。箱根はポップカルチャーだけでなく、アートそのものの「聖地」でもあります。全部一気に巡るのは大変ですが、すき間時間にどこかに立ち寄ってみるのもいいかもしれません。
オールインクルーシブの魅力
特に首都圏在住の場合、箱根は日帰りで行く観光地の印象もあるかもしれません。しかし箱根は保養地としての歴史が長かったことからも、ちょっとしたバカンスを楽しむ旅行地としても適していると思います。
バカンス目的の宿泊として近年注目されている形態に、「オールインクルーシブ」というものがあります。「オールインクルーシブ」とは、宿泊代金にホテル施設内の食事やドリンクなどの料金がほぼ含まれているサービスのことです。
このプランを提供している宿泊施設だと、宿泊者の夕朝食が飲み放題付きで用意されているだけでなく、滞在時のおやつや飲み物(アルコール含む)も提供されていることが多いです。
箱根の宿泊施設で「オールインクルーシブプラン」をうたう宿泊施設の一つに、強羅温泉にある共立リゾートの「雪月花別邸 翠雲」があります。この旅館は「ドーミーイン」などのホテルチェーンで知られる共立メンテナンスが運営しています。「ドーミーイン」は宿泊者に「夜泣きそば」をはじめ、飲み物やアイスクリームの提供をしており、滞在中の付加価値が高いホテルとして人気があります。
「オールインクルーシブプラン」の魅力について、共立メンテナンスの担当者はこう話します。
「オールインクルーシブプランですとチェックアウト時の追加精算の心配がいらなくなるため、例えば娘さんが両親に旅行をプレゼントするような使い方をされるケースが多いです。『インクルーシブプラン』とうたっていなくても、箱根の共立リゾートの旅館には『飲み放題付きプラン』などの名称で同様のサービスを提供している施設もあります。お客様には箱根旅を満喫してもらいたいですね」
箱根の宿泊施設は、価格帯的には決して安いとは言えない施設が多いですが、こうしたサービスを提供している施設を事前に調べることで、その滞在の質を上げることができると思います。
このように、日帰りでも宿泊を伴っても楽しめるのが箱根の魅力と言えます。気軽に「聖地巡礼」を楽しめる候補地としてオススメしたい場所と言えます。
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