日本一小さな自治体・富山県舟橋村でなぜ人口が増え続けているのか
21世紀に入り、少子高齢化の人口減社会が到来しています。都市部ですら人口が減っている中、日本一小さな村であるにもかかわらず、ここ40年近くにわたって人口が増え続けている自治体があります。富山県舟橋村です。
舟橋村は富山市の東に隣接する自治体で、明治期以降一度も合併したことがありません。その面積は3.47平方キロメートルで、米ニューヨークのセントラルパーク(3.41平方キロメートル)や沖縄の那覇空港(3.27平方キロメートル)ほどの広さしかなく、日本で最も小さい自治体として知られています。
そんな日本一小さな村が、実は今もなお人口が増え続けています。なぜ増え続けているのか、その取り組みについて紹介します。
子育て支援で人口は倍以上に
舟橋村では、1980年代後半から人口が増え続けています。1990年に1371人だった人口は、2024年9月1日時点で3303人と、実に2.4倍以上になっています。この背景には、富山市中心部から車で20分ほどの距離にあり、その立地の良さがあります。しかしその富山市も、2010年代以降人口が減り続けています。
舟橋村を移住先として選ぶ大きな理由が、子育て支援の充実ぶりだといわれています。妊産婦や18歳までの子どもの医療費が無料となっているほか、出産育児一時金や出産・子育て応援ギフトの支給を実施しています。
また、保育所や学童保育施設によって、小学校卒業までほぼ無償で子どもを預けられるほか、「子育て支援センター」を中核にした育児や子育て相談を随時行っているのも特徴です。
舟橋村に2つあるうちの学童保育施設の一つ、「fork toyama(フォーク富山)」の大橋えつこさんは、「村に1つだけある小学校の児童200人弱のうち、40人ほどが利用している」と話します。
「fork toyama」では喫茶店も併設されており、この喫茶店の収益が学童保育にも活かされる仕組みになっています。また、子ども達の教育にも活用しています。「fork toyama」を運営するスタッフ全員が県外からの移住者なのも特徴です。
“お試し移住”の取り組み
コロナ禍による働き方の変化や、定年世代人口の上昇により、都市部から離れた地域に移住しようと考えている人は全国的に増えています。そこで移住にあたって問題になりがちなのが、住む場所の問題です。特に単身者ではない場合、地域内に世帯向けの賃貸住宅がないため、古民家を買い取ったり、土地を借りて家を建てたりと、いきなり家を購入しなければならないケースが珍しくありません。
こうした舟橋村が実施している移住希望者向けの施策の一つが、村営のファミリー向け賃貸住宅の提供です。舟橋村では「リラフォートふなはし」という村営住宅を移住希望者に貸し出しており、いきなり村内に家を建てなくても“お試し”で移住できる施策を取っています。
さらに村では、このリラフォートふなはしに半年以上居住し、村内で住宅を取得した人は50万円から150万円の助成金を支給する制度も実施しています。
この移住施策について、舟橋村の渡辺光村長は、「退去される方の大半が村内に移住しており、空きが出た部屋に新たな移住希望者が入居する好循環が生まれている」と手応えを話します。
ヒマワリ畑で村を1つに
移住支援施策にも注力し、人口も増え続けている舟橋村ですが、それによってある問題も起きているといいます。渡辺村長がこう説明します。
「舟橋村では今や旧住民の数以上の移住者がいるのですが、若い世代が多い移住者はどうしても移住者同士で交流しがちです。そのため、高齢世帯が多い旧住民との接点がなかなかない問題がありました。そこで、ヒマワリ畑を使った取り組みである『サンフラワープロジェクト』を今年から立ち上げました」
「サンフラワープロジェクト」とは、村民全員にヒマワリの種を配布し、ヒマワリ畑予定地の休耕田に種を蒔き栽培する取り組みです。これにより、新旧の住民同士が交流する機会を作る狙いがあります。
そしてヒマワリ畑を村内に走る富山地方鉄道の線路脇に作ることで、写真撮影スポットを創出する狙いもあります。これにより、舟橋村に新たな観光資源を生み出すことも可能です。
サンフラワープロジェクトの目的はそれだけではありません。渡辺村長がこう続けます。
「ヒマワリの種から油を抽出して、村の新たな特産品を作る動きも進めています。これも村の新たな観光資源にしていきたいですね。そして村の子ども達にこの製造から販売まで関わらせることで、教育にも繋げていく狙いもあります」
サンフラワープロジェクトの事業費は30万円と、自治体としては安価な取り組みなのも特徴です。ヒマワリ畑の大きさは東西約115メートル、南北約17メートルの長方形をしていますが、来年以降、用地確保次第広げていく方針です。10月13日(日)には、ひまわりの収穫祭イベントが午前中に実施される予定です。
認知度向上に協力隊制度導入
このようにサンフラワープロジェクトでは、舟橋村の認知度が上がることによって、さらなる移住者を増やす狙いがあります。さらなる認知度向上に向け、今年7月から村で新たに導入した制度があります。地域おこし協力隊制度です。それも通常の協力隊員ではなく、「地域おこし協力隊DAO」と呼ばれる、インターネットに特化した人材なのが特徴です。
「DAO」とは分散型自律組織のことで、インターネットを介して全国各地から参加者が集まるデジタルコミュニティです。参加者は単なるファンではなく、対等な立場で企画立案や意思決定に関われるのが特徴です。参加者同士のやり取りは、Discordなどのチャットツールがよく使用されます。
DAOに強い人材を協力隊員として招いた経緯について、渡辺村長がこう話します。
「外部から協力隊員を招くからには、村の誰にもできないことをその人にやってもらいたい思いがありました。そこで地元の銀行である北陸銀行から札幌市のあるやうむ社が展開する『地域おこし協力隊DAO』を紹介され、導入を決めました。DAOを通じて、村の関係人口を増やしていきたいですね」
この「地域おこし協力隊DAO」として着任したのが、にしけんさんです。今後の抱負をこう話します。
「これまでDAOを通じて、NFTに携わる事業を手がけてきました。インターネットを通じ村のファンを増やしていくだけでなく、村ではサンフラワープロジェクトの特産品にNFTも加えるといった取り組みをしていきたいですね」
また、にしけんさんは新たなライフスタイルを村内で提唱したいといいます。
「舟橋村は村の中心に越中舟橋駅があり、村内全域が駅徒歩圏内にあります。そこから富山駅まで15分ほどの距離であり、実は車がなくても生活に困らないと考えています。現状、村で車を持っていない人は僕を除きまずいないのですが、自分がその都市型の生活スタイルを実証することで移住のハードルをより下げていきたいですね」
富山駅からは新幹線に乗り換えることで、2時間ほどで東京に行くことも可能です。これまで舟橋村の移住者の多くは県内からでしたが、近年ではテレワークの普及などにより、首都圏からの移住者も増えています。
今後、舟橋村の子育て支援や移住者支援がどのように全国区に広まるのか。舟橋村と同様、子育て支援に本気で取り組む自治体が全国区で人を集められる時代になるのかどうか注目だと考えています。
(写真は全て筆者撮影)