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温泉の泉質がイケメン男子に? 主演声優・土田玲央が明かす『おんせんし』の魅力

河嶌太郎ジャーナリスト(アニメ聖地巡礼・地方創生・エンタメ)
『おんせんし』の10体のキャラクター達

 いろいろなものを美少女や美男子のキャラクターに仕立て上げる「擬人化」コンテンツ。鉄道や艦船、馬や刀、お城や灯台や国まで実に様々なものが擬人化されており、ヒット作や地方創生に貢献している作品も数多く誕生しています。

 こうした中で、全国にある温泉の「泉質」を擬人化した作品『おんせんし』が2023年11月から展開され、ちょうど1周年を迎えています。温泉そのものではなく、塩化物泉や硫黄泉といった泉質を“イケメン男子”に擬人化しているのが特徴です。

『おんせんし』とは

『おんせんし』キービジュアル
『おんせんし』キービジュアル

 『おんせんし』は、2023年11月から始まったプロジェクトで、24年10月末時点で10人の主人公となる男性アイドルキャラクターがいます。10の泉質は環境省が定める分類に基づいています。

『おんせんし』の10体のキャラクター達
『おんせんし』の10体のキャラクター達

 「単純温泉」のジュン(CV:廣瀬大介)、「塩化物泉」のシオ(CV:土田玲央)、「炭酸水素塩泉」のジュウソウ(CV:土屋神葉)、「硫酸塩泉」のリュウ(CV:石橋陽彩)、「二酸化炭素泉」のタンソ(CV:増田俊樹)、「含鉄泉」のテツ(CV:置鮎龍太郎)、「硫黄泉」のイオウ(CV:今井文也)、「酸性泉」のサン(CV:戸谷菊之介)、「放射能泉」のラドン(CV:羽多野渉)、「含よう素泉」のガンヨウ(CV:小野友樹)の10体のキャラクターで構成されています。

『おんせんし』の展開の特徴
『おんせんし』の展開の特徴

 これら10体のキャラクターは、泉質が持つ特性に基づいて性格などが設定されているのも特徴で、例えば「塩化物泉」のシオは、基本的にどの化学物質とも結合できる特性から、友達思いで、世話焼き上手な社交的なキャラクターとして描かれています。他にも「硫黄泉」のイオウは、一緒に長くいると疲れてしまうような性格として描かれています。

「泉質」別に温泉の良さに触れられるのが『おんせんし』の特徴だ
「泉質」別に温泉の良さに触れられるのが『おんせんし』の特徴だ

 特定の温泉地が舞台ではなく、地球の奥深くにあるとされる架空の世界「ユートピア・ザパン」を舞台に物語が繰り広げられています。一方で、実在する温泉地とコラボをする場合、例えば濃厚な硫黄を含む酸性硫黄泉が特徴の万座温泉(群馬県)の場合は、「硫酸塩泉」のリュウ、「硫黄泉」のイオウ、「酸性泉」のサンの3体による展開を想定しています。他にも単純泉が特徴の下呂温泉(岐阜県)の場合、「単純温泉」のジュンだけの展開が考えられます。

 『おんせんし』の取り組みとしては、ボイスドラマと音楽展開をYouTubeなどで展開しています。デビュー楽曲は2023年11月1日公開の熱海温泉(静岡県)をイメージした「おいで☆ATAMI」です。熱海温泉は硫酸塩泉と塩化物泉が特徴であるため、「塩化物泉」のシオと「硫酸塩泉」のリュウの2人が歌う楽曲となっています。

「泉質」にフォーカスした狙い

 『おんせんし』は東京都渋谷区に本社を置く「CHOCOLATE Inc.」によって企画・製作されています。この企業はシナリオからイラスト、音楽から動画制作まで自社で手がけている企業で、『おんせんし』の大半の制作工程を自社で手がけているのが特徴です。

『おんせんし』を企画した、永井千晴プロデューサー
『おんせんし』を企画した、永井千晴プロデューサー

 『おんせんし』を企画した、同社の永井千晴プロデューサーが、企画に至った経緯をこう振り返ります。

「私は学生時代『じゃらん』で温泉のライターをしており、全国の温泉を巡っていました。今でも温泉インフルエンサーとしての活動をしています。その活動を通じて、良い温泉地であっても、温泉地間の競合で旅館が廃れていく光景を見て、何か救える手段はないか、人を増やす手段はないかと模索していました。その抗いとして、温泉の魅力を多くの人に伝えるべく、女性向けの温泉をテーマにした擬人化コンテンツを作りたいと考えるようになりました。そこで2年ぐらいかけて企画に固めていきました」

『おんせんし』は2023年11月、静岡県熱海市の熱海温泉をイメージした楽曲「おいで☆ATAMI」から展開が始まった
『おんせんし』は2023年11月、静岡県熱海市の熱海温泉をイメージした楽曲「おいで☆ATAMI」から展開が始まった

 既に温泉を擬人化した作品としては、2016年から展開中の『温泉むすめ』があります。ただ、こちらは女性キャラクターに仕立てたもので、ターゲットも男性が中心です。また、各地の温泉地に宿る下級の神様という設定になっている点で『おんせんし』とは異なります。

『温泉むすめ』全国マップ。127の女性キャラクターが全国と台湾で展開されている(エンバウンド提供)(C)ONSEN MUSUME PROJECT
『温泉むすめ』全国マップ。127の女性キャラクターが全国と台湾で展開されている(エンバウンド提供)(C)ONSEN MUSUME PROJECT

 『温泉むすめ』の存在について、永井プロデューサーは「もちろん温泉のキャラクターコンテンツとして把握していて、参考にしたり、被らないようにしたりと気にしながら設計しました」と話します。温泉地ではなく、泉質を擬人化することで、推しのキャラクターに色々な場所で会うことができ、全国どの温泉でもオリジナルのメンバーでコラボできるようにした狙いが『おんせんし』にはあるといいます。

奥塩原新湯温泉(栃木県那須塩原市)など、知る人ぞ知る名湯は日本中にある
奥塩原新湯温泉(栃木県那須塩原市)など、知る人ぞ知る名湯は日本中にある

 また、自身も大の温泉好きとして、「泉質」にフォーカスした別の狙いもあるといいます。

「自分の好きな『泉質』を知ってもらうことで、温泉そのものを好きになって欲しい狙いがあります。例えば関東近郊の有名な硫黄泉といえば、群馬の万座温泉や草津温泉を思い浮かべる人も多いと思いますが、他にも例えば栃木県の奥塩原新湯温泉など、知られざる名湯が日本にはたくさんあります。『おんせんし』のキャラクターを通じて、有名温泉地以外にも自分が好きな温泉地を見つけ出して欲しい想いがあります」(永井プロデューサー)

土田玲央が明かす地域キャラの魅力

『おんせんし』のシオ(左)と、シオ役の声優の土田玲央さん(右)
『おんせんし』のシオ(左)と、シオ役の声優の土田玲央さん(右)

 『おんせんし』のキャラクターを演じる声優は、こうした擬人化コンテンツによる地方創生の動きについてどのように見ているのでしょうか。シオ役の声優・土田玲央さんはこう話します。

土屋さん演じるシオは「塩化物泉」という性質上、誰とでも組みやすいキャラクターとして描いている
土屋さん演じるシオは「塩化物泉」という性質上、誰とでも組みやすいキャラクターとして描いている

「今回のような地方創生から生まれたキャラクターに声を当てるのは初めての経験なのですが、こうした動きは自分もすごくいいことだと思っています。自分も地方で朗読劇などのイベントに出演させていただく機会があるのですが、東京に来られない方や地元の人たちが見に来て下さることで、東京でやるのとは違った熱量を感じることが多いですね。地方でやると、すごく盛り上がることが多いんです」

 温泉という題材を扱う魅力について、土田さんはこう続けます。

「温泉そのものがキャラクターになることによって、興味を持った人たちが色々な場所に行く機会につながります。今まであまり外を出歩かなかった人たちが旅行するきっかけになるなど、良い気分転換にもなると思います。自分も小さい頃はよく父に温泉に連れて行ってもらっていました。最近はあまり行けていないのですが、また温泉に行くきっかけにしたいですね」

 また、声優自身が地方創生に役立っている動きについても、土田さんはこう話します。

「近年、声優に限らず、タレントさんが故郷で地元メディアと一緒に地域を盛り上げる動きが盛んです。自分は北海道北見市出身なのですが、地元にも素晴らしい温泉がたくさんあります。自分も何か故郷に貢献したい気持ちがあるので、『おんせんし』で盛り上げていけたらいいですね」

小さく地方で展開していきたい

 永井プロデューサーも、「泉質」を擬人化する強みを活かして、全国的に『おんせんし』で盛り上げていきたいと話します。

「どんな無名の温泉地であっても、『泉質』によってキャラクターとコラボできますので、現地の小さな旅館などとも積極的にタイアップしていきたいと考えています。中でも土田さん演じるシオの『塩化物泉』は、多くの温泉に含まれている泉質です。こうした温泉地でしか聞けない土田さんの観光案内ボイスなど、地域限定のコンテンツも展開していきたいですね。温泉施設だけでなく、現地のバスや鉄道といった交通機関とのコラボもできたら面白いと思います」

 地方だけでなく、同時に東京でしかできない取り組みも続けていく方針です。

「まずは音楽活動を通じて『おんせんし』の知名度を上げていきたい。当面は楽曲数を増やして、少しずつ温泉とのコラボを展開していきながら、盛り上がってきたらトークイベントやミニライブを展開できるといいなと考えています。将来的には東京など都市部で、トークイベントや音楽ライブイベントなどが実施できるまで多くの方に注目いただくことが目標ですね」(永井プロデューサー)

 また、『おんせんし』の展開としても、今後はストーリー展開もはじめ、さらに盛り上げていく方向です。

「『おんせんし』がなぜ人々のために湯を湧かし、人々をあたためているのか…。その背景に迫るストーリーが展開できればと考えています。鍵になるのは、「あいつら」の存在。ぜひ物語面でも今後の動きに期待して欲しいですね」(永井プロデューサー)

『おんせんし』の強み

『おんせんし』は2024年11月に1周年を迎えた
『おんせんし』は2024年11月に1周年を迎えた

 『おんせんし』の特徴は、泉質をコンセプトにしたことで、小規模に展開できることが強みだと筆者も考えます。また、泉質ごとに声優やキャラクターも決まっているため、例えば同じ塩化物泉であれば、同じ泉質の遠く離れた別の温泉地でも、例えば同じグッズで展開可能な点も利点だと思います。

『おんせんし』開始から1周年が経ち、コラボの第1弾は和歌山県白浜町の南紀白浜温泉に決定している
『おんせんし』開始から1周年が経ち、コラボの第1弾は和歌山県白浜町の南紀白浜温泉に決定している

 これは他作品にも言えることですが、『おんせんし』のようなオリジナル作品が、いきなり地域で大規模に展開することは難しいのが現状です。地域に少しずつ作品の理解者が現れ、横に広がっていくのが特徴です。『おんせんし』はこの入り口を多く作りやすいため、これが強みになると考えます。

一般社団法人日本リカバリー協会が発表している「温泉旅行行動率(全国、20~79歳、2021年、全体、男女別、年代別)」のデータ
一般社団法人日本リカバリー協会が発表している「温泉旅行行動率(全国、20~79歳、2021年、全体、男女別、年代別)」のデータ

 また、温泉旅行好きの割合は、男性よりも女性のほうが多い統計結果もあり、この点でも女性向けの温泉コンテンツは可能性があると言えそうです。これからどのように日本の温泉地が盛り上がっていくのか。楽しみにしたいと思います。

(写真は全て筆者撮影)

(『おんせんし』に関する画像は全てCHOCOLATE Inc.提供)

(C)CHOCOLATE

ジャーナリスト(アニメ聖地巡礼・地方創生・エンタメ)

1984年生まれ。千葉県市川市出身。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。「聖地巡礼」と呼ばれる、アニメなどメディアコンテンツを用いた地域振興事例の研究に携わる。近年は「withnews」「AERA dot.」「週刊朝日」「ITmedia」「特選街Web」「乗りものニュース」「アニメ!アニメ!」などウェブ・雑誌で執筆。共著に「コンテンツツーリズム研究」(福村出版)など。コンテンツビジネスから地域振興、アニメ・ゲームなどのポップカルチャー、IT、鉄道など幅広いテーマを扱う。

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