なぜいま欧州各国で「気候市民会議」が開かれているのか?ー日本では気候若者会議の取り組みも
2015年にパリ協定が結ばれ、急速に世界中で「脱炭素社会」に向けた取り組みが進められている。
特にヨーロッパでは、政府や政治家、専門家、民間NGOといったこれまでのメインの政策プレイヤーだけではなく、市民(国民)を巻き込んだ取り組み、「気候市民会議」が広がっている。
「気候市民会議」とは、国や地域によって主催団体は異なるものの、一般的には、無作為抽出(くじ引き)で集まった一般の市民(数十人〜150人程度)が数週間から数ヶ月かけて気候変動対策について話し合う会議のことを言う。
中でも、フランスでは、2018年秋に起こった燃料税引き上げへの反発、「黄色いベスト運動」を受けて、エマニュエル・マクロン大統領が主導して「気候市民会議」を開催。
全国から無作為抽出された150人が、2019年10月〜2020年6月の7回の週末に議論を重ね、短距離の航空便廃止や熱効率の悪い住宅の賃貸禁止、環境の大量破壊「エコサイド」の罰則化など、6つのテーマ(「消費」「生産/働く」「移動」「住」「食」「環境保護」)にまたがって、149の提言を大統領に提出。
2021年から議会で審議が進められている。
日本では、2020年11月に初めて「気候市民会議さっぽろ2020」が開かれた。
無作為抽出された10~70代の男女20人がオンラインで4日間、脱炭素社会の実現を議論。結果は、札幌市に提言され、2021年3月に市が策定した気候変動対策行動計画に反映されている。
なぜこうした「気候市民会議」のような取り組みが広がっているのか?
筆者が代表理事を務める日本若者協議会が、現在開催中の「日本版気候若者会議」(5月23日〜8月1日まで、若者約100名が約10週間にわたって気候変動対策を議論、政府などに対して政策提言を行う)で行われた、「気候市民会議さっぽろ2020」実行委員会代表の三上直之・北海道大学准教授と、吉田徹・同志社大学教授の講演の内容をもとに見ていきたい。
代議制民主主義の機能不全
なぜ「気候市民会議」のような取り組みが必要なのか?
一言でいえば、「代議制(代表制)民主主義」の機能不全である。
これまで国民の代表である政治家や政府にある程度「任せられる」と感じていたのが、社会問題の複雑化や、人々の多様化(に伴う課題の細分化)、選挙サイクルと課題スピードのズレなどによって、政治家や政府に不満を感じる人が増えている。
たとえば、2019年に「気候市民会議」が行われたイギリスでは、イギリス議会を「信用しない」有権者の割合は、2006年以降ゆるやかな上昇が続いている。
この背景としては、環境問題などの「一国単位で解決不可能な問題群の蓄積」、GAFAなどのグローバル企業の台頭、長期的問題の存在など、さまざまな理由が挙げられる。
しかしここで重要なのは、問題の複雑化や長期化によって、政治家・政府だけで解決するのも同時に難しくなってきているということである。
つまり、国民も政治家・政府だけに任せるのではなく、一般市民(&企業)も積極的に関わり、当事者性を高めていく必要性が出てきている。
その点、「気候市民会議」は、政策的決定プロセスに市民を巻き込む取り組みであり、政治家・政府だけで解決が難しい問題(環境問題や格差問題、AIの倫理問題など)においては今後必須の取り組みであると言える。
それは、世界中で、参加型予算(地方自治体などの予算編成への住民の直接参加)、ステークホルダー会議(たとえば台湾では、公共政策オンライン参加プラットフォームJOINで一定数以上賛同者が集まれば、オードリー・タンIT担当大臣が共同会議を招集し、ステークホルダーが参加して、関連する政府部門と実行可能な改善案について議論する)などの取り組みが広がっていることからも明らかである。
三上直之・北海道大学准教授の講演内容はアーカイブ動画からも視聴可能となっている。
吉田徹・同志社大学教授の講演内容もアーカイブで視聴可能となっている。
環境問題への関心が弱い日本
他方、「気候市民会議」を開催するには、一定の社会的関心が必要であり、その点日本は社会的な課題への関心が弱い。
たとえば、「環境問題に関心がある割合」を国際比較で見ると、日本は欧米諸国の半分未満になっており、国民で議論できるだけの土壌が整っているとは言いがたい(ニワトリ・タマゴ問題ではあるが)。
それは、イギリス、フランスの「気候市民会議」を立ち上げるきっかけとなった、気候変動対策に関するデモの動員数を見ても、明らかである。
フランス・黄色いベスト運動の先駆けとなった、ネット上の署名は約86万人の署名が集まり、デモには、約28万人が参加したと言われている(1回で約4万6000人)。
日本でも気候変動対策に関するデモ活動が行われているが、規模的には桁違いである(フランスの2倍ほど人口はいるが、数千人集まれば”大規模”である)。
(もちろんその原因は主権者教育の乏しさや政治番組の少なさなどにあり、今の若者世代などを責めるのは間違いである)
そのため、日本若者協議会では、無作為抽出ではなく、公募制によって、参加者(30代以下の若者に限定)を募集し、「日本版気候若者会議」を開催している。
そもそも、政策形成過程において、日本は(関心の強い層でさえ)若者が参加できておらず、まずはその課題を解消しなければならない、という問題意識である。
しかし、あくまで外部の市民団体による取り組みであり、下図のように日本で「代議制(代表制)民主主義」に対する不満が高まっていることを考えると、日本でも政府が積極的に市民、特に若者を巻き込む取り組みが求められている。
今後、日本各地で「市民会議」のような取り組みが広がることを期待したい。