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【インタビュー前編】ドゥーム・ロック神スリープ 来日インタビュー

山崎智之音楽ライター
SLEEP photo by Miki Matsushima

“ドゥーム神”として崇拝されてきたロック・バンド、スリープの約20年ぶりのニュー・アルバム『ザ・サイエンシズ』の日本盤が2018年6月20日に発売される。

アメリカでは2018年4月19日に突如「新作が明日、4月20日に発売となります。ヨロシク」と告知され、世界に衝撃を呼んだこのアルバム。米ビルボード誌のアルバム・チャートで初登場49位、また米ローリング・ストーン誌の“2018年前半ベスト・アルバム50作”の1枚に選ばれるなど、現代のロック界を代表する作品のひとつとして評価されている。

『THE SCIENCES』ジャケット 2018年6月20日発売
『THE SCIENCES』ジャケット 2018年6月20日発売

アルバム発表に先駆けて、スリープは2018年1月、洋邦の最先端ヘヴィ・ロック・バンドが集うライヴ・イベントleave them all behind 2018にヘッドライナーとして参戦した。1996年に制作されながら封印され、現行盤は2012年になって発表された禁断のドゥーム教典『ドープスモーカー』のハイライト、また1992年の名盤『ホーリー・マウンテン』完全再現など、日本の観衆は“伝説”が“現実”となる瞬間を目撃した。

バンドのギタリスト、マット・パイクが日本を訪れるのは2011年3月以来となる。彼のもうひとつのバンド、ハイ・オン・ファイアでの“EXTREME THE DOJO Vol.26”ツアーで大阪・名古屋公演を行った後、東日本大震災に遭遇した彼は、東京公演を行うことなく日本を後にした。それから約7年ぶりに、マットは伝説のスリープで戻ってきた。

早くも“歴史的ライヴ”と呼ばれるスリープ初来日公演を成し遂げたマットにインタビューを敢行。全2回で彼との貴重な対話をお届けする。まず前編はそのライヴ哲学、そして去っていった先達への想いを語ってもらった。

なお、この時点でまだ『ザ・サイエンシズ』のリリースは明らかになっていなかったことをご留意いただきたい。

<『ドープスモーカー』イントロに会場全体がクレイジーになる>

●あなたが日本に戻ってきてくれて嬉しいです。しかもスリープで!

俺も嬉しいよ。正直、日本に戻ってくるのは精神的なハードルもあったんだ。その直前、ニュージーランドのクライストチャーチでも地震に遭っただろ(2011年2月22日のカンタベリー地震)?当時俺が住んでいたサンフランシスコも地震が多いし、しばらくはどこに行っても大地が揺れている感覚があった。PTSDに近い感じだったのかもね。

●そのせいで今回、日本に戻ってくることに躊躇はありましたか?

躊躇はなかったよ。むしろ絶対に日本に行くべきだと思った。とはいっても、今回はさすがに満面の笑顔でイエーイ!というわけには行かなかったね。それでも日本の人々が世界のトップクラスでフレンドリーであることは変わりないし、日本の文化や食べ物、すべてが最高だ。戻ってくることが出来て、とても嬉しいよ。スリープとして日本でプレイ出来るのは、俺たちにとって大きな意味があることだ。俺はハイ・オン・ファイアで日本に来たことがあるし、アル(シスネロス/ベース)はOM、ジェイソン(ローダー/ドラムス)はニューロシスでそれぞれ日本に来ている。でもスリープで来ることには特別な意味がある。1990年代には来ることが出来なかったし、遂に日本でプレイ出来たという感慨があるんだ。

●スリープとして日本でプレイした感想は?

今のところ大阪(11日)と東京初日(12日)をプレイしたけど、どちらもお客さんの反応が最高で、楽しかった。どこの国でプレイするときも、初日が一番難しいんだ。久しぶりのライヴで、時差ボケがあって、機材がレンタルで初めて使うものだったりする。今回は大阪が初日で、機材トラブルもあったけど、良いショーだった。凄い盛り上がりだったし、俺も良い気分でプレイすることが出来たよ。どこでプレイするにしても、自分が楽しむというのは重要なことなんだ。俺はもう45歳だし、楽しみながらじゃないとやってられないよ!

●「ドープスモーカー」をライヴの最初と最後にサンドイッチする構成は、いつ頃からやっているのですか?どんな効果がありますか?

「ドープスモーカー」を2つに分けてプレイするようになったのは、おそらく再結成後、2010年ぐらいからだと思う。あの曲のイントロはライヴでやるたびに凄まじい盛り上がりで、会場全体がクレイジーになるんだ。ただ、彼らが毎晩「ドープスモーカー」の60分フル・ヴァージョンを聴きたいか?...というと、違うんじゃないかという気がする。『ホーリー・マウンテン』からの「ドラゴノウト」や「アクエリアン」なども聴きたいと思うんだ。それに60分の曲をノンストップでライヴ演奏すると、途中で息をつくことも出来ないし、チューニングも直すことが出来ない。それで閃いたんだ。「ドープスモーカー」で俺たちが一番気に入っていて、ライヴで盛り上がるセクションを抜粋してプレイしたらどうかってね。そうしてショー全体を「ドープスモーカー」で挟む形にしたんだ。

●あなたはスリープでもハイ・オン・ファイアでも“ノーTシャツ・ポリシー”を貫いていて、ライヴ全編を上半身裸で過ごしますが、それにはどんなこだわりがあるのでしょうか?

その方がギターを弾きやすいし、洗濯物も少なくて済むし...それに加えて、スピリチュアルな意味で自分を露わにする意味がある。自分のハートを開くんだ。1990年代からそうしているよ。たまに気分によっては、Tシャツを着ているときもあるけどね。茶色の生地に青いヒナゲシがプリントしてあるような、1970年代っぽいダサいTシャツが好きなんだ。ヴァン・ヘイレンのTシャツも1枚持っている。それから襟が馬鹿デカいバーテンダー風のシャツとかね。自分を露わにするということは、何も恐れないということなんだ。

●KISSやオジー・オズボーンのように、ステージ上のペルソナ(別人格)を演じている部分もあるのでしょうか?

ペルソナというより、内面にいる自分自身が体外に出てくる感じかな。ステージに上がることは、瞑想と共通する部分があるんだ。俺の日々の生活において、瞑想は重要な役割を果たしている。静かなところでストレッチをしながら瞑想をしているし、歩きながらでも自分の内面に深く入っていく経験をしている。ツボに鍼を打たれながら離脱体験をするということもあるんだ。

●スリープの音楽はリフが反復しながら高まっていきますが、それにはメディテーション(瞑想)に通じるものがあるでしょうか?

SLEEP photo by Miki Matsushima
SLEEP photo by Miki Matsushima

あると思うね。良いショーをやっているとき、 一種の瞑想状態に入ることがある。自分が演奏しているというより、別のゾーンに入っていくんだ。自分が何をやっているかは判るけど、身体で覚えている感じで、自分がギターを弾くのではなく、演奏の中に溶け込んでいくんだよ。

●瞑想以外に、自分を高めるトレーニング、あるいは単なるリクリエーションでも、何かやっていますか?

格闘技に興味があるんだ。子供の頃から松濤館流空手やカンフーを学んでいたし、ムエタイや柔術もやっていた。ストリートファイティングスクールやナイフファイティングの学校に通ったこともある。膝を悪くしてからは、あまりハードなトレーニングはしていないけどね。あとは趣味で射撃をやっている。狩りに出たりはしないけど、標的を撃つのが好きなんだ。射撃には自分を律することが必要だ。標的に当てる技術はもちろん、人に向けてはいけないとか鍵のついた棚で管理しなければいけないとか、分解して掃除してオイルを差して組み立てて...まあ、人生にギターを弾く以外の部分があるというのは悪くないものだよ。

<スリープはクリエイティヴな存在であり続ける>

●来日中の2018年1月10日、モーターヘッドの“ファスト”エディ・クラークが亡くなりました。彼に特別な思い入れはありましたか?

もちろん!モーターヘッドは大好きだし、エディは俺の中で特別な位置を占めるミュージシャンだった。残念ながら直接会う機会はなかったけどね。それと同じ日に、俺が尊敬するアイアン・マンのアルフレッド・モリスも亡くなったんだ。ずっと糖尿で治療をしていたらしい。「ドープスモーカー」の終盤には彼からタイトルを取った“モリス”というセクションがあるんだ。日本では彼への追悼のためにロング・ヴァージョンをプレイした。アイアン・マンの音楽は最高だったし、アルとはお互いの家に行き来するほど親しかったわけではないけど、いつもフレンドリーな間柄だったよ。...レミーが亡くなったのもショックだった。それにデヴィッド・ボウイ...実はボウイは生きていて、単に死んだフリをしているだけじゃないかって思っているよ。スレイヤーのジェフ・ハンネマンは俺のフェイヴァリットなギタリストだったし、いつも良いミュージシャンから先に逝ってしまうんだよな...。

●モーターヘッドとはツアーで一緒だったこともありますね?

ああ、モーターヘッドとハイ・オン・ファイア、それからドワーヴスというラインアップでアメリカを回ったよ(2003年)。途中でドワーヴスがモメて、クビになったんだ。レミーとブラッグ・ダリアがTシャツの価格のことか何かで怒鳴り合っていたのを覚えている(苦笑)。レミーとは何回かビールを飲んだし、一緒に散歩して雑談したこともあった。「俺は魚雷になりたかったんだ。鼻にプロペラが付いてないのが残念だ!」とか、連日ジョークを飛ばしていた。あれがブリティッシュ・ユーモアというのかな、俺にはギャグがどうしても判らないこともあったよ。“デシベル・マガジン”の企画で俺がレミーにインタビューしたこともあったし、とにかくすごく頭の良い人だった。ドラッグをやっていた時期もあるみたいだけど、戦士のように生きてきたんだ。モーターヘッドの“モーターボート”クルーズにも参加したことがあるし、レミーと友達になれたことは俺の人生において誇りに出来ることのひとつだよ。

●これからもスリープとして作品を発表し続けるでしょうか?

もちろん!あと何枚アルバムを作れるか判らないけど、スリープはクリエイティヴな存在であり続けるし、決して遠くない将来、新しいアルバムを聴くことが出来るだろう。

●去年(2017年)スリープの公式サイトに新作に関する情報がモールス信号で記されて話題を呼びましたが...。

そのことについてはまだ話せないんだ。口で言えないからモールス信号にしたんだよ!

●では、モールス信号で訊いたら教えてくれますか?トントントンツーツーツートントントン(=SOS)。

いや、そういうものでもないだろ(笑)。

後編記事に続く。

SLEEP photo by Miki Matsushima
SLEEP photo by Miki Matsushima

SLEEP スリープ

THE SCIENCES / ザ・サイエンシズ

デイメア・レコーディングス DYMC303

2018年6月20日発売

レーベル公式サイト  www.daymarerecordings.com/

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,300以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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