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bôa (ボア)が新作を発表。『serial experiments lain』からZ世代への架け橋

山崎智之音楽ライター
bôa / photo by Freddie Stisted

約20年ぶりの帰還。bôa (ボア)がニュー・アルバム『Whiplash』を2024年10月に発表した。

1993年に英国ロンドンで結成。デビュー作『The Race Of A Thousand Camels』(1998)発表当初はスティーヴ(ギター)ジャスミン(ヴォーカル、ギター)のロジャース兄妹がブリティッシュ・ロックの大物シンガー、ポール・ロジャース(フリー、バッド・カンパニー、クイーン他)のご子息・ご息女だということで話題を呼んだが、それ以上に bôaをタイムレスな存在にしたのは1998年、日本のアニメ番組『serial experiments lain』の主題歌として彼らの「duvet」が使われたことだった。この曲は当時カルト・クラシックとして支持を得たのみならず、現代においてもSpotifyでストリーミング回数6億8,800万回、TikTokでは40万本の動画で使われるなど、Z世代の音楽リスナーにも愛されている。

スティーヴはバンドから脱退したがジャスミン、リー・サリヴァン(ドラムス)、アレックス・ケアード(ベース)の創始メンバー3人は健在。今回のインタビューでは彼らが「duvet」から『Whiplash』へと繋がる音楽の旅路を語ってくれた。


bôa『Whiplash』(Nettwerk Music Group / 現在発売中)
bôa『Whiplash』(Nettwerk Music Group / 現在発売中)

<「duvet」は歌詞やメロディ、グルーヴやコード進行...すべてがぴったりハマった曲>

●ジャスミンの御父上のポール・ロジャースは一時体調を悪くしていたそうですが、2023年にニュー・アルバム『Midnight Rose』で見事復活してくれました。日本のファンが彼のご健康を祈っているとお伝え下さい!

ジャスミン:どうも有り難う!昨日話したばかりだけど、とても元気よ。もちろん今すぐワールド・ツアーに出発する感じではないけど、日常生活は問題ないし、何よりも人生に対して前向きだわ。父は日本を愛しているし、いつかきっと戻ることが出来ると信じている。

●前回、私(山﨑)がジャスミンとスティーヴにインタビューしたのは1998年7月、アニメ『serial experiments lain』のTV放映開始の数日前でした。その時点で「duvet」が時代を超えて聴き継がれる名曲になると予想していましたか?

ジャスミン:「duvet」を書いたとき、とても美しい何かが生まれたという感覚があった。ただ、それがリスナーにどう聴かれるかは、創り手には判らないものよ。『Whiplash』が発売になってすぐ、2024年10月のイギリス・ツアーが全公演ソールド・アウトになったのは、アルバムを聴いて会場に足を運んでくれたファンもいるだろうけど、昔からのファンだったり、最近TikTokやYouTubeで「duvet」を聴いて、気に入ってくれた人もいると思う。「duvet」は多くの人のハートに触れることが出来たけど、それだけではなく、アルバム『The Race Of A Thousand Camels』はバンドの持つさまざまな側面が表現されていて、すべての曲をすごく気に入っている。bôaに興味を持った人はアルバム全曲、そして『Whiplash』も聴いてみて欲しい。

リー:もちろん「duvet」は誇りにしているけど他の曲、「Twilight」とかも気に入っているよ。『Whiplash』にはさらに音楽と人生の経験を積んだ我々の曲が入っているし、多くの人に聴いてもらいたいね。

アレックス:「duvet」は自分でも大好きで歌詞やメロディ、グルーヴやコード進行など、すべてがぴったりハマった曲だった。『lain』やネットを通じて世界中の人々に触れることが出来て、本当に嬉しいよ。

●初めてアニメ『lain』を見たとき、どのような感想を持ちましたか?

リー:すごく面白いと思った。初めて見たときは複雑なストーリーに混乱したけどね(苦笑)。1990年代にはまだアニメというと子供向けのカートゥーンのイメージがあったけど、観念的で知的なストーリーに驚いたし、スリルを感じたよ。

アレックス:『マトリックス』(1999)より前に斬新な世界観を描いていて、「今見たものは、何だった?」と黙り込んでしまった。ようやく呑み込めたと思ったらカーペットを引っこ抜かれて、足下を掬われるんだ。

ジャスミン:それに加えてアニメーションの美しさに驚いた。まるで絵画のようで、憂いのある美しさがbôaの音楽と調和を生み出していたし、一緒にやることが出来て光栄に思っているわ。

●bôaは結成以来、ジャスミン、リー、アレックスというラインアップが25年以上続いているのも興味深いことだと思います。御父上でいうと、25年といえばフリー〜バッド・カンパニー〜ザ・ファーム〜ザ・ロウ〜ブルース・アルバムと、幾つもバンドを経ています。

ジャスミン:(笑)ずっと同じ3人で活動してきたのではなくて、私がソロ・アーティストとして作品を発表したり、彼らも別のプロジェクトでさまざまなことを学んできたわ。距離を置くことで、bôaとして集まるとき、新鮮な気分でいられる。この3人がbôaなのよ。誰か他のメンバーが入ったら、別のバンド名を使うでしょうね。

bôa / photo by Angels Ricciardi
bôa / photo by Angels Ricciardi

<bôaの音楽は大幅に変わるものではなく誠実でエモーショナル>

●bôaとしてのアルバムは『Get There』(2005)以来となりますが、今回再集結する契機となった出来事はありますか?

ジャスミン:1990年代の終わりから2000年代の初めまで、bôaは私たちの人生すべてだった。だから別の活動をしていたときも、まだやり残したことがある感覚がずっとあったのよ。『lain』の20周年を記念して「duvet」の新しいミュージック・ビデオを作ることにして(2018年)、3人で自宅のリビングでジャムをしてみて、またbôaとして新しい音楽を書いてみようと話し合った。そうするうちにアルバムの契約オファーをもらって、『Whiplash』を作ることになったのよ。

リー:bôaは一度も解散したことはないんだ。すべてをやり尽くしたとも考えていなかったし、また一緒にやれて嬉しいね。

アレックス:“3”という数字が好きなんだ。3人編成となったバンドが3枚目のアルバムを作るというのが理に適っていると思ったんだよ(笑)。“4”も好きだから、遠くない将来に4枚目のアルバムも作りたいけどね。

ジャスミン:「duvet」の新しいビデオを見ると、自分が歳を取ったのを感じるわね(苦笑)。1990年代なんて、ほとんどノー・メイクだったのよ。

●「duvet」の新しいビデオは現在の3人で撮影されていて、初期のメンバーだった兄上のスティーヴ・ロジャースは登場しませんが、彼はどうしているのですか?

ジャスミン:スティーヴは自分の音楽をやるために脱退した(2005年)。もちろん今でも普通に仲が良いし、お互いの活動を尊重して応援しているわ。

●2017年に『The Farm』というアルバムがオンラインで公開されましたが、どのような性質のものですか?

アレックス:1990年代半ば、『The Race Of A Thousand Camels』を作る前のデモだよ。まだバンドの音楽性が確立する前のジャムなんだ。当時はジャミロクワイやブランド・ニュー・ヘヴィーズみたいなソウルやグルーヴの要素が強いサウンドだった。その後に「duvet」や「Twilight」を書いたことで、自分たちのスタイルを発見したんだ。

ジャスミン:当時の音楽性を決して否定はしないし、悪くはないけど、過去に通り過ぎた音楽だと思う。今ネットに出回っているのはどこかから流出した音源だし、いつかちゃんとミックスして公式リリースするかもね。

●『Whiplash』の曲はいつ頃から書き始めたのですか?

ジャスミン:どの曲もアルバム用に書いたものだし、最近のものよ。ちょっとしたリフやメロディのアイディアはあったけど、それを基にしてジャムで完成させていったわ。歌詞はソロ・アルバム『Dark Tides』(2024)で描いたテムズ川の世界観を引きずっている部分もあった。深く暗い川の流れのイメージが残っているのよ。bôaならではの表現で、異なったものになっているけどね。「Whiplash」はスタジオでレコーディング中に書いたのよ。人生においてすべてが急変して、精神的に鞭打ち症(whiplash)になることもある。そんな心境を歌っているわ。生活がbôa中心になって、渦巻に巻き込まれた気分よ。北米からイギリス、オーストラリアなどをツアーして、これから2ヶ月ぐらい時差ボケが続くわ(笑)。新しいアルバムの曲はスマホやPCよりも生のライヴで聴いた方が楽しいから、これから世界中をツアーして、より多くの人に聴いて欲しいわね。

リー:bôaは基本的にデジタルよりもアナログ・バンドなんだよ。人間が演奏するエモーショナルなサウンドが特徴なんだ。

ジャスミン:そのせいもあるのか、ストリーミングやTikTokで私たちの音楽を知ったファンも、徐々にCDやレコードのようなフィジカル媒体で聴いたりライヴを見に来たり、よりリアルでアナログな方向に向かってくるのが興味深いわね。

●『The Race Of A Thousand Camels』や『Get There』でbôaの音楽を聴くようになったリスナーに『Whiplash』の音楽性をどのように説明しますか?

ジャスミン:bôaの音楽そのものは決して大幅に変わるものではない。誠実でエモーショナルな曲をやっているわ。バンドの初期から聴いている人、最近になってTikTokで耳にした人も、ハートに迫るものがある筈よ。

リー:根底にはロックがあるけど、ジャスミンの歌声はエモーショナルで、ありったけの感情が込められている。いわゆるソウル・ミュージックではないけど“魂”の音楽なんだ。1990年代にbôaを聴き始めた人にとっては、ナチュラルな次のステップだよ。

●2024年のbôaを表現しながら、「Walk With Me」の曲展開やギター・サウンドなど、1990年代の“オルタナティヴ”と通じるものを感じます。

アレックス:我々は良い曲を書こうとしただけで、時代のことは考えていなかったんだ。まあ、デビューしたのが1990年代だし、少しばかりレトロであっても勘弁して欲しい(笑)。若い人も年季の入ったリスナーも楽しんでくれたら嬉しいね。

ジャスミン:私の書く歌詞は自分や他人のアイデンティティを描いたものが多くて、デビューからほぼ一貫していると思う。表現手法は変わっても、根底にあるものは同じよ。

●アルバム収録曲の「Frozen」は「duvet」と似たタイプの曲のように思えますが、世界観を継承しているといえるでしょうか?

アレックス:確かにコード進行やメロディに通じるものがあるかも知れない。でも決して「duvet」パート2を書こうとしたわけではないよ。同じ3人で何十曲も書いてきたし、たまに似たタイプの曲になってしまうのは仕方ないんだ。どちらも好きな曲だし、誇りにしているよ。

●リーへの質問です。御父上のテリー・サリヴァンは1970年代に英国ロック・バンド、ルネッサンスのドラマーだったことで知られていますが、どんなことを学んだでしょうか?

リー:私がドラムスを始めたのは父の影響だし、すべてを父から学んだといえるだろうね。若い頃はルネッサンスみたいなプログレッシヴ・ロックは古臭いと思っていて、ブロンディとか、パンク以降の音楽を聴いていたけどね。今ではルネッサンスのようなバンドも好きだし、ドラマーとしてのスタイルも幅広く柔軟なものになったよ。

●2024年10月のイギリス・ツアーは全公演がソールドアウト、11月にはオーストラリア・ツアーが決まっており、2025年にはヨーロッパ〜北米〜イギリスのサーキットも決まっています。ぜひ日本でもbôaのライヴを期待しています!

ジャスミン:ぜひ日本でプレイしたいわね。1998年にプロモーションで行ったんだけど、まだ一度もショーをやったことがないのよ。日本はbôaの成功に大きく関係している『lain』を生んだ国だし、私の母が生まれた国でもある。bôaのライヴはきっと日本の音楽ファンに受け入れられると信じている。私は“チョット”しか日本語を話せないけど、ステージで何か話せるよう勉強しておくわ(笑)。

bôa / photo by Freddie Stisted
bôa / photo by Freddie Stisted



【アーティスト公式サイト】

https://www.boaukofficial.com/


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音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,300以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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