【インタビュー後編】ドゥーム・ロック神スリープ 来日インタビュー2
2018年6月に約20年ぶりのニュー・アルバム『ザ・サイエンシズ』を日本発売したスリープへの来日記念インタビュー、全2回の後編をお届けする。
2018年1月に日本初降臨を果たした“ドゥーム神”スリープ。前編記事ではギタリスト、マット・パイクのスリープとしての哲学を語ったが、今回は彼のもうひとつのバンドであるハイ・オン・ファイアとしての活動、ギターのことなどについて、さらに掘り下げて話してくれた。
<スリープとして描くべき世界観は幾らでもある>
●再結成後、2014年に発表した片面12インチ・シングル「ザ・クラリティ」はどのようにして発表に至ったのですか?
「ザ・クラリティ」は単発のレコーディングだったんだ。3人で久しぶりに何か録ろうぜ!...と話して、幾つかリフがあったから数日かけて曲に仕上げて、週末にレコーディングしたんだ。あの時点で新作アルバムを作ろうとか、そういうことは考えていなかった。でも、それ以降も俺たちはジャムをやってきたし、幾つも新しいアイディアがあるよ。
●『ドープスモーカー』を作ったときと「ザ・クラリティ」では、作曲のプロセスはどのように異なりましたか?
『ドープスモーカー』は楽章の組み立てなど、ディテールにこだわって、時間をかけて作った作品だった。ハイになって作ったみたいに誤解されがちだけど、CDブックレットに載っている当時の構成チャートを見れば、試行錯誤を経て、きっちり組み立てていったことが判るだろう。それに対して、「ザ・クラリティ」は驚くほど早く出来た曲だった。20年ぶりぐらいの新音源だなんて信じられないスムーズな作業だったよ。こんなのスリープらしくないんじゃないか?...ってアル(シスネロス/ベース)と顔を見合わせたほどだった。
●『ドープスモーカー』に代表されるように、スリープにはカウンターカルチャー的側面がありますが、カリフォルニアで嗜好用大麻が解禁されるなど、タブーでなくなったことで、バンドの音楽性にどんな変化があるでしょうか?
特にないよ(笑)。法律や規制に変化があっても、音楽性にはほとんど変化がない。『ドープスモーカー』の歌詞には大麻への言及もあるけど、ファンタジー的な要素もあるし、ユーモアもある。その前のアルバム『ホーリー・マウンテン』ではさまざまな題材を歌ってきたし、描くべき世界観は幾らでもあるよ。
●1998年に解散したスリープが2009年に再結成したのは、1996年にレコーディングされながら封印されていた『ドープスモーカー』が公式リリースされたことがどの程度関係しているでしょうか?
すごく関係があると思う。『ドープスモーカー』は『エルサレム』というタイトルで公式リリースされていたけど、アンダーグラウンド・クラシックとして世界中にファンがいたんだ。イギリスのイベント“オール・トゥモローズ・パーティーズ”の主催者たちもそうで、「スリープの再結成ライヴをやって下さい!」ってオファーをしてきた。俺はその瞬間「面白い」と思った。アルもクリス(ハキアス/ドラムス)も別のバンドでずっと活動していたから、プレイの腕は錆びていなかったし、再結成ライヴはすごく楽しいものだった。その後、サン O)))のグレッグ・アンダーソンが『サザン・ロード・レコーディングス』から『ドープスモーカー』の決定盤を出してくれたんだ(日本盤は『デイメア・レコーディングス』)。それから俺たちはそれぞれのバンドと並行して、スリープとしてライヴ活動をしてきたんだ。
●クリス・ハキアスはスリープ再結成後、すぐにバンドを去りましたが、連絡は取っていますか?
クリスとはもう2年ぐらい連絡していないんだ。ただ、仲が悪いわけではないよ。単に生活スタイルが異なるだけだ。彼は山に住んでいて、音楽中心の人生を過ごしてはいないからね。一番最近会ったときは近所の川に行って、世間話をしたよ。家にドラム・キットがあったし、プレイはしているみたいだ。クリスは昔も今も最高にいい奴だよ。彼の家族はシチリア島出身で、カトリック系だから、家族を大事にしているんだ。
●スリープのライヴでは、ファースト・アルバム『Volume One』(1991)からの曲はもうライヴで演らないのですか?
あまり考えていないなあ。あのアルバムは今でも好きだけど、当時はもう1人、ジャスティン(マーラー)というギタリストがいて、4人で演奏することを前提に書かれた曲が入っているんだ。しかも当時の俺たちは十代で、ハイスクールを出たばかりだったし、音楽的にも熟成していなかった。今の俺たちが成虫だとしたら、まだ幼虫で、自分たちの居場所を発見しようとしていたんだ。もちろん今聴いてもそんなに悪いアルバムではないと思うよ。でも今すぐプレイしたいとは思わないし、アルもどうしてもやりたい!という訳でもないんじゃないかな。
<ハイ・オン・ファイアとしても新作を出す>
●2016年の時点ではハイ・オン・ファイアで3ハムバッカーのレスポール、スリープで2ハムバッカーのレスポールを弾き分けていましたが、今回の日本公演では3ハムバッカーのレスポールに統一していたのは何故でしょうか?
以前弾いていたレスポール“リフチャイルド”は引退させたんだ。ネックが折れてしまったからね。今では日本でもプレイしたレスポール・カスタムの3ハムバッカー、それからレスポール・アルティザンをもう1本弾いているよ。スリープの方がトーンの変化が必要だから、3ピックアップのポジションをスイッチしたり、EQやフィルターもかけている。ハイ・オン・ファイアは基本的にリア・ピックアップでヴォリュームを最大にしてパワフルに弾くんだ。
●ファースト・アクトの9弦ギターも弾いていましたよね?
今でも持っているし、ハイ・オン・ファイアのレコーディングではほとんど毎回弾いているよ。『ルマニフェラス』(2015)では基本的に6弦レスポールを弾いたけど、数曲のリードで9弦を弾いた。ヴィンテージなサウンドが出るし、気に入っているよ。6弦と12弦ギターを合体させたような感じで、上3弦がダブルになっている。KoЯnとかメシュガーみたいな多弦ギターではないんだ。サウンドは好きだけど、毎回弦を変えなければならないのとすごく重いのが問題かな。このギターをツアーで弾いていると、数日に1回マッサージを受けなければならなくなる。でも今年(2018年)はハイ・オン・ファイアの20周年だということもあるし、アニヴァーサリー・ツアーをやるんだ。もう7枚アルバムを出してきたし、2時間ぐらいのショーになるだろう。メルヴィンズみたいに2部構成のショーにしても良いかもね。そうなるといろんな曲をプレイするから、おそらく9弦ギターも持っていって、数曲プレイすることになる。腰痛マッサージの日々がまた始まるよ(苦笑)。
●ハイ・オン・ファイアとしてのニュー・アルバムも期待できそうですか?
こちらもまだ言えないんだ。ただ言えるのは、よりストレートなメタルっぽくなることかな。ケルティック・フロストみたいな...プログレッシヴな部分もあるけど、最高にクールなアルバムになる。ハイ・オン・ファイアのメンバーはそれぞれ別の都市に住んでいて家族がいるんだ。ポートランド、オークランド、ニューオリンズ...だからレコーディング機材を持ち運べるようにして、あちこちで録音するようにしている。20年来のファンでも、新しいリスナーでも、きっと楽しめる内容になる。俺自身がすごくエキサイト出来るアルバムなんだ。