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プーチンと習近平はユーラシア大陸から米国の影響力を排除しようとする

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(667)

長月某日

 15日にシルクロードの古都ウズベキスタンのサマルカンドで、ロシアのプーチン大統領と中国の習近平国家主席の首脳会談が、ウクライナ侵攻後初めて対面で行われた。

 この1週間、ウクライナではロシア軍がウクライナ軍の反撃に遭い、占領地域を棄てて敗走しているというニュースが連日報道されており、この中露首脳会談には世界の注目が集まった。

 会談でプーチン大統領は「ウクライナ危機に関する中国のバランスの取れた立場を我々は高く評価している。我々は中国側の懸念も理解している。今日はロシアの立場を詳細に説明したい」と述べた。

 一方の習国家主席は「世界の激変や、時代、歴史の激変に直面する中、中国はロシアと共に大国の役割を果たし、リードしていく」とロシアとの結束を強調し、さらに「双方の核心的利益に関わる問題で互いに力強く支持したい」と述べた。

 中国にとっての台湾問題、ロシアにとってのウクライナ問題は、中国とロシアがそれぞれ譲れない問題として全面的に協力し合うことを宣言したことになる。つまり台湾とウクライナは別ではなく、共通の問題として中露が欧米に対抗する姿勢を鮮明にしたのである。

 ところがメディアは、ロシアがウクライナで敗北しつつあるという前提に立ち、プーチンが習近平に軍事支援を求めるのではないかとそこだけに注目する。そして会談で軍事支援が直接的に表明されなかったことから、「中露には温度差がある」という報道になった。

 しかしそもそも中国は当初から戦争には反対の立場を表明しており、軍事支援を行うことなどありえない。その一方、中国はロシアがウクライナ侵攻に踏み切った事情は理解している。これはロシアのウクライナ侵略というより、米国の挑発によって起きた戦争だと考えているのである。

 そしてそのことを分かっているからプーチンも「中国のバランスの取れた立場を評価」し、「中国側の懸念は理解している」と述べ、直接的に軍事支援を求めることをしなかった。欧米に「武器をくれ」と叫ぶウクライナのゼレンスキー大統領とは対照的な姿勢を示したようにも見える。

 つい最近まで西側メディアはプーチンを精神異常者、あるいは血液がん、パーキンソン病の深刻な病状にあるなどと報道してきた。しかしこのところの言動を見る限り、プーチンが病に冒されているようには見えないし、正常な精神状態に見える。

 戦争が始まると、情報戦の常として、噓の情報が数限りなくメディアに流される。だから一々の情報を鵜呑みにすることはできない。従ってフーテンの場合、戦争報道を見る見方は、「そうかもしれないし、そうでないかもしれない」と常に考え、情報を中途半端なままにして胸にしまい込む。

 そうすると何かの折に「やはり嘘だ」と分かったり、「これなら納得できる」と思うことがある。そうなって初めて一々の情報を胸の中で整理する。だから胸の中には整理されていない中途半端なままの情報がたくさんしまい込まれている。

 またドキュメンタリーを作ってきた経験からフーテンは「映像の嘘」を知っている。生放送でもない限り、編集された映像は真実ではない。編集した人間の意図ですべてのカットは構成され、同じ情景でも悲惨に見せたり、のどかに見せたりすることができる。作り手は見る側を誘導できるのだ。

 そういう見方をするフーテンにとって、この戦争は最初から疑問のあることが多すぎた。まず2月24日の軍事侵攻からして周到な準備をしたうえでの侵攻に見えない。何か突発のことがあって演習していた軍隊に突然国境を越えさせたように見えた。

 だから電撃作戦とはまるで異なる展開になる。進軍のスピードは遅く、補給もままならず、稚拙この上ない作戦に見えた。西側の軍事専門家は口をそろえて、プーチンがウクライナを見くびっていたため、電撃作戦に失敗したと結論付けた。そうかもしれないし、そうでないかもしれない。

 電撃作戦をやろうとしたのではなく、時間をかけて欧米を戦争に巻き込む意図がプーチンにあったとしたらどうなる。拙劣な作戦をやっているように見せるのが「特別軍事作戦」だったらどうする。最初は首都キーウにむけて進軍する部隊がいた。しかし途中で止まってキーウまで到達しない。そのうち部隊を東部に移すという理由で退却を始めた。

 戦闘に敗れて退却させられたのではなく、勝手に退却したのである。ところがそこにウクライナ軍が行くと、虐殺の痕跡が残されていた。自ら撤退する軍がなぜ虐殺の痕跡を残すのか。常識では考えられない。戦争は人間を異常にするということか。しかしフーテンはまだ納得できないでいる。

 この虐殺をはじめロシア軍の戦争犯罪を捜査していたウクライナの検事総長が、7月中旬にゼレンスキーから解任された。容疑は部下がロシアと内通していたと言うのである。同じ容疑で保安局長も解任された。大統領の側近中の側近の部下が国家反逆罪に問われることをやっていたというのだ。一体、ウクライナ政府の内部はどうなっているのかと思った。

 すると最近になってまたロシア軍が占領していた東部のハルキウ州から突然退却を始めた。それが戦闘に敗れて撤退したのか、そうでないのかがフーテンには分からない。あっという間の退却で、メディアはロシア軍の大敗北と伝えているが、フーテンは戦闘を見ていないので、すぐ信用する気にはなれない。

 そしてキーウ近郊の時と同じように、虐殺の痕跡が残されていた。キーウ近郊の時もゼレンスキーはすぐ現地に赴いたが、今回もゼレンスキーが現地に赴き、ロシアの戦争犯罪を激しく批判した。同じようなことが2度繰り返され、それに加えて今回はロシア軍の弾薬がもうすぐ尽きる、11月まで持たないと言われ、ロシアの敗戦という情報一色になった。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」の次回日時:11月24日(日)午後3時から4時半まで。パソコンかスマホでご覧いただけます。世界と日本の政治の動きを講義し、皆様からの質問を受け付けます。参加ご希望の方は https://bit.ly/2WUhRgg までお申し込みください。

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