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オークラは創業から何年? 一夜限りの晩餐会はこんなにすごかった!

東龍グルメジャーナリスト
The Okura Tokyo(ジ・オークラ・トーキョー) (C) 東龍

60周年の節目

The Okura Tokyo(ジ・オークラ・トーキョー)は2019年9月12日15時にグランドオープンしました。

ホテルオークラ東京の本館は1962年に創業し、2015年8月31日に多くのゲストに惜しまれながら建て替え工事のために閉館。4年もの歳月を経て新しく生まれたのが、The Okura Tokyoでした。「伝統と革新」をコンセプトにし、本館の「日本の伝統美」を継承しつつ、最新の設備や機能を備えており、大きな話題となりました。

グランドオープンから3年が経っており、この2022年は創業60周年という節目になります。

記念するべきガラディナーが開催

オークラガストロノミー晩餐会 ~歴史を紡ぐ60年の軌跡~ (C) 東龍
オークラガストロノミー晩餐会 ~歴史を紡ぐ60年の軌跡~ (C) 東龍

祝うべき創業60周年記念ということで、魅力的なイベントがたくさん行われました。その中でも注目するべきは、2022年11月25日に開催された「オークラガストロノミー晩餐会 ~歴史を紡ぐ60年の軌跡~」(コースと飲み物、50,000円、税・サ込)。

創業60周年イベントのフィナーレとなる美食のガラディナーだったのです。

創業当時の総料理長である小野正吉氏は、近代フランス料理の基盤を築いたオーギュスト・エスコフィエの志を携え、日本に本格的なフランス料理をもたらしました。歴代の総料理長に綿々と引き継がれた料理哲学を礎にし、現総料理長である池田順之氏がオークラクラシックをテーマにした一夜限りのメニューを創り出したのです。

オークラガストロノミーの晩餐会

ガラディナーのテーブル (C) 東龍
ガラディナーのテーブル (C) 東龍

池田氏によるオークラガストロノミーのメニューはこちらでした。

オークラガストロノミー晩餐会 ~歴史を紡ぐ60年の軌跡~

・晩餐会の幕開けに オークラ牛のブッフサレ 苺風味

・海の幸のデリス ロワイヤル風 グリビッシュソース

・琥珀色に輝く伝統のダブルコンソメスープ シェリーの香りとともに

・黄金色に輝く鱸のパイ包み焼き ソースショロン

・レモンソルベ

・鴨のロースト オレンジ風味 ピンクグレープフルーツ

・洋梨のジュビレ

・紅茶の香るフロマージュブランムース

・食後の余韻を愉しむコーヒーと小菓子

アミューズブーシュ、前菜、スープ、魚料理、グラニテ、肉料理、プレデセール、デセール、コーヒーと小菓子というフルコースの構成。アミューズブーシュ、プレデセール、デセール以外は全て小野正吉氏のレシピで構成されています。

では、池田氏によるオークラクラシックのコースを紹介しましょう。

晩餐会の幕開けに オークラ牛のブッフサレ 苺風味

晩餐会の幕開けに オークラ牛のブッフサレ 苺風味 (C) 東龍
晩餐会の幕開けに オークラ牛のブッフサレ 苺風味 (C) 東龍

The Okura Tokyoオリジナルの和牛、オークラ牛100%で紡がれたアミューズブーシュ。オークラ牛の深い旨味とイチゴの酸味がよいコントラストです。食欲を刺激する、素晴らしい最初の一品。

海の幸のデリス ロワイヤル風 グリビッシュソース

海の幸のデリス ロワイヤル風 グリビッシュソース (C) 東龍
海の幸のデリス ロワイヤル風 グリビッシュソース (C) 東龍

帆立貝のムースにサーモン、ホタテ、カニ、オマール海老を合わせた、魚介類の佳味に溢れる冷前菜です。マヨネーズに似たグリビッシュソースと共にいただきます。磯の風味をまとった濃厚なムースに、酸味のあるソースが寄り添います。

琥珀色に輝く伝統のダブルコンソメスープ シェリーの香りとともに

琥珀色に輝く伝統のダブルコンソメスープ シェリーの香りとともに (C) 東龍
琥珀色に輝く伝統のダブルコンソメスープ シェリーの香りとともに (C) 東龍

3日間かけてつくられるオークラ伝統のスープで、熱々の状態で提供されました。ダブルコンソメということで、透き通ったコンソメスープにするための工程を2回行って仕上げられますが、2回目の仕上げ時にはオークラ牛が加えられており、非常に贅沢。野菜と牛肉の旨味が全面に感じられました。シェリー酒が加えられているので牛の臭みは全く感じられず、口中には品のよい香味が残ります。

黄金色に輝く鱸のパイ包み焼き ソースショロン

黄金色に輝く鱸のパイ包み焼き ソースショロン (C) 東龍
黄金色に輝く鱸のパイ包み焼き ソースショロン (C) 東龍

鱸の繊細な味わいをしっかり閉じ込めたパイ包み。パイ生地はさっくりとし、鱸はしっとりと焼き上げられていました。ハーブと卵黄の濃厚さをたたえたソースショロンとの相性が抜群です。

鴨のロースト オレンジ風味 ピンクグレープフルーツ

鴨のロースト オレンジ風味 ピンクグレープフルーツ (C) 東龍
鴨のロースト オレンジ風味 ピンクグレープフルーツ (C) 東龍

オークラクラシックを代表する一品。食味に優れた京鴨をじっくりと火入れし、ジューシーで妙妙たる味わいに仕上げました。京鴨の旨味が包み込まれたソースに、オレンジとピンクグレープフルーツを添え、メリハリある味わいに。

紅茶の香るフロマージュブランムース

紅茶の香るフロマージュブランムース (C) 東龍
紅茶の香るフロマージュブランムース (C) 東龍

オークラをイメージさせる銀杏を模したプレゼンテーション。フロマージュブランのムースはなめらかな口当たりで、甘味と酸味のバランスも絶妙です。ほんのりと広がる紅茶も最後を〆るのに相応しい爽やかな香味となっています。

ワインのペアリング

ランソン ブラックラベル ブリュット (C) 東龍
ランソン ブラックラベル ブリュット (C) 東龍

非常に素晴らしい料理でしたが、ペアリングされたワインも出色でした。チーフソムリエの吉田健二氏によるワインは次の通り。

・ランソン ブラックラベル ブリュット

・ドメーヌ・デュ・シャレ・プイィ プイィ・フュイッセ 2020 プルミエ・クリュ

・フレデリック・マニャン ピュリニー・モンラッシェ 2018

・ルイ・ラトゥール シャサーニュ・モンラッシェ ルージュ 2019

・クレイン・コンスタンシア ヴァン・ド・コンスタンス 2018

シャンパーニュからはじまり、2種の白ワイン、赤ワイン、最後のデザートワインまでとちょうどいい取り合わせ。

最初のシャンパーニュは「ランソン ブラックラベル ブリュット」で、黒ブドウ主体。エレガントで、果実味と酸のバランスがよいので、最初の一杯に最適です。「ドメーヌ・デュ・シャレ・プイィ プイィ・フュイッセ 2020 プルミエ・クリュ」は定評のあるフランス・ブルゴーニュ地方の造り手による白ワイン。有機農法で栽培されたブドウが使われており、香り高くふくよかな味わいです。「ルイ・ラトゥール シャサーニュ・モンラッシェ ルージュ 2019」は品のよい香りで、赤い果実のアロマが感じられます。フルボディでしっかりした赤ワインなので、鴨肉にぴったりです。

The Okura Tokyoでは年2回オンラインでワイン販売「オークラ ソムリエセレクション」が行われています。プレステージワインからテーブルワインまでが取り揃えられており、いつも完売となるほどの人気ぶり。今回もThe Okura Tokyoが擁する有能なソムリエ陣による素晴らしいワインのセレクションであったといえるでしょう。

サービスのプロフェッショナル

奥にサービスを行ったスタッフが並んでいる (C) 東龍
奥にサービスを行ったスタッフが並んでいる (C) 東龍

料理とワインに加えて、サービスも秀抜でした。

このガラディナーのために、一般社団法人 日本ホテル・レストランサービス技能協会(HRS)による、厚生労働省国家検定のレストランサービス技能試験1級に合格した20名を含む、総勢40名のサービスチームが結成され、ゲストに接遇。しかも、同検定の1級保持者がシェフ・ド・ラン(上級ウェイター、エリア長)、2級保持者がコミ・ド・ラン(シェフ・ド・ランの補助)を担うという珠玉の布陣となっていました。

ちなみに、日本ホテル・レストランサービス技能協会は「ホテルレストランにおける接客サービス技能の向上及び技能者の社会的、経済的地位の確立を図るとともに、国民に対するテーブルマナーの普及指導に努め、もって国際観光及び社会文化の発展に寄与すること」を目的とし設立され、1985年に労働省の認可を受けた法人です。

当日はスムーズで統率された料理とワインの提供、的確な説明や臨機応変の応対まで、鮮やかで瑕疵のないオペレーションでした。これだけのサービスは、ゲストにとって稀有な体験となるでしょう。

興味が引かれる演出

晩餐会における構成、パフォーマンスも心に残りました。

シニアバーテンダー中野賢二氏のカクテル 「Filer(フィレール)~紡がれし真紅の軌跡~ カクテル」 (C) 東龍
シニアバーテンダー中野賢二氏のカクテル 「Filer(フィレール)~紡がれし真紅の軌跡~ カクテル」 (C) 東龍

最初にホワイエで「H.B.A.クラシック創作カクテルコンペティション チャンピオンシップ2021」で総合優勝グランプリに輝いたシニアバーテンダー中野賢二氏のカクテル 「Filer(フィレール)~紡がれし真紅の軌跡~ カクテル」をいただきます。ホワイエには冒頭で紹介した開業当時総料理長の小野氏にまつわる品々が展示されていました。1971年にフランスのエスコフィエ協会から贈られたエシャルプ(スカーフ、肩帯)および称号の賞状、サインや愛用した調理道具が鑑賞できたのです。

小野正吉氏にまつわる品々 (C) 東龍
小野正吉氏にまつわる品々 (C) 東龍

会場に足を踏み入れると、生演奏があり、モニタにはサービススタッフの紹介が流されていました。ガラディナーの最初に、総支配人である髙栁健二氏、総料理長の池田氏によるスピーチ。コースの途中には、池田氏によるダブルコンソメの取り分け、鱸のパイ包みや鴨のローストのデクパージュもありました。

そして、日本を代表する料理評論家の山本益博氏も登壇。オークラクラシックの素晴らしさについて言及し、ゲストがよりおいしく楽しく料理を味わえるような傾聴すべき話を披露してくれました。

素晴らしい料理とワイン、質の高いサービス、心に残る演出と、まさに晩餐会に相応しい一夜であったといえるでしょう。

オークラにおける食の歴史

会場での生演奏 (C) 東龍
会場での生演奏 (C) 東龍

オークラの食の歴史には感慨深いものがあります。

開業当時総料理長の小野氏は、19世紀末から20世紀にかけて活躍した料理人オーギュスト・エスコフィエが著した「ルギッド・キュリネール」をバイブルとしていました。日本で本格的なフランス料理を拓くことに情熱を傾け、1971年には日本エスコフィエ協会を設立。同協会は現在では約1,600人が所属するまでに成長し、料理コンクールも有名となり、フランス料理界の発展に尽力しています。

特筆するべきはフランス料理だけではありません。ホテルで初めて広東料理や鉄板焼というジャンルを確立したり、日本料理で和食堂というコンセプトを標榜したりと、常に新しいことに挑戦してきました。

和洋中と三拍子揃ったレストランを有しているホテルは非常に稀です。クラシックを大切にしながらも先見の明があるオークラの食に創業60年以降も期待したいです。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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