超プログレッシヴ・メタル集団オクタヴィジョンのギタリスト、ホヴァク・アラヴェルディアンに訊く【後編】
2021年3月にアルバム『コエグジスト』で日本デビューを飾ったテクニカル・プログレッシヴ・メタル・プロジェクト、オクタヴィジョンへのインタビュー後編。
前編記事では、ギタリストのホヴァク・アラヴェルディアンにアルバムの音楽性と参加ミュージシャン(ビリー・シーン、ヴィクター・ウッテンら)について語ってもらったが、後編ではプログレッシヴ・メタルの新時代の扉を開く音楽家としてのホヴァクに焦点を当ててみよう。
<アルメニアからアメリカに渡った。クレイジーだと言われた>
●あなたはいつ、どこで生まれたのですか?
アルメニアの首都エレバンで、1979年3月4日に生まれたんだ。アントニオ・ヴィヴァルディと同じ誕生日だよ。父親はアルメニア国立フォーク・アンサンブルで歌っていて、2人の姉も歌手だった。母親はプロの音楽家ではなかったけど歌うのが好きだったし、家には音楽が溢れていたよ。俺は7歳のときにヴァイオリンを始めて11年間学んでいたけど、14歳のときにギターを始めて、今ではギターに専念している。
●どんなギタリストから影響を受けましたか?
最初に衝撃を受けたギタリストは映画『クロスロード』で見たスティーヴ・ヴァイだった。それで自分もギターを弾くことを決意したんだ。それからディープ・パープル、ピンク・フロイド、レッド・ツェッペリン、ザ・ビートルズを耳コピーして練習した。当時、彼らのレコードをアルメニアで入手するのは難しかったから、友達にカセットにアルバムを録ってもらったよ。アルメニアのロック・ファンにとって、1988年のアルメニア大震災の被災者へのチャリティ・シングル“ロック・エイド・アルメニア”はスペシャルな出来事だった。俺はまだロックに目覚めていなかったけど、アルメニアのためにリッチー・ブラックモアやデヴィッド・ギルモア、イアン・ギラン、ブライアン・メイなどがベネフィットをやってくれたことは本当に嬉しかったし、今でも感謝している。
●ミュージシャンとして、どんな活動をしてきましたか?
アルメニア時代の最初のバンドはストレンジャーズという若いローカル・バンドだった。それから幾つかのバンドを経て、最後に在籍したのがアヤス(Ayas)だったんだ。それと並行して、セッション・ギタリストとしてアルメニアン・ポップのさまざまなレコードに参加したよ。アルメニア人だったら誰もが聴いたことのあるヒット曲でもノー・クレジットで参加していた。
●アメリカに向かったのはいつ、どんな事情があったのですか?
アルメニアではそれなりに成功していたけど、もっと広い視野で、世界で活動したかったんだ。それで2008年、バークリー音楽大学で学ぶために渡米した。妻も一緒で、ポケットには400ドルしかなかったし、友達にはクレイジーだと言われたよ。その後、ロサンゼルスに移って、ロサンゼルス・レコーディング・スクールでプロデュースやマスタリングを学んだ。
●アメリカでバンド活動はしていましたか?
エミネント(Eminent)というバンドで『Death Of The Pilgrim』(2010)というアルバムを出して、ギターを弾いて共同プロデュースも担当した。大規模なアメリカ・ツアーをやって、2ヶ月で58〜59公演で全米を回ったよ。その後、正式に解散したわけではないけど、みんなそれぞれ独自のキャリアを進んでいったんだ。俺はラスヴェガス在住で、映画やテレビの音楽を書いたりセリフの録音、プロデュースなどを手がけている。オクタヴィジョンのキーボード奏者のムルゾーは映画音楽家で、『コエグジスト』のシンフォニックなパートは彼によるものだ。
●参加メンバーにはアルメニア系のミュージシャンがいますが、アルメニア系コミュニティとは深い交流を持っていますか?
うん、今はラスヴェガスに住んでいるけど、以前はロサンゼルス在住だったし、郊外のグレンデールにはアルメニア系の大きなコミュニティがある。友人もたくさんいるよ。
<オクタヴィジョンはさらに進化していく>
●オクタヴィジョンの音楽性はプログレッシヴ・メタルと呼ばれることが少なくないですが、それ以前、1960年代から1970年代のプログレッシヴ・ロックはどの程度掘り下げていますか?
ピンク・フロイド、キング・クリムゾン、イエス、ラッシュ、ジェントル・ジャイアントなど大物は一通り押さえているし、自分の音楽性の根底にあるよ。しばらく前にデヴィッド・ギルモアのライヴをロサンゼルスで見て、すごく感動した。プログレッシヴ・ロックのファンというとマイナーでレアなバンドが好きだったりするけど、アルメニアではなかなか聴くことが出来なかったからね。これからいろんなバンドを聴くようにするよ。
●これまでオクタヴィジョンとしてライヴを行ったことはありますか?
いや、まだなんだ。まずは自分が満足出来るアルバムを作ることを優先した。ようやく『コエグジスト』が完成したと思ったら、新型コロナウィルスでツアーを出来ない状態が続いているからね...世界が元に戻り次第、すぐにツアーに出たい。日本でプレイするのがひとつの目標なんだ。プライベートでも一度も訪れたことがないし、すぐにでも行きたいよ。
●『コエグジスト』のジャケット・アートワークについて教えて下さい。
俺の友人でアルメニアで活動するアーティスト、アヴェティス・ハチャトゥリアンが描いてくれたんだ。表ジャケットだけでなく、CDブックレットの内側や裏ジャケットまで見れば判るけど、8人の人間が糸で王様に操られている。そしてさらに、その王様が女性に操られているんだ。その意味はリスナーそれぞれに考えて欲しい。アルメニアの寓話のようでもあるし、メタリカの『マスター・オブ・パペッツ』のようでもあるね(笑)。
●オクタヴィジョンとしての活動は長期的なものになるでしょうか?
うん、そう願っているよ。既に2作目のアルバムを念頭に曲を書き始めているんだ。ゲストを呼ぶか、誰とレコーディングするかはまだ決まっていないけどね。可能な限り『コエグジスト』に近いラインアップでアルバムを作りたいね。オクタヴィジョン以外にも、より実験性の高いパラディグマ・プロジェクトは続けていくつもりだし、新しいヘヴィ・フュージョンのプロジェクトもやりたいと考えている。自分の可能性を狭めたくないんだ。でもオクタヴィジョンは自分の音楽性の重要な一部分だし、さらに進化させていくつもりだ。