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超絶テクニカル・プログレッシヴ・メタル集団オクタヴィジョン、『コエグジスト』で鮮烈デビュー【前編】

山崎智之音楽ライター
Victor Wooten & Hovak Alaverdyan /P-Vine

アルメニアから世界に羽ばたく超絶テクニカル・ギタリスト、ホヴァク・アラヴェルディアン率いるスーパー・プロジェクト、オクタヴィジョンが2021年3月、アルバム『コエグジスト』で日本デビューを果たす。

オクタヴィジョンが世界にその名を知られるようになったのは2016年。ジャズ/フュージョン界で屈指のテクニックを誇るベーシスト、ヴィクター・ウッテンをフィーチュアした「スリー・ライヴズ」のビデオがウェブ公開されたときだった。ホヴァクの凄まじいギター・プレイは衝撃をもって迎えられている。

それから5年、遂に始動したオクタヴィジョンのファースト・アルバム『コエグジスト』はさらに衝撃的なものだ。ホヴァクのギターを絶対的な軸にして、ヴィクターが3曲に参加。さらにビリー・シーン(ベース/Mr.BIG、ザ・ワイナリー・ドッグス、サンズ・オブ・アポロ)とジェフ・スコット・ソート(ヴォーカル/イングヴェイ・マルムスティーン、ジャーニー、サンズ・オブ・アポロ)ら実力派ミュージシャン達を迎えて、圧倒的なプログレッシヴ・メタルのセレブレーションが繰り広げられる。

現在は米国ラスヴェガスを活動拠点に、「新型コロナウィルスが終結したら、最初にするのは日本でライヴをやることだ」と宣言するホヴァク。日本の音楽ファンとのファースト・コンタクトとなるインタビューをお届けする。

OCTAVISION『COEXIST』ジャケット(P-Vine Inc. / 2021年3月24日発売)
OCTAVISION『COEXIST』ジャケット(P-Vine Inc. / 2021年3月24日発売)

<プログレッシヴで、メタル的な要素があって、テクニカルでメロディック>

●オクタヴィジョンの構想はいつからありましたか?

自分の中にある音楽性を解き放つこのプロジェクトは、2013年から始まったんだ。当初は自分の中にヴィジョンの断片が存在するだけだったけど、徐々に賛同してくれるミュージシャンが8人集まった。それでオクタヴィジョンと名付けたんだよ。まず「スリー・ライヴズ」のドラムスを録ることから始めた。この曲を仕上げるのだけで3年かかったんだ。『コエグジスト』を完成させるのに7年以上かかったんだよ。

●『コエグジスト』の音楽性をどのように説明しますか?

説明するのは難しいね。プログレッシヴ・ロックで、メタル的な要素があって、テクニカルでメロディックで...他にないユニークなサウンドだと思う。アルメニアや中近東のスケールやモード、そして民俗楽器を取り入れているのも、別のバンドと差別化が図られていると思う。

●どんなバンドのファンだったら、オクタヴィジョンの音楽を気に入るでしょうか?

シンフォニーX、ドリーム・シアター、リキッド・テンション・エクスペリメント、ヘイケン、ラッシュ、ピンク・フロイド...彼らのファンだったら、オクタヴィジョンの音楽を感じ取ってくれるだろう。サウンドが似ているとは限らないけど、オクタヴィジョンと共通するアイデンティティがあると思う。

●2016年に「スリー・ライヴズ」でセンセーションを呼んでから『コエグジスト』発表まで5年かかったのは何故でしょうか?

人気と実力を兼ね備えたミュージシャンにスケジュールを割いてもらうのに時間がかかったんだ。ツアーだったりクリニックだったりで、何度も変更があった。それは俺がコントロール出来ることではなかったよ。でも世界のトップ・プレイヤーと共演するためだし、待つことは決して苦ではなかった。

●『コエグジスト』に参加している一流ミュージシャン達をどのように確保しましたか?

すべては2010年、NAMMショー(毎年カリフォルニア州アナハイムで行われていた世界最大級の楽器見本市)でヴィクターと出会ったのが始まりだったんだ。良い友達になって、音楽の話とか、日常の話をするようになった。ある日、自分の音楽のアイディアとスケッチを聴かせてみた。そうしたら「ぜひ参加したい」と言われてビックリしたよ。彼のような世界のトップ・ベーシストに弾いてもらうなんて考えてもいなかったし、ショックですらあった。それからいろんなミュージシャンへと繋がっていったんだ。ビリー・シーンが俺の少年時代からのヒーローだと知って、ヴィクターが紹介してくれた。ある朝起きたらメールが来ていて「ビリー・シーンです」って(笑)。信じられなかった。全身の毛が逆立った。何かのジョークかと思ったよ。ビリーもデモを聴いて、気に入ってくれた。さらにヴォーカルを必要とする曲が2曲あるから、ジェフ・スコット・ソートを紹介してもらったよ。サンズ・オブ・アポロでジェフのヴォーカルを聴いて、凄いと思っていたんだ。でも実は、俺は知らずしてジェフのファンだった。イングヴェイ・マルムスティーンの『イングヴェイ・マルムスティーンズ・ライジング・フォース』が好きだったけど、誰が歌っているか知らずに聴いていた。それがジェフだったんだ!

●ヴィクターはヘヴィな音楽にすぐ順応しましたか?

ヴィクターはノリノリで弾いてくれたよ。彼には限界というものがない。どんな音楽でもプレイ出来る、真のモンスター・プレイヤーだよ。

●『コエグジスト』は7〜9分の曲が中心ですが、それがあなたにとって最も書きやすい長さでしょうか?

どうだろうね。曲を書くときは長さは考えていない。必要なだけ時間を取るんだ。「アポカリプタス」なんて10分近くあるけど、聴いてもらえば、その長さには必然性があることが判る。まあ、1曲の中に言いたいことがたくさんあるから、自然に長くなってしまう傾向はあるね。

●ポーランドのマヨネス(Mayones)ギターとエンドース契約をしていますが、アルバムは全編このギターで弾いたのですか?

うん、マヨネスを全面的に弾いている。2012年か2013年かな、自分の理想とするギターを探して、NAMMショーで50社以上のブースを回ったんだ。マヨネスのギターを触った瞬間にこれだ!と確信した。俺がマヨネスを選んだのでなく、マヨネスが俺の腕の中に飛び込んできた感じかな。すべてがハンドメイドで最高品質で、サウンドも弾きやすさも完璧だったよ。『コエグジスト』では6弦&7弦ギターをそれぞれ1本ずつ弾いたんだ。リードは6弦、バッキングは7弦がメインだったと記憶している。

●他にどんなギターを持っていますか?

フェンダーのストラトキャスターを3本持っている。それからテレキャスターを3本、アイバニーズを2本持っている。ギブソンは持っていないんだ。もちろん良いギターだけど、どうも自分の手にはしっくり来ないんだよ。

●アンプやエフェクトなど、使用機材を教えて下さい。

俺はいろんな機材を使うタイプではないんだ。気に入ったものをずっと使っているよ。アルメニアからアメリカに来たとき、市場に出回っているあらゆるピックアップやトレモロを使ってみた。有名ブランドだから品質が高いとは限らないし、自分の耳で選んだんだ。その中で最高のコンビネーションが今のものだよ。ベア・ナックルのピックアップ、ソフィアのトレモロをマウントしている。アンプはクリーンなサウンド用にフリードマンとオルスン、ダーティーなサウンド用にメサ・ブギーのMark Vを使った。今の俺にとってベストな構成だよ。

Billy Sheehan & Hovak Alaverdyan / courtesy P-Vine Inc.
Billy Sheehan & Hovak Alaverdyan / courtesy P-Vine Inc.

<“共存する”ことは現代の世界において重要なことだ>

●「コエグジスト」にはEDMのダブステップをギターで再現したようなパートがありますが、それは意識したものですか?

決して「ダブステップみたいな効果を出そう」とは考えなかったけど、頭の中でイメージしていたサウンドは似たものだったかもね。ダブステップは出てきたとき面白いと思った。いろんな音楽が好きだし、新しい音楽からは常に刺激を受けるよ。ポップ、フュージョン、ジャズ・ロック...一番聴かないのがプログレッシヴ・メタルなぐらいだ(笑)。

●現在メインストリームのヒット・チャートではヒップホップやEDMが主流で、ギター・ミュージックは劣勢に立たされていますが、そんな状況についてどう考えますか?

特に何とも考えていない。トレンドがどうであろうと、俺は自分の信じる音楽をやるだけだ。それに音楽シーンは10年前、20年前とそれほど変わっていないんだ。オクタヴィジョンみたいな音楽は昔も今も、メインストリームだったことなんてないよ。でもSNSのおかげもあって、ギター・インストゥルメンタルは新たな注目を集めている。音楽リスナーはSNSで新しいギタリストを知って、YouTubeで聴いてみる。それでさらに掘り下げて聴いたり、自分でギターを始めてみたりするんだ。ギタリスト同士のコラボレーションも活発に行われている。俺も幾つか話をもらっていたけど、これまではオクタヴィジョンのアルバムに全力投球してきたから、すべて断ってきたんだ。でも、これからは積極的にいろんなミュージシャンと一緒にやっていきたいね。きっと学ぶことがあると思う。

●オクタヴィジョンというバンド名について教えて下さい。

オクタヴィジョンを始めたのは俺だけど、アルバムに参加した他のミュージシャン達の異なったヴィジョンも加わったバンドだと考えている。元々は俺、ヴィクター・ウッテン(ベース)、ビリー・シーン(ベース)、ジェフ・スコット・ソート(ヴォーカル)、ムルゾー(キーボード)、ローマン・ロムターゼ(ドラムス)、アヴァク・マルカリャン(ブルル)、アナヒット・アルトゥーシャン(カーヌーン)の8人と考えていたけど、バンド名を決めた後にアルチョーム・マヌキャン(チェロ)とスティーヴ・ワインガート(キーボード)も参加しているから、実際には“オクタ=8”ではないんだ(笑)。まあでも、クールなバンド名だし、そのままにしている。

●「マインドウォー」「スリー・ライヴズ」でフルートのような音が聞こえますが、これは何でしょうか?

それはアルメニアの縦笛に似た楽器ブルルだよ。実際には中近東全域で異なった名前で演奏されている。アヴァクが素晴らしいプレイを聴かせているよ。

●『コエグジスト』というアルバム・タイトルにはどんな意味があるのですか?

元々はアルバム収録曲のタイトルだったんだ。“共存する”ことは現代の世界において重要なことだし、このバンドが全員で共存しながら前進していくという意味もある。ちなみに「プロクタゴン」も候補だったんだ。クールな響きで、SFっぽいからね。でも、それより意味のあるタイトルにすることにした。

●アルバムの構成は5曲がインストゥルメンタル、2曲がヴォーカル入りですが、インストゥルメンタル曲のタイトルはどのようにして考えつくのですか?

直感で名付けている。あまり深い意味はないんだ。「マインドウォー」は人間の頭の中で起こっているクレイジーな争いをイメージした曲。タイトルは音を“生きる”ことによってタイトルが浮かんでくるんだ。

後編記事ではホヴァクのキャリアと音楽性、彼のアルメニアのルーツについて、さらに深く斬り込んでみよう。

【アルバム】

オクタヴィジョン

『コエグジスト』

P-VINE PCD-27051

2021年3月24日(水)発売

【日本レーベル公式サイト】

http://p-vine.jp/music/pcd-27051

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,300以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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