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メンタルがつらかったら「肉食」を減らしてみよう。楽になる可能性が!【ちょっと意外な医学論文】

黒澤恵(Kei Kurosawa)医学情報レポーター

コロナ禍も終焉を迎えつつあるようですが、皆さんのメンタルはいかがですか?日本生産性本部「日本生産性本部」が実施したアンケート調査では約4割の会社が、「コロナ禍で従業員のメンタルヘルスが“悪化した」と回答していました。30代の勤め人では4割近く、40代も3割弱がメンタルの問題を自覚しているようです。大変な時代になりました。

さてメンタルの良し悪しは食事の影響を受けるのはご存じでしょうか?、数々の医学研究から明らかになっています [文献1] 。では何を食べたら良いでしょう?手っ取り早いヒントを与えてくれる研究が1月24日(’23年)に、「BMC公衆衛生」という学術誌に掲載されました [文献2] 。食事から肉を減らすだけで、メンタルが楽になるかもしれないというのです。「気分が落ち込んでるからガッツリ肉を食べて戦うぞ!」は間違いだったのかもしれません。テヘラン大学(イラン)のAli Sheikh氏たちによる論文をご紹介しましょう。

動物性タンパク多食で「抑うつ」が2.5倍、「ストレス」は3.5倍

同氏らが解析対象にしたのは20から50歳の健康なイラン人女性500人弱。(メンタルが不安定になりやすいと思われる)妊婦さんや更年期の女性は含まれていません。

これら500人弱は栄養士さんが質問票を使って食事内容を調査し、同時に"DASS-21" という質問票で「抑うつ」と「不安」、「ストレス」を評価しました。そして食事内容とこれらメンタルの関係を解析したのです。

すると、植物性タンパク摂取の多寡はメンタルに影響を与えていなかった反面、動物性タンパク摂取が増えると「抑うつ」「不安」「ストレス」を感じている人の割合が多くなっていました

もう少し細かく見ると、動物性タンパク摂取量の多寡で各群同数になるよう3群に分けた(「三分位」と呼びます)ところ、摂取「最少」群に比べ「最多」群では「抑うつ」を感じている人が2.5倍、「不安」は1.8倍、「ストレス」に至っては3.5倍も多かったのです。

「幸せホルモン」セロトニンの分泌が動物性タンパク多食で低下?

ではなぜ動物性タンパクをたくさん摂る人にはメンタルに問題を感じている人が多かったのでしょう?上記の結果は、年齢や学歴、1日摂取エネルギー量、社会経済的状況など、メンタルに作用しそうな因子の影響を統計学的に取り除いた結果です。そのためSheikh氏たちは「動物性タンパク」そのものがメンタルに悪影響を及ぼしている可能性を考えています

その仕組みの一つが「動物性タンパク多食でセロトニンの働きが弱まる」という仮説です。「幸せホルモン」の別名を持つセロトニンですが、医学的には「ドパミン(喜び、快楽など)やノルアドレナリン(恐怖、驚きなど)などの情報をコントロールし、精神を安定させる働きがあります」(厚生労働省「e-ヘルスネット」)。このセロトニン分泌にはトリプトファンという物質が脳内に移動する必要があります。しかし動物性タンパクに含まれるアミノ酸はこのトリプトファンの脳内移行と競合することが、動物実験ですが報告されています [文献3] 。その結果、セロトニン分泌が低下するのではないか、つまり動物性タンパク質をとりすぎるとセロトニン分泌が低下してメンタルが悪化するのではないか、というのがSheikh氏たちによる見立ての一つです。

動物性タンパク由来のホモシステインが抑うつのリスクを上げる?

もう一つの仮説は「ホモシステインが悪さをしている」というものです。動物性タンパクが分解されるとホモシステインが生成されますが、血中のホモシステイン濃度高値でうつ病リスクが高まるとの報告があります [文献4] 。ホモシステインには直接的な神経障害作用が、研究室内の実験という保留付きですが、報告されています [文献5] 。

しかしこれらはあくまでも「仮説」であり、動物性タンパク多食がメンタルに悪影響を与えているのか、それとも逆にメンタルの調子が悪いと動物性タンパクをたくさん食べてしまうのか、今回の研究からはどちらとも断言できません

でももしもメンタルがつらかったら、「賭け」だと思って動物性タンパクを減らしてみませんか?それで楽になったら儲け物です。ただしタンパク質不足にならないよう、その分、植物性タンパクは積極的にとった方が良いでしょう。

タンパク質不足にならないように

ご参考までに、今回ご紹介した研究で「植物性タンパク」を多く摂っていた人たちがよく食べていたのは、「全粒穀物」と「野菜」です。果物摂取量は植物性タンパク摂取量の多寡を問わず同じでした。日本で身近な全粒穀物といえば「玄米」でしょうか。最近スーパーなどでよく見かけるようになった「オートミール」も全粒穀物食です。

朝ご飯の「パン」を「オートミール」に、そしてランチや晩ごはんの「白米」を「玄米」に、そして肉類は控えめに、というオプションも浮かんできそうですね。

まとめ

いかがでしたか?

「動物性タンパク摂取量の少ない人はメンタルで苦しんでいる人が少ない」という論文をご紹介しました。この観察から動物性タンパクとメンタル間の因果関係の有無は断言できませんが、研究者は動物性タンパクが悪さをしていると考えているようです。

今回ご紹介した論文はすべて無料で要約が公開されています。英語論文ですが無料翻訳サイトDeeplを使えば簡単に日本語にも直せます。

なお「食事」については「ボケたくなければこれを食べよう!認知機能・記憶力が良い人の食生活が判明」と『「夕方以降食べなければ痩せる」は本当。最新医学研究が証明』という論文紹介記事も書いています。またメンタルについても「春なのに気分が晴れない」、それ「花粉症」かも」という記事を書いています。こちらもぜひ、お読みください!では、また。

今回ご紹介した論文

  1. メンタルの良し悪しは食事の影響を受ける
  2. 動物性タンパク摂取が少ない人にはメンタルの悪い人も少ない
  3. セロトニン分泌に必須の「トリプトファン脳内移行」を動物性タンパク由来アミノ酸が阻害
  4. ホモシステイン高濃度でうつ病リスク高
  5. ホモシステインは神経細胞を傷害する

【注意】本記事は最新の医学論文についての紹介あり、研究結果の内容はあくまでも「論文筆者」によるものです。また論文の解釈は論者により異なる可能性もあります。あくまでもご自身の見解形成の参考としてお読みください。

医学情報レポーター

医療従事者向け書籍の編集者、医師向け新聞の記者を経てフリーランスに。10年以上にわたり、新聞社系媒体や医師向け専門誌、医療業界誌などに寄稿。近年では共著で医師向け書籍も執筆。国会図書館収録筆名記事数は3桁。日本医学ジャーナリスト協会会員(いずれも筆名)。

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