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「春なのに気分が晴れない」、それ「花粉症」かも【意外な?医学論文】

黒澤恵(Kei Kurosawa)医学情報レポーター

花粉症が「春のうつ」を引き起こす?

冬の寒さも和らぎ、春を感じられる日も増えてきました。桜が待ち遠しい季節ですね。その一方、「また春か・・・」と暗い気持ちになっている方もいらっしゃるのではないでしょうか。そう「春の鬱(うつ)」です。

季節性うつ症状は一般的に秋から冬にかけて発症し、春になると軽快しますが、逆のパターンも存在します [文献1]。それが「春のうつ」です。春めいていく日々、そしてそれに釣られるように明るくなっていく周囲の人たち。その中で一人だけ気分が落ちていくのはかなりつらいものです。

ネット上にはいろいろな情報が飛び交っていますが、それで軽快しましたか?相変わらずのつらい毎日に「なぜこんなに良い季節に気分が晴れないの?」と自分を責めたくなるかもしれません。

でもあなたは悪くない。その「うつ」、もしかしたら「花粉症」かもしれないのです。説明させてください。

花粉症による「うつ」を示唆するこれだけのデータ

すでに医学雑誌には次のようなデータが報告されています。

まず「樹木由来の花粉が増える時期には自殺も増える」。なんとも恐ろしいデータですが、米国の米国3,800万人弱を観察した結果です [文献2] 。

そしてうつ病の人たちを観察したデータですが、「春先の花粉数が多くなるほど、うつ状態が悪化する」というデータも得られています [文献3] 。

「花粉が増えるとうつ状態が悪化し、最悪、自殺に走る人も出てくる」ことが示唆されるわけです。

さらに「花粉症を引き起こす物質として知られている免疫グロブリンEという物質の血中濃度が高くなるほど、うつ状態が悪化する」ことも報告されています(こちらも躁うつ病の患者さんでの観察ですが)[文献4] 。

ここまでくると、花粉症がうつ状態の少なくとも一因となっている可能性はかなり高いと考えられるでしょう。

花粉症のもとになるサイトカインという物質が脳に直接悪影響か

ではなぜ花粉症で「うつ状態」が引き起こされ得るのでしょう?現時点では「花粉症を引き起こす一因であるある種の『サイトカイン』という物質が直接、メンタルに悪影響を与える」と考えられているようです [文献5] 。

事実、花粉症ネズミの鼻に花粉を入れると血中のサイトカイン濃度が上がり、ネズミは不安がちになり引きこもってしまったそうです [文献6]。

「花粉症→サイトカイン増加→メンタルに悪影響」という図式が示唆されるわけです。

まとめ

いかがでしたか?「花粉症が春のうつの原因になっているかも」というお話でした。もしも「春のうつ」で苦しんでいたらこれまで以上にしっかりと花粉症対策をとってみませんか?いい薬がないか、信頼できるドクターに相談するというのも一つの手です。今年は春を楽しめると良いですね。

今回ご紹介した論文はすべて無料で、要約が公開されています。英語論文ですが無料翻訳サイトDeeplを使えば簡単に日本語にも直せます。

また「うつ」については「メンタルがつらかったら「〇〇食」を減らしてみよう。楽になる可能性が!」という論文紹介記事も書いています。こちらも是非お読みください。ではまた!

今回ご紹介した論文

  1. 季節性のうつ症状は「春」にも現れる。
  2. 樹木由来の花粉が増える時期には自殺も増える
  3. 春先の花粉数が多くなるほど、うつ状態のスコアが悪化する
  4. 免疫グロブリンE血中濃度が高いほど、うつ状態は悪化
  5. サイトカインがメンタルに直接の悪影響
  6. 花粉症ネズミに花粉を嗅がせるとサイトカイン濃度が上がり、メンタルには悪影響

【注意】本記事は最新の医学論文についての紹介あり、研究結果の内容はあくまでも「論文筆者」によるものです。また論文の解釈は論者により異なる可能性もあります。あくまでもご自身の見解形成の参考としてお読みください。

医学情報レポーター

医療従事者向け書籍の編集者、医師向け新聞の記者を経てフリーランスに。15年以上にわたり新聞社系媒体や医師向け専門誌、医療業界誌、会員向け情報誌などに寄稿。近年では医師向け書籍も共著で執筆。国会図書館収録記事数は3桁(含筆名)。日本医学ジャーナリスト協会会員(。

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