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阿炎引退届騒動の今こそ考えて欲しい、相撲とSNSの新しい可能性

徳力基彦noteプロデューサー/ブロガー
(阿炎の引退自体は回避されたものの、重い処分がくだされることに)(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

幕内力士の阿炎の外出問題をめぐる騒動が、大きな話題となっていました。

参考:キャバクラ出入りの阿炎に“執行猶予”温情処分 引退回避、幕下から出直し

一時期は、阿炎側から引退届が提出され、26歳の若さで引退することになってしまうのかと注目されましたが、最終的に相撲協会側が引退届を受理せず、預かりとし、3場所出場停止で50%の報酬減額、幕下下位の番付からの出直しとなることになったようです。

阿炎と言えば、昨年11月に粘着テープで身体を縛った動画をインスタにアップして、力士全員のSNS無期限禁止のきっかけを作ったことでも話題になりました。

参考:相撲協会のSNS無期限禁止から考える、個人投稿を禁止する組織の共通点

さらに2月に開催された研修会でも、報道陣に「寝ていた」と発言をして物議をかもしました。

今回は、外出自粛のルールを破ってキャバクラに出入りしていた上に、幕下力士に口裏合わせをしてコンプライアンス委員会の調査に虚偽報告をしたことが重く受け止められたようです。

ただ、今回このニュースを受けて個人的に気になったのは、相撲協会による力士のSNS無期限禁止が、文字通り無期限に今でも禁止されたまま今日に至っている点です。

■緊急事態宣言下も力士のSNS禁止は継続していた

阿炎のインスタグラムの不適切動画騒動が発生したのは昨年の11月で、もうすでに半年以上が経過しています。

しかも2月に研修会を実施した後、コロナウイルスの感染が拡がり、3月の春場所は無観客、5月の夏場所は中止と、相撲界も大きな影響を受けていました。

この間、力士はSNS上でのファンとのコミュニケーションは一切禁止されたまま、活動自粛に追い込まれていたことになります。

もちろん、相撲は国技であって、力士は稽古や競技に専念するべきだから、SNSとかデジタルとかうわついたツールは不要だ、という意見もおそらくあるのでしょう。

ただ、落語や歌舞伎など多くの伝統芸能も、興行が中止に追い込まれ、オンライン活用に活路を見いだしている中で、相撲だけはオンライン活用をしなくても問題ない、というわけにはいかないのではないかと思います。

今回、阿炎が再び騒動を起こしたことを踏まえると、そもそも阿炎のインスタ騒動は、力士によるSNS利用が問題と言うよりは、阿炎自身の意識の問題であった、という見方もできると思います。

にもかかわらず、連帯責任で半年以上も力士全員のSNS活用を禁止するという行為は、本当に相撲界全体のためになるのでしょうか?

■スポーツ選手のSNSはファンに笑顔や勇気をくれる

緊急事態宣言中には、多くのスポーツ選手がSNSやネットを活用し、日本中に笑顔や勇気を届けていました。

参考:陸上の桐生祥秀らが「今スポーツにできることリレー」を実施。競泳の瀬戸大也は自宅に簡易プールを設置

本来は、相撲界も、力士達から相撲ファンの方に少しでも力士の元気な姿や、メッセージをSNS経由でも届けることで、相撲以外の方法でも日本の活力になる方法を模索すべきなのではないか、そう思ってしまうのは、私がSNSやネット側の人間だからでしょうか。

■阿炎によるファンサービスと炎上の境界線

そう考えると、逆に気になってくるのは阿炎の問題行動の経緯です。

今回の阿炎に関するメディアの報道を見ていると、典型的な懲りないタイプの人にしか見えない人も多いと思います。

ただ、実際に阿炎が不謹慎な行動でメディアに注目されたのは、インスタグラムの動画アップが最初。

それまでは、支度部屋でピースサインをするという力士らしからぬ言動が注目されたり、ビッグマウスと評されることはあっても、本人は「プロとしてのファンサービス」と語っていたそうです。

参考:ファンサービスしない力士はプロじゃない! 角界期待のホープ・阿炎政虎は現代っ子でビッグマウス!?

 

ガムテープでグルグル巻きの動画は、暴力追放をうたう相撲協会にとっては、到底許容できるものではないことは理解できますが、阿炎本人からすると、インスタ上でのファンサービスの一環だったのかもしれません。

なんといっても阿炎は幕内力士とはいえ、26歳の青年です。

インスタグラムという同世代の若者の間では、コミュニケーションツールとして広く使われているツールを取り上げられ、さらには力士全体のSNS無期限禁止のきっかけを作った人間と注目されれば、より一層反抗期の子どものような態度を取ってしまう気持ちも分からなくもありません。

もし、インスタ動画炎上に対する最初の対応が厳しすぎた結果、阿炎が意地になって今回の不適切行動につながってしまったのだとしたら、せっかくのファンサービスに熱心な力士を相撲協会自らが追い込んでしまったという見方もできなくはない気もしてきます。

これらはすべて想像でしかありませんので、実際の所は阿炎本人にしか分かりません。

ただ、検索数のデータで見ると、結果的に今回の不適切外出は、過去のインスタ動画騒動や、研修の際の寝てた発言よりもはるかに大きな世間の注目を集める結果になっています。

(出典:Googleトレンド)
(出典:Googleトレンド)

少なくともこの結果だけ見ると、相撲協会のSNSの無期限禁止という対応は、より大きな騒動を生み出す火種になったようにも見えてしまうわけです。

■相撲界においてもお手本となる存在は多数いる

そんな中、個人的に注目しているのは横綱白鵬のツイッターアカウントです。

基本的に白鵬関のツイッターアカウントも、本人の投稿自体は昨年の11月3日のこの投稿を最後に止まっています。

ただ、実はリツイートだけは、たまに投稿されているのです。

例えば、日本相撲協会が投稿した白鵬関自らの四股を踏む動画を、白鵬関のアカウントもリツイート。

この動画は、3.5万回以上再生されています。

もちろん相撲協会の公式アカウント自体が35万を超えるフォロワーがいるからというのはありますが、白鵬関のツイッターアカウントにも12万を超えるフォロワーがおり、リツイートだけでも相撲界のPRに貢献しているのは間違いありません。

まずは、こうした横綱や大関など、相撲協会が信頼できると考える力士から順番に投稿を許可していくという選択肢もあるのではないでしょうか。

また、白鵬関以外にも、引退した力士の方々の中にはSNSを積極的に活用されている方もいて、良いお手本を見せてくれています。

そうした先輩方が、適切なSNS活用の仕方を指導することで、力士によるSNS活用により良いニュースを多数発信し、相撲界が不祥事の時だけ注目されてしまうと言う悪いサイクルを止めることもできるのではないかと感じます。

コロナウイルスにより日本中が重苦しい空気に包まれている中、力士の方々のSNS上でのコミュニケーションは、他のスポーツ選手同様、必ず相撲ファンはもちろん、多くの日本人の力になってくれると思います。

なんといってもSNS上のコミュニケーションであれば、コロナウイルスにおびえる必要はありません。

感染拡大防止のために、相撲の巡業は中止にせざるを得なくても、SNS上であればそれぞれの力士は全国の相撲ファンに感謝を伝えることができます。

もちろん炎上のリスクはありますが、正しいSNSの使い方を力士に教えることができれば、それを補ってあまりあるメリットもあるはず。

是非、相撲協会には、北風と太陽の逸話に習い、北風方式のアプローチだけでなく、太陽方式のアプローチも試していただきたい次第です。

noteプロデューサー/ブロガー

Yahoo!ニュースでは、日本の「エンタメ」の未来や世界展開を応援すべく、エンタメのデジタルやSNS活用、推し活の進化を感じるニュースを紹介。 普段はnoteで、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNSの活用についての啓発やサポートを担当。著書に「普通の人のためのSNSの教科書」「デジタルワークスタイル」などがある。

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