Yahoo!ニュース

トランプ氏「選挙の不正を見つけよ」とは発言していなかった! 米有力紙が記事訂正文掲載

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
昨年、ジョージア州での上院選を前に同地で共和党候補の応援演説を行ったトランプ氏。(写真:ロイター/アフロ)

 大統領時代、フェイクニュースを批判してきたトランプ氏は、今、ほくそ笑んでいるのではないか?

 3月12日、同氏が“目の敵”にしてきた米有力紙ワシントンポストが、1月9日に掲載した記事内にあるトランプ発言は引用ミスだったとし、訂正文を掲載したからだ。そのトランプ発言とは、ジョージア州の高官に“選挙の不正を見つけること”を要請したという発言で、CNNやMSNBCなど他の多くのメディアもワシントンポストが引用ミスした発言を引用して報道していた。また、今回の引用文の訂正は記事を掲載してから2ヶ月も経っていた。影響力が強いワシントンポスト紙だけに、この引用ミスは波紋を呼んでいる。

引用ミスされた通話内容

 振り返ると、11月の大統領選後、トランプ氏はジョージア州での敗北の原因は不正選挙が行われたためだと主張していた。もっとも、同州の州務長官のラッフェンスパーガー氏は選挙結果が変わるような不正が起きた証拠はないと訴えていた。

 ラッフェンスパーガー氏の下で、実際に、不正の調査を行っていたのがチーフ調査員のフランシス・ワトソン氏である。

 1月9日付ワシントンポストは、昨年12月23日に、トランプ氏とワトソン氏の間で行われた通話内容について報じたのだが、その中で、トランプ氏はワトソン氏に“選挙の不正を見つける”よう要請し、そうすれば“国民的ヒーロー”になれると話したと説明していたのだ。ちなみに、その通話内容は匿名の情報源から得たものだったという。

 しかし、トランプ氏は正確にはそうは言っていなかったのである。

 3月11日、ウォール・ストリート・ジャーナル紙が、ワトソン氏のコンピューターのトラッシュ・ホルダーから見つかった通話記録を明らかにしたが、それによると、トランプ氏はワトソン氏に、“選挙の不正を見つけること”は要請しておらず、“フルトン郡の票を徹底的に調べるよう要請し、そこでは不正が見つかるかもしれない”と主張していた。

 また、“国民的ヒーロー”という言葉も使われておらず、トランプ氏はワトソン氏に「フランシス、君がやることは凄いことだ。国にとって重要なことだ。私は非常に感謝している。正しい答えがわかったら、君は賞賛されるよ。君は今、国で最も重要な仕事をしているんだ」と伝えていたのである。

 ワシントンポストに通話内容について情報を流した匿名の人物は、通話内容を不正確に把握したか、あるいは歪曲したか、あるいは紙面に載るまでのある段階で歪曲されたということだろう。

故意の引用ミスだ

 保守派は、トランプ氏も批判してきたリベラルメディア、ワシントンポストの引用ミスを問題視し、ツイッター上で非難している。

「ワシントンポストやCNNがトランプに利益をもたらすような引用をいつするというんだい? 絶対にしないよ。間違って引用したなんてありえない。彼らにとってはトランプを傷つける好機だったんだ。そして、彼らは未確認の情報源のせいにしている」

「ワシントンポストがトランプ発言を誤って引用したことは、単純なミスではなく、はるかに大きなミスだ」

「少しでも常識がある人なら、故意に、引用ミスされたってわかるよ」

「訂正前のワシントンポストの書き方は、トランプ氏がワトソン氏に悪いことをするよう命じているかのような表現だった。重要な記事だったので、ワシントンポストは訂正文などではなく、第一面で報じるべきだ」

圧力をかけていたことに変わりはない

 一方で、こんな声もある。

「間違って引用されたからといって、選挙の結果を変えるために圧力をかけようとする意図がトランプ氏にあったことに変わりはない」

 実際、トランプ氏はワトソン氏との電話で、投票した有権者の署名がその人物の古い署名とマッチするか確認するよう要請しており、それについてワシントンポストは「明らかに、マッチしない署名の数を増やそうとする試みだ」と指摘している。

 また、トランプ氏はワトソン氏に、「非常に重要な日があるから」と言って、クリスマス休暇後も不正の調査を続けるよう要請していた。“重要な日”とは、選挙人投票の結果発表の1月6日を指していたと思われる。

 トランプ氏はまた、1月2日、前述のラッフェンスパーガー氏に電話で「1万1780票を見つけたいだけだ。なぜなら、我々が勝ったのだから」とも発言していた。トランプ氏はジョージア州で246万1854票を獲得したが、これに1万1780票を加えれば、得票数は247万3634票となり、バイデン氏の247万3633票を1票上回ることになるからだ。

 さて、当のトランプ氏は、ワシントンポストの訂正に対してどう反応したのか?

 トランプ氏は16日、声明を出し、「オリジナルの記事は最初からでっち上げだった」と批判しつつも「ワシントンポストの訂正に感謝している」と述べた。

 さらには「我々はジョージア州で起きた大規模な選挙の不正を見つけて明らかにしようとしている」と不正の調査の続行にも言及した。

 あきらめることを知らないトランプ氏の抵抗は今も続いている。

(関連記事)

「中国ではなく米国が世界支配する未来を確信」トランプ氏 共和党の新戦略はキャンセル・カルチャー批判か

トランプ氏が“金ピカの像”となって神格化された日 「共和党の大統領を復活させる」退任後初演説

トランプ氏の行く末 「共和党大統領候補指名は確実」と共和党重鎮、「刑務所行きだ」と元顧問弁護士

共和党上院トップに参戦したトランプ氏 、今大統領選予備選が行われたら圧勝

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

飯塚真紀子の最近の記事