共和党上院トップに参戦したトランプ氏 、今大統領選予備選が行われたら圧勝
弾劾裁判で無罪評決を受けたトランプ氏の反撃が始まった。相手は米共和党上院院内総務のミッチ・マコーネル氏だ。
マコーネル氏は、弾劾裁判では、元大統領を弾劾する行為は違憲という理由からトランプ氏を無罪とする立場をとったが、それでも、トランプ氏は議事堂暴動を扇動したことや大統領選の敗北を不正選挙のせいだと嘘をついたことに対する道義的責任からは逃れられないという見解を示した。
退任して民間人となったトランプ氏はまた刑事訴追や民事訴訟にも直面していると、以下のように述べた。
「トランプ氏は在任中にしたすべての行為に対してまだ責任がある。彼は罰から逃げ切ったわけではない。この国には刑事司法制度や民事訴訟があり、退任した大統領たちはそのどちらの責任追及も免れられない」
トランプ氏とマコーネル氏の関係は、大統領選後の11月からギクシャクしていた。マコーネル氏はバイデン氏とハリス氏の勝利を認め、彼らと協力関係を築いていくと言及し、トランプ氏の選挙不正の訴えを批判、弾劾裁判前には共和党議員に良心に従って投票するようアドバイスもしていた。そして遂には、トランプ氏から完全に離反したとも取れる上記の発言。両氏の決裂は決定的になったと言っていいかもしれない。
マコーネル氏がリーダーでは強くなれない
そんなマコーネル氏に対し、トランプ氏は政治活動委員会“セイブ・アメリカ・PAC”を通じて声明を出し、反撃に出たのだ。
この声明の中で、トランプ氏はマコーネル氏の政治家として資質を批判。
「共和党は、党を支配しているマコーネル議員のようなリーダーの下ではリスペクトされないし、強くもなれない。マコーネル氏は普通の現状維持の政策を行い、政治的洞察力、知恵、スキル、個性も欠如しているため、多数派リーダーから少数派リーダーへとあっという間に成り下がってしまった。状況はなお悪くなるだけだろう。
“アメリカ・ファースト”のアジェンダが勝利するのであり、マコーネル氏の“ベルトウェイ・ファースト”のアジェンダやバイデン氏の“アメリカ・ラスト”のアジェンダは勝利しない」
ジョージア州上院選敗北の責任はマコーネル氏に
また、トランプ氏はジョージア州上院選の共和党の敗北もマコーネル氏に責任を求めた。
「共和党は上院2議席を獲得するはずだったが、マコーネル氏が、民主党が主張する2,000ドル給付の追加経済政策に逆らった。追加経済政策は民主党の宣伝材料となってしまった。マコーネル氏は何もしなかった。彼は将来にわたって、公平で公正な選挙制度を守ろうとしないだろう」
昨年12月、米議会下院は、新型コロナウイルス追加経済対策として、現金給付金をトランプ氏と民主党が主張する2,000ドルに引き上げる法案を可決したが、マコーネル氏率いる共和党議員が当時多数派だった上院で否決された。トランプ氏も引き上げ法案を支持していたことから、マコーネル氏はトランプ氏の要求に逆らったわけである。
さらには、マコーネル氏は自身のお墨付きがなければ上院選で負けたはずだと言及。
「唯一の後悔は、私からの強い支援とお墨付きを請うたマコーネル氏を、2020年の選挙の際、ケンタッキー州(マコーネル氏の地盤)の人々を前に支援したことだ。彼は勝ったが、もう忘れたのか。私のお墨付きがなければ、マコーネル氏は大敗していただろう」
また、マコーネル氏の対中政策も信用できないと批判した。
「マコーネル氏は、中国についても信用ならない。彼のファミリーは中国企業に相当な持ち株があるからだ。彼は、大きな経済的軍事的脅威に対して何もしていない」
不機嫌な雇われ政治家
マコーネル氏の下では、共和党は中間選挙の予備選に勝てないと断罪し、予備選に関与することも示唆した。
「ミッチは、頑固で不機嫌な、笑顔1つ見せない雇われ政治家だ。共和党は彼の下では2度と勝てない。彼は、国にとって必要なことや正しいことをしないだろう。必要で適切なら、私は中間選挙の予備選では、MAGA( "米国を再び偉大にする"というトランプ氏のスローガン)とアメリカ・ファースト政策を支持する対立候補を支援する。我々は賢く、強く、思慮深く、思いやりがある指導者を求めているのだ」
トランプ氏は、まずは自分の方針に賛同する候補者を支援することで、マコーネル氏が代表する典型的な共和党保守派に参戦しようとしているのだ。
今大統領選の共和党予備選が行われたらトランプ氏圧勝
ところで、共和党支持者は現在のトランプ氏をどう見ているのだろう?
モーニングコンサルトとポリティコが2月14日〜15日に行った共同世論調査によると、2024年大統領選の共和党候補を選ぶ予備選が仮に今行われ、トランプ氏が候補者の1人である場合、54%の共和党支持者がトランプ氏を支持すると答えている。下記のグラフからわかるように、想定された他の共和党候補者たちを凌いで圧勝するという結果が出た。議事堂暴動直後の1月8日〜11日に行われた同じ調査では、支持率は42%と落ち込んでいたものの、トランプ氏が支持を取り戻したことがわかる。
また、トランプ氏が1月6日の議事堂暴動に対し“少なくともいくらか責任がある”と答えた共和党支持者の割合も、下記のグラフが示すように、1月6〜7日の調査では41%だったところが、2月14〜15日の調査では14ポイントも減って27%となった。
トランプ氏が共和党で大きな役割を果たすべきだと考えている人々の割合は共和党支持者の59%と、1月6日〜7日の調査時よりも18ポイントも増え、トランプ氏への期待が高まっていることを示している。
共和党内ではトランプ派vs反トランプ派の対立が起きているものの、トランプ氏は共和党支持者からの支持を取り戻したことがわかる。
弾劾裁判での無罪評決により、2024年の大統領選に出馬することも可能となったトランプ氏は無罪評決直後「運動は始まったばかり」と述べたが、根強いトランプ支持者からの支援を背景に、視線の先に見ているのは、やはり大統領選出馬かもしれない。
もっとも、不安材料もある。マコーネル氏が言及したように、一民間人となったトランプ氏には刑事訴追や民事訴訟が待ち受けていると思われるからだ。
早速、民主党のトンプソン下院議員が16日、連邦議会襲撃事件をめぐり、トランプ氏、ジュリアーニ元ニューヨーク市長、「プラウド・ボーイズ」など極右系の2団体に対する損害賠償訴訟をワシントンDCの連邦地裁に起こした。
選挙に向けた闘いに訴訟との闘い、トランプ氏の闘いは終わることなく続く。
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