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3月中旬から4月上旬は引っ越し繁忙期 トラブルを防ぐ賢い引っ越しのためのポイント

森田富士夫物流ジャーナリスト
引っ越しは新生活のスタート トラブルをなくして気持ち良く(提供:ankomando/イメージマート)

 3月中旬から4月上旬にかけての約1カ月は引っ越しシーズンだ。ここ数年、この時期にはマスコミで「引越難民」が話題になった。だが、昨年は一昨年までと比べて少し様相が違った。コロナ禍で企業の転勤が少なくなったのも一因である。また、国土交通省や全日本トラック協会などが引っ越し日の分散化を呼び掛けたPRの効果もあった。さらに、マスコミがコロナ報道に力を注ぎ、引っ越しにまで関心が向かなかったこともある。

今年は昨年より引っ越し件数の減少が見込まれるものの、3月20日から4月4日の間はかなりの混雑を予想

 毎年この時期に引っ越しが集中するのは企業の人事異動や進学、卒業、就職などに伴う人の移動が多いからだ。全ト協の調査によると、大手引っ越し事業者6社の2019年度実績では、3月が年間引っ越し件数の15.2%、4月が11.3%となっている。この2カ月に年間の約4分の1が集中していることになる。

 では、今年の引っ越しシーズンはどうか。今年は昨年と比べて引っ越し件数の減少が予想される。一番の理由はコロナの影響だ。東京商工リサーチが2月18日に発表した調査結果で、資本金1億円以上企業の人事異動をみると、回答数1373社の19.2%が引っ越しが伴う人事異動を例年より減らすと回答。例年並みが27.4%であった。2割近い企業が今春は引っ越しの伴う人事異動を減らすという結果である。

 同調査ではその理由も聞いている。資本金1億円未満も含む回答企業9494社の複数回答によると、従業員や家族の新型コロナ感染防止が842社、テレワークなどで引っ越しをしなくても業務が可能が724社、引っ越しを伴う異動の時期をずらしたが199社、コロナ禍で引っ越し事業者の手配が困難になる恐れがあるが158社となっている。

 引っ越し事業者への取材でも、従来は春と秋の年2回、引っ越しが伴う人事異動があったが、今年からは人事異動を秋だけにする企業があるようだ。

 一方、進学などに伴う引っ越しについては定量的な調査がないので一般論になるが、大学進学で地元の大学志望が増えているといった報道がある。実家から通学可能な学校への進学なら引っ越しはない。また、地方から都市部の大学への進学でも、リモート授業が続いている間は入学後も自宅で授業を受けるというケースがある。対面授業が再開されれば引っ越すことになるが、結果的には分散化になる。

 このように件数の減少が予想されるが、それでも3月中旬から4月上旬にかけて引っ越しのピークになることに変わりはない。国交省や全ト協によると3月13日(土)から4月11日(日)までの間と4月17(土)、18日(日)は混雑が予想される。中でも3月20日から4月4日までの16日間は特に混雑するという予測だ。さらに人手不足などもあって希望日に事業者が見つからないこともあるので、トラブルなどを避けるためにも分散化を検討してもらいたいと呼び掛けている。

引っ越し事業者の様々なコロナ感染防止策と、引っ越しトラブルをなくすためのポイント

 今年の引っ越しの一番の特徴は、事業者がコロナ感染防止のために様々な対策を立てていることである。まず、引っ越し希望者との最初の接触の機会は見積もりだ。見積もりを非接触にする事業者もいれば、対面形式にする事業者もいる。

 見積もりをオンライン化しているある事業者は、営業担当者と客の自宅をオンライン会議システムでつなぎ、客自身に家財などを映してもらいながら見積もるような対応をしている。一方、非接触では見積もりと荷物の量や重量が違ったり、意思疎通の不十分さによるトラブルが懸念されるとして、下見の実施をしている事業者もいる。もちろん訪問時には事前に許可を得た上で対面する。また対面直前に手指を消毒し、マスクやフェースシールドの着用を徹底、客にもマスクを提供して着用を求めることもある。

 ハード面では、トラックの荷台や運転席などを抗ウイルス、抗菌加工したり、ハウスクリーニング会社と提携して引っ越し先などの抗菌コーティングをオプションサービスにしている事業者など、各社各様に工夫している。さらに実際の作業では、ドライバーやアルバイトも含む作業員全員がPCR検査を定期的に受け、客先に陰性証明書を提出するような事業者もいる。このようにコロナ感染防止対応が、引っ越しサービスの一部になり、事業者間での差別化にもなっているのが今シーズンの特徴である。

 そして、引っ越し件数が減少すれば、事業者間の競争が激化することも予想される。長年にわたる経験とノウハウを持った事業者間の競争だけではなく、「ギグ引っ越し事業者」とも呼ぶべきにわか引っ越し事業者の参入も予想されるからだ。コロナで一般貨物の取り扱いが落ち込んだために、繁忙期だけでも引っ越しで稼ごう、という事業者である。営業ノウハウがなくても、引っ越しの紹介サイトと契約すれば見積もりに参加できるからだ。ネットで都合の良い時間だけ仕事を見つけるギグワーカーならぬ、「ギグ引っ越し事業者」が安い見積もりを提示することもあり得る。もちろんどの事業者を選ぶのかは利用者の自由だが、トラブルなどを避けるためには、金額だけで判断しない方が賢明だ。

 そこで、トラブルを避けるためのポイントを簡単に紹介しておく。

 まだ契約していないのに見積もり時に段ボールなどを置いていく事業者もあるので、成約してからでなければ受け取らない。引っ越し当日以前に内金や前払い金を支払う必要はない。解約や延期の手数料は、「引越標準運送約款」では前々日で運賃+料金の20%以内、前日は30%以内、当日が50%以内となっている。利用者の都合で荷物が増えた場合などは追加料金が請求されるが、事業者都合で見積金額を超える増額請求は認められていない。貴重品など事業者が引き受けを拒絶することができる荷物は引越標準運送約款に明記されている(利用者にとって主観的に大切なもの=記念品など=も貴重品とみなすので事前に事業者と確認すると良い)。引っ越し終了後には速やかに開梱して紛失や破損などを確認する。破損や紛失は引っ越し作業日から3カ月以内に申告しないと事業者の責任が消滅する(引越標準運送約款)。家具などの破損に対しては修理が原則で、修理ができない場合には事業者が時価相当額で賠償。荷物以外の家屋の破損などについては民法や商法などによる損害賠償になる(2週間以内を目途に確認し、原則は修理などによる現状復旧)。

 このように書くと、引っ越し事業者の選定も大仕事だと思われるかも知れない。そこで、もしトラブルが発生した場合でも、迅速、的確に対応してくれる社内体制になっている事業者かどうかを見分ける方法がある。消費者庁や国交省も参画して創設された認定制度で、全ト協が認定する「引越事業者優良認定制度(通称『引越安心マーク』)」である。

 Webでも対面でも、見積もり時に『引越安心マーク』を取得しているかどうかを確認するという方法もある。もちろん『引越安心マーク』は判断材料の一つなので、その他の要素も慎重に検討して納得できる事業者を選ぶことが必要だ。

物流ジャーナリスト

茨城県常総市(旧水海道市)生まれ 物流分野を専門に取材・執筆・講演などを行う。会員制情報誌『M Report』を1997年から毎月発行。物流業界向け各種媒体(新聞・雑誌・Web)に連載し、著書も多数。日本物流学会会員。

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