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「置き配」などに最大5円分のポイント還元、だが再配達削減には「宅配ボックス」普及の方が有効なのでは?

森田富士夫物流ジャーナリスト
昔から郵便物の再配達は基本的にゼロ 宅配の再配達削減には宅配ボックスが有効(写真:イメージマート)

 政府は宅配荷物の再配達削減のために、ユーザーが「置き配」やコンビニ受け取りなどを選択した場合、1回当たり最大5円分のポイントを還元する事業を始めると発表した。

 これは「物流革新に向けた政策パッケージ」の一環として、利用者の行動変容を促し、物流事業者の負荷を軽減するのが目的で、トラックドライバー不足解消に向けた対策の一環である。アマゾン、楽天、LINEヤフーのネット通販大手、宅配便のヤマト運輸、佐川急便、日本郵便などが参加して10月から始める。

宅配の再配達率は10%強なので10人で配達できる荷物を11人で運んでいるのが現状、再配達を半減するだけでもドライバー不足解消には効果大

 国土交通省の調べでは今年4月の宅配荷物の再配達率は10.4%。つまり単純計算では、10人で配達できる荷物を11人のドライバーで運んでいることになる。

 国交省の資料によると2022年度の宅配便取扱実績は50億588万個で、前年度と比べて5265万個(約1.1%)の増加となった。そのうちトラック運送は49億2508万個である。

 集計時点にはタイムラグがあるが、再配達率が10.4%とすると、49億2508万個を配達するために約54億3729万回も訪問していることになる。5億1222万回のムダ足だ。それだけ多くのドライバーが必要になっている。

 だが、それだけではない。国交省の宅配便取扱実績には含まれていない宅配荷物があるからだ。国交省の宅配便取扱実績は宅急便(ヤマト運輸)、飛脚宅配便(佐川急便)、ゆうパック(日本郵便)、フクツー宅配便(福山通運他20社)、カンガルー便(西濃運輸他19社)、その他の17便を合わせた計22便の集計である。

 実は、これ以外にもネット通販の宅配業務を行っている事業者が多数いる。たとえばアマゾンの自前物流をみると、「デリバリープロバイダ」と呼ばれる宅配便以外の元請事業者がおり、さらにその下請をしている事業者が多数いる。また、アマゾンが直接契約している自営業者の「アマゾンフレックス」や、その他多様な宅配網を構築している。これらは国交省の宅配便取扱実績には集計されていない。

 それだけ多くの荷物が毎日宅配されているので、再配達率10.4%を半減するだけでもトラックドライバー不足解消の効果は大きいのである。

日本の人口減少が続き国内物流市場の縮小が予想されるが、営業用トラックの輸送量は増加しドライバー不足への対策が喫緊の課題になっている

 総務省が7月24日に発表した「住民台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」によると、今年1月1日現在の日本の総人口(外国人を含む)は1億2488万5175人で、この1年間に53万1702人(0.42%)も減少している。

 同時点における都道府県別の人口では、最少の鳥取県が54万207人なので、鳥取県の全人口にほぼ匹敵するぐらいの人数が1年間に減少していることになる。

 人口が減れば食料品、飲料水、衣料品、日用雑貨などの消費財の需要も減少していく。国内貨物の総輸送量は単年度ではプラスやマイナスの変動があるだろうが、中期的なスパンでみれば、減少傾向が避けられない。

 だが、国内貨物の総輸送量が減っても、当面の間は営業用トラックの輸送量は増加すると予想される。重量(トン)ベースでみると、国内貨物輸送量の6割強を運んでいるのは営業用トラックで、3割弱を自家用トラックが運んでいる。

 自家用トラックは現在の法律では自社(自分)の荷物しか運べない。したがって国内市場が縮小すると市場占有率を高めない限り、自社の荷物は減っていく。すると現在でも営業用トラックと比べて稼働効率などが劣る自家用トラックで運ぶよりも、営業用トラックに委託した方が物流コストの削減になる。このように国内市場の縮小に伴って、当面は自家用トラックから営業用トラックへのシフトが進む。

 そのため宅配便などよりはるかに量が多い企業間物流も含めて、トラックドライバー不足がより深刻になってくる。ちなみに自家用トラックに乗務している人たちは、専任ドライバーが極めて少なく、営業活動や工場作業など他の業務の合間にトラックに乗務していることが多い。自家用トラックを廃止すれば、本業に専念することになるので、その人たちが営業用トラックのドライバーに転職してくることは想定できない。

 このように国内の貨物総輸送量が減少しても営業用トラックの輸送量は当面増加するため、トラックドライバー不足の深刻化が懸念される。さらに流通チャネルの変化に伴い、ネット通販などの宅配荷物が増加する。宅配荷物は企業間物流よりもずっとボリュームは少ないが、小さな荷物を一軒ずつ配達しなければならないので手間暇がかかって効率が劣る。より配送ドライバーが必要とされるのだ。

 このように宅配の再配達削減は持続可能な物流構築のためには避けて通れない。これが今回の「置き配ポイント」導入の背景といえる。

はがきや手紙などは基本的に再配達がないのはなぜ? 盗難などのリスクがある「置き配」より「宅配ボックス」普及のインセンティブの方が効果大

 だが、「置き配」は盗難などのリスクがある。「置き配」のトラブルがどのくらいの発生率なのかは資料がないので分からない。大手のネット通販会社は社内データを持っているはずだが、外部には公表しないだろう。なぜなら、「置き配」を普及させたいからだ。

 「置き配」の方が配送効率が良く(先述の単純計算では約10%の効率向上)、配送コストの削減を図れる。一方、盗難などのトラブルが発生した場合、事後処理にコストがかかるが、そのための対策費用よりも「置き配」による配送コスト削減効果の方がはるかに大きいものと思われる。したがって「置き配」を普及させた方が良いので、「置き配」のトラブル発生率などは公表しない。

 「置き配」によるトラブルなどは、テレビのワイドショーの格好の話題なのに、テレビなどではほとんど取り上げようとしない。理由は簡単である。ネット通販会社からの広告出稿が増えているからだ。スポンサーの好まない話題を取り上げるのは避けるという「忖度」だろう。

 このように「置き配」による盗難などの発生率は分からない。だがラストワンマイルを担っている軽貨物の自営業者などによると、防犯カメラが設置されていない配達先は、防犯カメラが設置されている配達先より盗難などのトラブルが多い、という。

 ここで少し視点を変えてみよう。はがきや手紙などの普通郵便物は、基本的に再配達がない。これは戸建てであれ集合住宅であれ、昔から一世帯ごとに郵便受けが設置されているからだ。対面で渡すことが前提になっている郵便物は特別料金がかかる。

 郵便受けと同様に各世帯に一つずつ「宅配ボックス」を設置することが当たり前になれば、普通郵便物と同じように宅配荷物でも基本的に再配達がなくなるはずだ。対面での引き渡しを望む荷物は、特別料金を設定すれば良い。
 このように盗難などのリスクが伴う「置き配」よりも「宅配ボックス」の普及を促進するようなインセンティブの方が、再配達削減には効果的で有効ではないかと思われる。

物流ジャーナリスト

茨城県常総市(旧水海道市)生まれ 物流分野を専門に取材・執筆・講演などを行う。会員制情報誌『M Report』を1997年から毎月発行。物流業界向け各種媒体(新聞・雑誌・Web)に連載し、著書も多数。日本物流学会会員。

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