天の川中心から飛来する異常な数の「反物質」…その起源が判明!?
どうも!宇宙ヤバイch中の人のキャベチです。
今回は「過剰に到来する反粒子と解明されたその起源」というテーマで動画をお送りします。
天の川銀河の中心部からは、理論的な予想では説明できないほど数多くの反粒子が到来していることがわかっていました。
過剰な反粒子の起源は長年謎に包まれており、「ダークマター粒子による対消滅」が候補の一つでした。
最近になり、高エネルギーの光子である「ガンマ線」を観測することで、過剰な反粒子の起源が解明されました。
本記事では反粒子の起源について解説していきます。
●AMS-02の陽電子検出
国際宇宙ステーション(ISS)に設置されたアルファ磁気分光器(Alpha Magnetic Spectrometer, AMS-02)と呼ばれる粒子検出器は、宇宙からやってくる高エネルギーの粒子「宇宙線」を分析しています。
宇宙線のほとんどは電荷を持っており、検出器へ衝突直前に磁気を浴びせることで軌道が曲がります。
その軌道の曲がり方を調べることで、宇宙線の種類やエネルギーを知ることができます。
宇宙線の中には、非常に割合は低いものの、「反粒子」が含まれています。
反粒子は、ある特定の粒子と電荷などの性質が反対である粒子のことで、例えば「電子」の反粒子として、+の電荷を持った「陽電子」があります。
陽電子をはじめとした反粒子の起源を調べることで、様々な超高エネルギー現象の謎や、この宇宙にほとんど通常の物質しか存在せず、反物質が見られない謎などが解明できると期待されています。
AMS-02は数多くの陽電子を検出し、その起源に迫りました。
●陽電子の起源とその謎
○陽電子の起源
電磁波と異なり、陽電子を含めた荷電粒子は磁場によって進路を曲げられ、宇宙空間を直進できないため、到来方向を眺めてもその起源天体は存在していません。
よって起源を特定するのが難しいです。
一般的に、アインシュタインの「E=mc^2」という等式からわかるように、非常に高いエネルギーから質量を持つ粒子(例:電子)と反粒子(例:陽電子)のペアが対生成される場合があります。
対生成が起こるきっかけとなる超高エネルギー現象には、例えば超高速に加速された粒子による他の粒子との衝突があります。
粒子が超高速に加速される環境の具体例として、強大な重力を持つブラックホールの周辺や、強大な磁場を持つ中性子星の周辺などが挙げられます。
そのような環境で加速された高エネルギーの粒子(宇宙線)が星間物質と衝突することで、電子と陽電子が対生成されます。
また、ダークマター粒子同士の対消滅という現象も、電子と陽電子が対生成される可能性のある、非常に高エネルギーな現象です。
ダークマターを構成する粒子は、それ自身が反粒子である可能性があり、その場合は同じダークマター粒子同士で衝突すると対消滅を起こし、質量が全てエネルギーに変換されます。
○過剰に到来する陽電子の謎
高エネルギーの宇宙線が星間物質と衝突することで、陽電子が生成されることと、その陽電子のエネルギー毎の到来頻度はよく知られていました。
AMS-02によって検出された陽電子のうち、比較的低エネルギーの陽電子の到来頻度については、そのようなメカニズムで生成されるものの予想と見事に合致しています。
しかしある程度高エネルギーの陽電子の到来頻度は、そのようなメカニズムによって説明できる到来頻度を大きく上回っています。
つまり、起源不明の高エネルギー陽電子が数多く到来しているのです。
では高エネルギーな陽電子の過剰分の起源はどこにあるのでしょうか?
主に中性子星(パルサー)説と、ダークマター粒子同士の対消滅説があります。
これらの起源を見分けるために、高エネルギーな陽電子のエネルギーごとの到来頻度の分布を正確に知る必要があります。
陽電子が中性子星からやってくる場合、高エネルギーの陽電子の到来頻度は緩やかに落ちる一方、ダークマターによる陽電子は、特定のエネルギー以上で急激に到来頻度が落ちると予想されています。
つまり、これらの高エネルギー陽電子のエネルギーごとの到来頻度を正確に理解できれば、その起源についても特定できるはずでした。
しかしAMS-02による高エネルギー陽電子の検出限界は、陽電子の起源が中性子星かダークマターかを区別できる一歩手前に存在しており、惜しくも区別できずにいました。
●ガンマ線で陽電子過剰の起源を特定!?
○ガンマ線と陽電子の関係
中性子星の付近に存在する陽電子は、直接地球にやってくるものもありますが、別の恒星から放たれた光子と衝突することもあります。
高エネルギーな陽電子が光子と衝突すると、光子へエネルギーを受け渡し、最も高エネルギーな「ガンマ線」へと変化させることがあります。
これは「逆コンプトン散乱」という現象です。
よって過剰な陽電子の起源が中性子星である場合、その付近からやってくる「ガンマ線」を検出することで、間接的にその付近に存在する陽電子と、そこから到来するはずの陽電子の個数を推定できます。
この分析によってAMS-02が発見した高エネルギー陽電子の過剰を説明できれば、この過剰の原因は中性子星であり、ダークマターは関与していないと結論付けられます。
○実際の分析結果
もともと有名なガンマ線源であった、地球からふたご座の方向に約815光年彼方にある「ゲミンガ」という中性子星の近傍を、フェルミガンマ線宇宙望遠鏡で分析しました。
その結果、広大な領域にわたって高エネルギーのガンマ線源(ガンマ線ハロー)が存在することが判明しました。
ガンマ線ハローのエネルギー毎の範囲などの特徴は、中性子星付近に存在する陽電子と、近傍の恒星由来の光子との衝突、つまり逆コンプトン散乱によるものであると考えると上手く説明ができました。
中性子星が星間空間を移動しているため、ハローは偏り、細長くもなっています。
ゲミンガのガンマ線ハローからやってくる高エネルギーの陽電子の個数を推定すると、なんとこれだけでAMS-02が検出した過剰分の20%も説明することができました。
ゲミンガ以外の中性子星由来の陽電子も含めると、それらだけで過剰分を説明し切れる可能性が高いです。
よって現在では、高エネルギー陽電子の過剰分の原因はダークマターではなく、中性子星であると信じられています。