太陽からわずか110天文単位を恒星が通過していた!?プラネットナインに代わる「恒星フライバイ仮説」
どうも!宇宙ヤバイch中の人のキャベチです。
今回は「大昔の太陽系で恒星が近接通過していた!?」というテーマで解説していきます。
ドイツのユーリッヒ研究センターのチームは、かつての太陽系に太陽の0.8倍の質量を持つ恒星が、太陽からわずか110AUの位置を通過した可能性があることを示す研究成果を2024年9月に公表しました。
この新説によって、こちらも話題の「プラネットナイン」が存在しなくても、太陽系外天体の存在を説明できる可能性があります。
●一般的な太陽系形成モデルと問題点
太陽系の進化を上手く説明する理論モデルとして、「ニースモデル」というものが広く知られています。
このニースモデルは、大昔の太陽系の巨大惑星は太陽に近い位置にあったが、それらが外側へと移動して現在の位置に至ったとする仮説です。
このモデルが広く知られているのは、現在の太陽系が持つ巨大ガス惑星の分布や、小惑星帯や外縁天体の分布を自然に説明できるためです。
さらには今から38億年~41億年前に地球と月を含む、太陽系岩石惑星とその衛星を高頻度の天体衝突が襲ったとされる「後期重爆撃期」の発生メカニズムも、巨大惑星の移動が原因と考えれば自然に説明できます。
しかしニースモデルでは、近年の観測技術の進歩と共に発見されつつある「特異な軌道を持つ太陽系外縁天体」の説明は困難です。
特異な軌道を持つ外縁天体とは具体的に、例えばセドナのように非常に細長い公転軌道を持つものや、軌道傾斜角が60度を超えるほど極端に傾いたもの、さらにはそれらが太陽を中心として特定方向に集まったグループなどがあります。
○プラネットナイン仮説
これらの特異な外縁天体を説明する仮説として有名なものに、「プラネットナイン仮説」があります。
地球質量の数倍程度の惑星が特定の軌道で公転していれば、その重力的な影響で特異な外縁天体の軌道を説明できるというのです。
予想されるプラネットナインの公転軌道はご覧の通りで、地球や太陽から400~800auの位置を公転しており、その公転周期は1~2万年であると見積もられています。
また、プラネットナイン自体の質量は地球の5~10倍、直径は地球の2~4倍であると推定されていて、大きさや組成は巨大氷惑星である天王星や海王星と似ていると考えられています。
●恒星フライバイ仮説
プラネットナインは懸命な調査にもかかわらず、現在に至るまで未発見のままです。
プラネットナインはそもそも存在せず、特異な外縁天体の形成には何か他の原因があった可能性も否定できません。
そんな中ドイツのユーリッヒ研究センターのチームは、プラネットナイン仮説の代替理論となる可能性のある「恒星フライバイ(近接通過)仮説」ついての研究成果を2024年9月に公表しました。
チームはコンピュータシミュレーションによって、現在の太陽系の特徴をよく再現できる様々なパターンのフライバイを検証しました。
検証の結果、0.8太陽質量の恒星が太陽から110AU(約165億km)の地点まで接近して通過していた場合が、太陽系外縁天体の特異な軌道を最もよく再現できたようです。
110AUというと、海王星までの距離の4倍未満で、現在のボイジャー1号、2号よりも近い位置なので、恒星間の距離と考えればまさに「超至近距離」を通過したと言えます。
またこのフライバイは、太陽がまだ誕生時の高密度な星団にいた、非常に初期に起こったそうです。
特に星が形成される高密度の星団では、従来の予想よりもかなり高頻度で恒星フライバイが発生していることがわかってきています。
○不規則衛星との関連
そしてこの恒星フライバイ仮説によって、ガス惑星に見られる、規則的な性質を持つ衛星(規則衛星)とは異なる特徴を持つ「不規則衛星」の存在を上手く説明できるかもしれません。
土星を例にあげて見てみると、土星に近い領域には同じような面でかつ綺麗な円形で公転する「規則衛星」が存在しています。
それに対して不規則衛星は土星からの距離が遠く、平均公転距離が1100万kmから2600万km、そして公転周期は1年から4年にもなります。
地球に対する月の距離が約38万kmで、公転周期が約27日であることと比べると、非常に遠く、長い周期で公転していることが分かります。
また、離心率が大きく、潰れた楕円形の公転軌道を描いているのも特徴的です。
不規則衛星の公転軌道は、内側の規則衛星の軌道面と比べて傾いています。
このような衛星は他のガス惑星にも見られ、惑星から離れた別の場所で形成され、その後惑星の重力で捕らえられたものだと考えられていますが、そのきっかけが「恒星フライバイ」である可能性が示されています。
研究チームのシミュレーションによると、恒星フライバイで軌道を乱された外縁天体のうち一部は太陽系の内側へと侵入し、その後木星や土星、天王星、海王星に衛星として捕獲されたようです。
恒星フライバイ仮説はプラネットナイン仮説の代替理論として今後受け入れられる可能性がありますが、直ちにプラネットナインの存在を否定するものではありません。
今後プラネットナインが実際に発見され、恒星フライバイ仮説が無効となる可能性もあります。
しかし恒星フライバイ仮説も一定の根拠があり、可能性を検証する価値のある仮説と言えそうです。
謎多き特異な太陽系外縁天体はどのように形成されたのか、今後の展開が楽しみな分野です。