お笑い芸人の「iDeCoは政府が嫁から守ってくれる」は本当?もっとすごいところで国が守ってくれるかも
政府が嫁からiDeCo資産を守ってくれる?
仕事がら、iDeCoやNISA関連情報を収集しているのですが、「iDeCoは政府が嫁から資産を守ってくれる」という記事が飛び込んできました。
お笑いコンビ「流れ星☆」のたきうえ(瀧上伸一郎)さんがABEMA「2分59秒」という番組で発言した言葉が記事になったようです。
5/6 スポニチアネックス 流れ星☆たきうえ 離婚時に思わぬ恩恵受けた制度 「政府が嫁から守ってくるんですよ」
この話、面白い話題ということでスポニチさんにも取り上げられたわけですが、iDeCoの良さを指摘しているようでいて、ちょっと説明不足のトークに見えます。もしかすると、短い番組のトークの一部を切り抜いたのかもしれません。
本当に、iDeCoは政府があなたのお金を、離婚した妻から守ってくれるのでしょうか。
iDeCoは60歳まで解約できず、担保にも取られない
まず、iDeCoは個人型確定拠出年金という制度です。その名の通り、「年金」としての活用を前提としています。「60歳まで政府が守る」の根拠です。
iDeCoに積み立てたお金は中途解約が基本的にできません。国民年金保険料も免除されるほど経済的に困窮している場合などの限定的な条件下でのみ解約チャンスが得られますが、それも金額要件も厳しく少額の場合に限られます。
過去20年を遡っても、3.11の大震災のあとに期間限定で解約する特例が設けられたことがある程度です。このときも無職の状態にあって一定金額以下が受取の条件となるなど、かなり限定的でした。
そしてもうひとつ、確定拠出年金の資産は担保として取られないという法律があります。確定拠出年金法には、確定拠出年金の資産は担保に取ったり差し押さえができないと明記されているのです。
しばしば、中途解約ができないことは不便で使い勝手の低い仕組みだといわれるiDeCoですが、むしろ「老後の虎の子の財産」としてキープできる仕組みが整っている、ともいえます(なお、解約の条件は企業型の確定拠出年金も同様)。
60歳まで解約できないのと財産分与の対象となるかはちょっと違う
ここまでの説明を読む限りは、「なるほど、離婚したときiDeCoの財産が守られるというのはこういうことか」と思うかもしれません。しかし、話にはまだ続きがあります。
今度は離婚時の財産分与の原則のほうを確認しておきます。
離婚時には財産分与が行われます。簡単にいえば婚姻期間中に形成された財産については原則として半分こにして別れようという考え方です。
結婚しているあいだに定期預金が1000万円増えたのであれば夫婦が500万円ずつ、投資信託が1000万円増えたのであれば500万円ずつ、離婚時には分けてさよならをします。このとき、どちらの名義で保有されているかは問題となりません。
家を買って夫の名義であったとしても、その価値を半分に割って(ローン残債があればそれも加味して)、財産分与に乗せます。
結婚前にそれぞれが持っていた財産は分与の対象外です。結婚するとき預金残高が最初から1000万円あったのならそれは財産分与の対象ではなく、結婚以降に増えた分のみを離婚時の財産分与対象とします。あくまで「結婚していた期間に得られた財産」を考えるわけです。
このとき、「今は手にすることのできない財産だが、お金をもらう権利が存在するもの」があります。60歳までもらうことのできないiDeCoがまさにそうです。それ以外にも保険でお金を積み立てていたり、会社の退職金(企業年金)であったり、小規模企業共済など国の制度であったり、積み立てている資産があっても今はお金を受けられない仕組みがあります。
今はもらえないからノーカウントとしていいのかというと話はそう簡単ではありません。それぞれをリスト化していくと1000万円を超えることもあるからです。これではもらえないから分与対象外とするわけにはいきません。
一方で、今500万円の価値があったとしても、今すぐ解約すると減額されるもの(保険契約など)があったり、結婚前に獲得していた退職金相当額を明確に判定できないことがあったりして、離婚時の財産権が不明確なこともあります。
このあたりは、原則として分与対象としつつ、正確な金額については財産権に関するデータを示しつつ、落とし所を判定、無理に解約はせず現金で精算するのが一般的です(納付した保険料や掛金、受取に関する規程等を確認していく)。
男性のほうに退職金の権利が1000万円あって、婚姻期間中に増えた分が800万円相当であったとすれば、退職金はまだもらえないわけですから、現金で400万円を精算して財産分与とする感じです。
元記事の離婚時の財産分与については当事者間の話ですから、不明ですし立ち入ることではありませんが、おそらくは婚姻期間中に積み立てられたiDeCoの掛金の半額に相当するくらいを、他のところで財産分与されたのではないかと思います。
記事を見る限り、不動産や太陽光発電の施設などもお持ちのようですから、ローン残債と資産価値を相殺したり、将来的に生み出す価値も勘案しながら分与額を決めたはずで、iDeCoの資産額がそこに含まれていないとは考えにくい気がします。
「政府が嫁から全額守ってくれた」は、iDeCoの残高は守られていた、という意味合いであり、たぶんトークの中で口がすべったということではないでしょうか。
ちなみに財産分与の対象は、公的年金にも及びます。国民年金相当分は誰もが加入しなければいけないもので金額の差は夫婦でありませんから分割しません。しかし、夫婦が厚生年金に加入していた分については折半して老後に受け取る離婚時の年金分割の仕組みがあり、合理的に財産分与されます。
例えば夫が月50万円、妻が月20万円で働いて厚生年金保険料を納めていた場合、婚姻期間中はそれぞれ月35万円で保険料を納めたものとして将来の年金額に反映されます。「将来の年金額が、男のほうが多くもらえる」とはいかないようになっているわけです。
政府が守ってくれるシチュエーションがもうひとつある それは自己破産してやり直すとき
それでは、iDeCoは政府が守ってくれないのか、というと、実はもっとすごいところで、しかも強く守ってくれるシチュエーションがあります。
それは、「自己破産などをしたとき」です。
会社を起業して大失敗した、クレジットカードを何枚も作って上限まで使って返せなくなった……いろんな状況があるものの、自己破産をして人生をやり直すことがあります。
このとき、返せるお金はとにかく全財産で返し、一定割合を返済する計画を立てて、そこで終わりとするわけですが、退職金や生命保険は減額されたとしても受け取って返済の足しにするのが一般的です。
仕事の失敗などで人生の再スタートをしたとき「無一文からの再出発」とよくいいますが、それはこういうことです。
退職金については自己破産時にまだ働いていたかによって評価額が異なり、すでに会社を辞めていれば退職金の全額が、自己破産手続き中に退職予定であれば4分の1相当が、働き続けながら自己破産を目指す場合は8分の1相当が、財産処分の対象となるようです。
ところが、iDeCoは「60歳まで受け取れない」し「担保・差し押さえはできない」という仕組みでしたので、ここでは減額の対象とはなりません。
iDeCoに積み立てたお金は、全額が守られて老後のために残すことができるわけです。(※注:受給時点で国税の滞納があった場合は、納付義務が生じうる)
人生において自己破産することはほとんどありません。しかし、「iDeCoは政府が守ってくれる」は意外なところで真実であり、あなたの老後を支える強い力となってくれているのです。