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8月3日は熱帯夜という用語を作った倉嶋厚の熱帯夜忌 東京では明治期の年間1日から年間30日以上に

饒村曜気象予報士
寝苦しそうなミドル女性(写真:イメージマート)

熱帯夜忌

 お天気キャスターの森田正光さんは、先輩で目標でもあり、親交が深かった倉嶋厚さんの亡くなった8月3日を「熱帯夜忌」として提案しています。

引用:森田正光(令和4年(2022年))、気象予報士という生き方、イースト・プレス。

倉嶋さんは1年のうちで最も暑さの厳しい平成29年(2017年)8月3日にお亡くなりになりました。俳句の世界では、亡くなった方を偲ぶために「〇〇〇忌」と名付け、後世にその業績を伝えようとします。私は倉嶋さんが亡くなられた8月3日を、「熱帯夜忌」として、記憶に留めています。

 倉嶋厚さんは、NHKのお天気キャスターとして、日本の気象業界、特に気象解説の分野で多大な影響を与えた人で、その代表が森田正光さんの気象解説です。

 倉嶋厚さんの気象庁時代、気象庁予報課主任予報官として週間天気予報の責任者であった昭和55年頃(1980年頃)に、同じ予報課の短期予報担当者として接する機会がありました。

 私のような駆け出しの人間に対しても、自らが丁寧に話しかけるなど、多くの人にいろいろな情報を提供しています。

 そして、熱帯夜(最低気温が25度以上)など、気象解説のための表現をいろいろと考案されています。

 また、「光の春」という表現は、ロシア語に堪能であった倉嶋厚さんがロシア語の表現を日本語に翻訳したものです。

東京で最初の熱帯夜

 東京で気象観測が始まったのは、明治8年(1875年)6月5日からですが、最初に熱帯夜を観測したのは、明治14年(1881年)8月13日で、日最低気温は25.4度でした。

 東京気象台(中央気象台をへて現在の気象庁)が天気図を作って暴風警報を発表する業務を開始したのが、明治17年(1884年)6月1日、天気予報を始めたのが翌年3月1日ですから、初の熱帯夜がどのような気圧配置の時だったかなど、詳細はわかりません。

 ただ、明治期の熱帯夜は観測しない年も多く、年平均の日数は1~2日でした(図1)。

図1 熱帯夜の年間観測回数の推移
図1 熱帯夜の年間観測回数の推移

 それが、平成3年(1991年)以降では、年間30日くらいと急増しています。

猛暑継続

 令和5年(2023年)は、7月末から太平洋高気圧の強まりによって記録的な暑さとなっています。

 令和5年(2023年)に一番気温が高かったのは、7月27日に大阪府・枚方で観測した39.8度で、次いで、7月26日の埼玉県・鳩山と7月16日の群馬県・桐生の39.7度で、あと少しで40度の大台でした。

 今年一番多くの猛暑日を観測したのが7月27日の251地点(気温を観測している913地点の約27パーセント)、一番多くの真夏日を観測したのが7月29日の847地点(約93パーセント)、一番多くの夏日を観測したのが7月28日の911地点(約100パーセント)でした。

 8月にはいると、太平洋高気圧が少し弱まってきましたが、西~北日本は太平洋高気圧に覆われて晴れる所が多く、強い日射によって気温が上昇しています。

 8月2日に全国で最高気温35度以上の猛暑日を観測したのが192地点(約21パーセント)、最高気温30度以上の真夏日を観測したのが790地点(約87パーセント)、最高気温25度以上の夏日を観測したのが908地点(約99パーセント)と、ピーク時に比べれば少なくなっています(図2)。

図2 夏日、真夏日、猛暑日の観測地点数の推移(4月1日~8月2日)
図2 夏日、真夏日、猛暑日の観測地点数の推移(4月1日~8月2日)

 しかし、依然として高い値であることには変わりがありません。

東京の猛暑日と熱帯夜

 令和5年(2023年)の東京は、7月末までに猛暑日を13日観測しています。

 東京で猛暑日が一番多かったのは、令和4年(2022年)の16日ですので、予報通りに8月3日~6日が猛暑日になれば、年間猛暑日の日数が17日となり、新記録となります(図3)。

図3 東京の最高気温と最低気温の推移(8月3日~9日は気象庁、8月10日~18日はウェザーマップの予報)
図3 東京の最高気温と最低気温の推移(8月3日~9日は気象庁、8月10日~18日はウェザーマップの予報)

 また、最低気温は、8月3日から予報が発表されている8月18日まで16日連続で25度以上の予報です。

 少なくとも16日連続の熱帯夜ですので、予報通りなら令和5年(2023年)の熱帯夜は33日以上ということとなり、令和になってから一番多い熱帯夜の年になりそうです。

 ただ、平成22年(2010年)には、熱帯夜が56日という記録があります。

沖縄近海の台風6号

 大型で非常に強い台風6号は、速度を落としながら沖縄本島と宮古島の間を通過し、東シナ海に入ったあとさらに減速し、8月4日頃からは向きを東に変える予報となっています(図4)。

図4 台風6号の進路予報と海面水温(8月2日21時)
図4 台風6号の進路予報と海面水温(8月2日21時)

 台風6号は強まってきた太平洋高気圧に行く手を妨げられて北上を続けることができず、向きを次第に北西から西に変えて沖縄近海を進んでいたのですが、その太平洋高気圧が少し弱まってきたため、台風を中国大陸へ押し出す上空の風も弱まってきたためです。

 台風6号が進む海域は、台風が発達する目安となる27度を上回る28度以上ですので、台風は非常に強い勢力を維持したまま進む見込みです。

 暴風域に入る3時間ごとの確率をみると、暴風域に入っていた沖縄本島南部では、8月3日未明には確率が一桁となり、ほぼ暴風域は抜けると考えられます。

 しかし、8月5日には再び確率が高まり、8月5日夕方から夜の初め頃には43パーセントとなっています(図5)。

図5 台風6号の暴風域に入る確率(上は鹿児島県奄美地方南部、下は沖縄県本島地方南部)
図5 台風6号の暴風域に入る確率(上は鹿児島県奄美地方南部、下は沖縄県本島地方南部)

 これは、一旦遠ざかった台風6号が再び接近してくることを示しています。

 また、鹿児島県奄美地方南部では、8月5日明け方から暴風域に入る可能性が高くなり、8月6日の朝には78パーセントとピーク値となっており、この頃に台風6号が接近すると考えられています。

 台風の動きが遅いために、沖縄本島ではすでに200~300ミリの雨が降っており、さらに100~200ミリの雨が予想されています。

 沖縄地方では8月3日にかけて、暴風や高潮、土砂災害に厳重に警戒し、低い土地の浸水、河川の増水や氾濫に警戒してください。

 太平洋高気圧が強まれば更なる猛暑、弱まれば台風6号の西日本接近と、どちらにしても大変なことになりそうな今週末になりそうです。

図1の出典:気象庁ホームページをもとに筆者作成。

図2の出典:ウェザーマップ提供資料をもとに筆者作成。

図3の出典:気象庁ホームページとウェザーマップ提供資料をもとに筆者作成。

図4の出典:ウェザーマップ提供。

図5の出典:気象庁ホームページ。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2024年9月新刊『防災気象情報等で使われる100の用語』(近代消防社)という本を出版しました。

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