大手私鉄の列車種別、なぜ複雑になったのか? 京急「エアポート急行」→「急行」から考える
京急電鉄は、11月25日のダイヤ改正で、列車種別「エアポート急行」を、「急行」とすることにした。ちなみに、「エアポート」ではない「急行」は、現在は存在しない。
なぜ、「エアポート急行」から「エアポート」が取れてしまうことになったのか、考えてみたい。そしてその上で、大手私鉄の列車種別はなぜこんなにも複雑になってしまったのかということを問いたい。
羽田空港を発着駅とする列車、だけど
現在の「エアポート急行」は、羽田空港第1・第2ターミナルと品川方面、または横浜方面とを結ぶ列車に使用されている。羽田空港直結をうたい文句とする列車、ということになっている。形だけは。
だが羽田空港第1・第2ターミナルと京急蒲田との間では各駅に停車する列車であり、その他の区間でも「特急」より停車駅が多い列車となっている。しかも羽田空港~京急蒲田間は、「特急」でも各駅に停車する。「快特」以上でないと、空港線内の各駅を停車せず、速達性に欠けるのだ。なお横浜方面から京急蒲田を経由し、羽田空港に向かう「快特」はない。(訂正。時間帯によっては「快特」「特急」もごくわずかにある)。
「エアポート急行」は、2010年5月に登場した列車種別である。となると、もともとは「急行」があったのではということも考えられる。しかしこれ以前の「急行」は、羽田空港発着の品川方面と行き来する列車だった。
ちなみに1999年7月までは、京急本線でも停車駅の多い中間程度の列車種別として存在していた。
現在の「エアポート急行」は、空港アクセスだけではなく、現実には京急線内の「快特」「特急」を補佐する列車として運行されているという側面が強いのだ。通過駅こそあるものの、「快特」「特急」ほどの速達性はなく、地域住民の輸送を行うための列車種別となっているのが現状だと考えられる。
その意味では、「エアポート急行」を「急行」にしてしまうのは、よかったのではないかと考えられる。これで、品川から横浜・久里浜方面へ向かう中間的な列車種別を、将来つくることも可能になるのだから。
ややこしい列車種別
とかく、大手私鉄の列車種別は細かい。「快速」があったり「準急」があったり、「区間急行」なんていうのもある。「普通」と「各駅停車」を使い分けている南海電気鉄道のような例もあるのだ。
また、ラッシュ時にしか使用されない列車種別や、ラッシュ時には見られない列車種別というのもある。たとえば、京王電鉄では朝ラッシュ時に上り「急行」が多いと思うと、昼間には「区間急行」が多く、その時間帯には「急行」の存在感はないということもある。
単に速達型列車と各駅に停車する列車を区別するのではなく、中間の列車種別をいくつもつくり、利用客のニーズに合わせて停車駅を細かく変えているというのが大手私鉄の列車種別である。
朝ラッシュ時上りメインの列車種別を設けている西武池袋線のような極端な例もあるのだ。
緩急接続や、複々線を意識し、細かく列車種別を把握していれば上手に乗りこなせる一方で、そのあたりがわからないと上手に列車に乗れないという現実もある。
しかもラッシュ時には、鉄道会社によっては上位の種別の列車が走らず、ふだんは存在感が低い中間的な列車種別がメインとなることもある。
複雑化してきた列車種別
基本的に、列車種別は速達型と各駅停車型の2種類で問題はないはずである。緩急接続が上手に行われていれば、どの駅からでも便利に乗れるものである。
しかし実態はそうではない。「区間急行」「準急」「快速」といった上下のわからない種別があるものだ。地下鉄に乗り入れることをメインにしたり、遠距離の利用者と近距離の利用者を分離したり、区間によっては各駅停車にしたりするために存在する列車種別である。
いっぽう、ラッシュ時対応や、深夜帯対応のための種別というのもある。
利用者の要望に対応すべく複雑化してきた結果が、現在の列車種別である。
役割の多い京急「エアポート急行」
その意味では、京急電鉄の「エアポート急行」は、「エアポート」の名前だけにとどまらない役割を果たしてきた。空港線内のみの輸送、京急蒲田以南での「特急」以上の列車と「普通」との橋渡し、逗子・葉山方面への輸送。中間的な存在ゆえに複数の役割を背負うことになり、「エアポート」だけではない仕事が多すぎるのだ。
同じ「エアポート」を冠する「エアポート快特」が、都心部や品川と羽田空港エリアを直結するのに特化していることを考えると、同じ「エアポート」でも内実はかなり異なるのである。
「エアポート急行」が単なる「急行」になるのは、妥当ではないだろうか。同時に、複雑化してきた大手私鉄の列車種別を、考え直す必要も感じさせられるものである。