ジャニーズが消え、K-POPが増えた『紅白』──データで読み解く2023年『紅白歌合戦』
姿を消した旧ジャニーズ
大晦日を迎え、今年も74回目の『NHK 紅白歌合戦』が放送される。
今回注目されるのは、昨年は白組22組中6組(27%)を占めていた旧ジャニーズ勢が、性加害問題によって姿を消したことだ。白組(男性陣)の姿は様変わりしたこととなる。
では、そんな『紅白』は客観的に見ると捉えられるのか? さまざまデータを用いて『紅白』の実態を可視化した。
初出演は4組増の17組
まず、今年の出演者をおさらいしよう。特別出演も含め今年は52組となった。昨年から1組増えたが、2部制となった1989年以降の『紅白』の出演者は50組前後で推移しており、大きな変化ではない。
出演回数をカウントすると、今年は以下のようになる。5回以下が64%、6回以上が37%となっている。初出演は昨年よりも4組多い17組(33%)で、これは1991年(23組)以来の高い水準だ。Mrs. GREEN APPLEやSEVENTEENなど白組の初出場は9組で、旧ジャニーズ勢の不選出の影響がここに表れている。
今年も最多出演者は、46回となる石川さゆりだ。歴代4位の記録だが、北島三郎と五木ひろしの50回に年々迫っている。現在65歳なので、十分に上回る可能性がある。
そんな石川には『紅白』における〝法則〟がある。2007年以降、奇数年に「津軽海峡・冬景色」、偶数年に「天城越え」と交互に歌い続けており、奇数年の今年はやはり「津軽海峡・冬景色」だった。“石川さゆりの法則”は今年も発動した。
出演回数の推移を見れば、2010年代中期から生じた新陳代謝が順調に進みつつある。ベテラン勢の退場は一段落したが、5回以下の新人・若手が増える傾向は続いている。とくに今年は旧ジャニーズ勢の不選出によって、初出演組が増えた。1990年代中期から2010年代中期まではベテラン勢が多く、そこから意図的に世代交代をしようとする意図が感じられる。
新曲の割合は50%
次に、パフォーマンスされる曲について見ていこう。『紅白歌合戦』では、3つの選考基準を設けているが、そのひとつが「今年の活躍」だ。CD売上やストリーミングの再生数、カラオケ、ライブなどのデータを参考にするとされている(NHK「選考について」)。
以上を踏まえると、当然のことながら新曲が披露されることが考えられるが、近年の『紅白』はそうでもない。メドレーは増え、演歌勢のように過去曲を何度も歌う歌手もいる。今年も新曲の割合は50%にとどまる(昨年は51%)。
60年代から90年代までは、そうではなかった。披露されるのは新曲ばかりで、その年のヒットが集まる場が『紅白』だった。しかし、たとえば今年であれば、寺尾聰「ルビーの指環」(1981年)や藤井フミヤ「TRUE LOVE」(1993年)などの過去曲もラインナップに入っている。おそらく現在は音楽に親しみのない中高年層向けに「懐メロ」を配置しているのだろう。
また現在はストリーミングサービスやYouTube、TikTokによって、過去曲がいきなりヒットすることもある。今年で言えば、新しい学校のリーダーズの「オトナブルー」(2020年5月発表)がそうだ。
65歳以上は過去最多タイ
一方、出演者の世代はどうだろうか。
34歳以下を若年層、35~54歳までを中年層、そして55歳以上を高年層とすると、それぞれ39%:29%:27%となる。年齢非公開は3組・6%だが、おそらくこのうち2組は若年層だと推定される。よって出演者の43%が若者だと言える。
最年長は76歳の寺尾聰、最年少は平均17.6歳のNewJeansだ。
経年的に見てもこの傾向に大きな変化はない。ただ65歳以上に限れば、今年も昨年と同じ7組となった。これは過去最多タイだ。郷ひろみや伊藤蘭、鈴木雅之もここに含まれる。むかしのアイドルや「ニューミュージック」と括られていた若者が、高齢層となっている。
演歌勢には思ったほど高年層が多くない。55歳以上は石川さゆりと天童よしみ、坂本冬美の3人に限られ、ほかは35~54歳の中年層に純烈、水森かおり、山内惠介、三山ひろしの4人がいる。
以前は「年寄り向けにベテランの演歌歌手」といった向きがあったが、北島三郎も五木ひろしも森進一も出演しない現在においては、単に「演歌枠」が残っているだけとなっている。
ベテラン演歌勢が退場しても、今年の出演者の平均年齢は42.3歳と過去最高を記録した。
近年は上げ止まっていた平均年齢が再び上昇に転じたのは、旧ジャニーズ勢が不選出となったからだ。紅組と白組をそれぞれ見ればそれは明らかだ。紅組は36.7歳なのに対し、白組は過去最高45.5歳となった。両者の差は約9歳もある。
消えたジャニーズ、増えたK-POP
そしてあらためてここで触れておかなければならないのは、旧ジャニーズ勢の不選出だろう。昨年は6組が出場していたが、今年はそれがゼロになった。
2011年まで、旧ジャニーズの出演者は2~4組で推移してきたが、2012年以降は5~7枠にまで増えた。もっとも多かったのは、SMAPと嵐が最後に同時出演した2015年の7組だった。近年は、KinKi KidsやKAT-TUNがヒットと関係なく功労的に出演することもあったほどだ。
そんな旧ジャニーズ勢が消えたのに対し、増えたのはK-POP勢だ。今年は、SEVENTEEN、MISAMO、Stray Kids、LE SSERAFIM、NewJeansの5組に加え、K-POPのプロダクションが日本でプロデュースするJO1とNiziUが選出された。
昨年から2組増えて、総勢7組となった。これは過去最多だ。白組の旧ジャニーズ勢の6枠のうち、SEVENTEENとStray Kidsで2枠を埋めた印象だ。
またこれらのK-POP勢で押さえておくべきは、日本出身者のグループが目立つことだ。MISAMO(TWICE)の3人全員、LE SSERAFIMのサクラ(宮脇咲良)とカズハがそうだ。K-POPのグループが多国籍であることはもはや珍しくないが、そのなかでもっとも多くを占める日本出身者のグループの成功例が目立ち、それがこうして『紅白』にもつながっているのである。
旧ジャニーズ不選出によって高齢化
歴史を振り返れば、『紅白』でもっとも若者が多かったのは、1960年代後半から1970年代前半にかけてだ。オイルショック直前で日本の高度経済成長が終盤を迎えつつあった当時は、戦後すぐに生まれたベビーブーム世代(団塊の世代/1947-1951年生まれ)が成人を迎えたあたりでもある。たとえば和田アキ子(1950年生まれ)やにしきのあきら(錦野旦/1948年生まれ)が初めて出演するのは、1970年のことだ。
日本も『紅白』も、これ以降に徐々に高齢化していく。日本人口と『紅白』出演者の平均年齢は、同じように上がっていく。
そこに変化が見られたが、2010年代中期以降だ。日本人口の平均年齢はそのまま上がったのに対し、『紅白』出演者の平均年齢は上げ止まる傾向を見せていた。ただ、旧ジャニーズ勢が姿を消すことで今年の出演者の平均年齢は過去最高になってしまった。
旧ジャニ勢とは好対照のYOASOBI
最後に、『紅白』がどれほど音楽人気を反映しているかを確認するために、BillboardチャートのArtist 100とそのラインナップを比較してみよう。すると、昨年ほどの音楽人気の反映がないことが明らかとなる。
この要因のひとつも旧ジャニーズ勢の不選出に求めることができる。具体的には、Artist 100で9位のKing & Prince、14位のSnow Man、30位のSixTONES、36位のなにわ男子などが出演しない。そこを2位のMrs. GREEN APPLEや10位のSEVENTEEN、11位のNewJeans、13位のStray Kidsなどでカバーしたという印象だ。
旧ジャニーズ勢の不在は、ファンだけでなくいまも地上波テレビを中心としたメディア聴取をする音楽ライト層へ影響する可能性がある。配信をほぼしていない旧ジャニーズ勢は、放送・CD・雑誌を支配したからこそ強大な力を持つにいたった。テレビと音楽が密接な関係を持っていた時代は終わりに向かっているが、しかしまだまだ過渡期であるのも事実だ。
一方で、今年『紅白』で大きくフィーチャーされるのはYOASOBIとNewJeansだ。動画や音楽のストリーミングを通じてグローバルな人気を獲得したこの二組は、旧ジャニーズとは好対照の存在でもある。
旧ジャニーズが不在の『紅白』は、どのような内容となり、そしてどのような結果を見せるのか。それは今後の日本の音楽状況を占ううえでもとても興味深い。
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